起きてはコップ一杯の 昨夜煮出した麦茶を飲み

じゃあじゃあと飛沫を散らし 虫歯を隠蔽しながら歯を磨き

あとは水道の排水溝に全てを任せ 家を出る


沿岸部ではないのに津波警報で自らを煽り

後は黙々むしゃくしゃと 昼の軌道に任せてコーヒー飲むは、

煙草のニチャつきを数杯のおひやで鎮火させては

目指すのはハーブディー屋

いがいがに効くお茶を探しているんですが…?
「人体の90%は水でできていますから、ハーブティーだったら
沢山摂取できて、デドックス効果も…」とのアドバイスにもすっとぼけ
 

だっくり帰路をたどり

温浴効果があるのかどうかも不明瞭な いつもおんなじ気休め青緑

束の間の虚脱浴槽に信じ浸る。



己を呑み込む水を忘れ

めまぐるしく水に接す水男


水のなせる そいつが歩いている足跡のない軌跡



腐らせたとき泣きを見るだろ

気づけば あくせくと
いろんなデパートのエスカレーターをはしご

ふともたれかけた ベルトの浅いグレーは

くたびれた気分にしっくりと寄り添って
ゆったりと 僕を
本屋のすそ野におろしてくれた


すすけたエンジ色のベルトは
少し険しかった

深く真面目な紺のベルトは
なんだかきゅうくつだった


動いている階段の上を さらに歩く人は
本当にそんな急ぐ用事があるのかな?


エレベーターは嫌だ いきなりすぎて息苦しい


いつもすっと乗れるエスカレーターは 

めまぐるしい物質主義を斜でみながら

のうのうと午後を運ぶ
一人コーヒーショップ


いつ頃から 珈琲に期待せず

壁掛けの絵にも問いかけず

額のガラスの遠くから
そっと映りこんで照らすランプの明るさを確かめ
安堵する


トイレの鏡に息を潜めるランプの灯りが

知らぬ間にできた 首もとの溝を静かに照らす


 丸く 円く ややくっきりと
空間の喧噪を離れて 想いを訪ねる

 幼い頃に見た 祖母の夏家に佇む
朧げな行灯の明るさがここにある



おばあちゃんにしか作れなかった

あのオムレツが光り出した
月曜がやってきて

昼のおべんとの梅干を食べた時

ほっぺたの後ろ辺りに
 「キュワーン!」 

梅干交響曲のシンバルが鳴り響いた


先週の土曜に 温泉の健康測定器で判明した
弱酸性の聴衆は 急に全身をそばだてて

酸っぱいけど この展開は
酸イ短調なのか アルカリト長調なのか 分からぬまま

口の中に広がる 第二楽章パイプオルガンの
荘厳な響きに 身を任せ ご飯をかきこむ


夜の流しにコロッと落ちた
演奏後のかけら

口の中で転がりまくった
梅干交響楽団は弦がしわくちゃ



ああ 見ていたら
第三楽章が 始まりそう…

そろそろ雑誌も読み終えたことだし、台所に立とう。


軽快でするすると流れるアルトサックスを聴きながらすれば、
洗い物がもう一つのライブになる。


皿シンバルは、濁りと透明の間を行き来する水しぶきをうならせ、

菜箸スティックが、つんのめり気味なバックビートでたらいの淵にブツカリナガラ、

ジャリじゃらと水切りに次々と飛び込むのが爽快だ。


ぐいぐいぶんとテンポを上げるベースにつられて、

コップの飲み口をギュルっと回すスポンジも加速。

フライパンや鍋は、全体のやや後半にさしかかったあたりに、

一気にジョバっと洗えば、真夜中のシズル感を高揚してくれる。


最後にタッパーから流れ落ちる滝からは、観客が拍手をしながら、

コピャパチャコツコツ1人、2人と客席をシタタリ落ち、

夜の小アドリブに濡れたスーツを乾かしながら、家路に向かう。

ステンレスのホールをギュルっと磨けば、そろそろ閉店。




テーブルを振り返ると、コーヒーの飲みかけがまだあった…

気乗りのしない追加の洗い物は、音楽にならない。


演るけど。