あるきだす言葉たち      朝日新聞夕刊より
 
 
 
みむら りょうしょう   
1992年横須賀生まれ  「銀化」同人 「群青」編集長    東大文学部中文科3年
 
 
 
廣重
 
 
頂上の風にハンカチ広げけり
 
本丸の跡ぽつかりと青嵐
 
更衣廣重の絵に雨が降る         廣重/ひろしげ
 
葉柳や古美術店の戸の狭き
 
宝くじ売場の隅の扇風機
 
抽斗に香水瓶のかちあへる        抽斗/ひきだし
 
卓上を滑るトランプ明易し
 
テーブルに麦茶の影の琥珀色      琥珀/こはく
 
水よりも速く索麺流れ来る         索麺/そうめん
 
物陰に水鉄砲のゐる気配
 
菓子の名は松風といふ夏座敷
 
巻き上がる蓮の葉裏の白さかな
 
俯けば胸元に影夏帽子           俯/うつむ
 
黙祷の瞼に汗の重さあり          黙祷/もくとう    瞼/まぶた
 
引きかへすときは足早大夏野