朝日新聞夕刊  あるきだす言葉たち
 
 
飛岡 光枝/1957年東京生まれ  「古志」自選同人  句集「白玉」(花神社)
 
 
春塵
 
起き抜けの氷の火箸炭熾す     熾/おこ
 
寒鮒の棒の一本浮き沈み
 
竹林に霰降り込む音すなり
 
雪よりも白き饅頭ふかしをり
 
春節や赤き棗をあさの粥        棗/なつめ
 
文のごと結んで針魚碗の中
 
白鳥の汚れてバレンタインの日
 
竹籠のゆりかご揺るる春の風
 
大根の影に陽炎立ちにけり
 
幼子の箸の上手や蒸鰈        蒸鰈/むしがれい
 
かさこそと紙の雛を飾りけり
 
白魚に淡き紅さし雛の膳
 
紙雛猫が倒してゆきにけり
 
またひとつ何か弾けし春炉かな
 
いきいきと春の塵舞ふ虚空かな