俺はポジティブの友人aである。
あいつは暑苦しいほどポジティブだ。が、そんな奴でも居心地は悪くはない。そんな理由でいつも一緒に過ごしているのだった。

「ねぇ、ねぇ。僕何か新しいこと始めたいんだよねぇ!!何がいいかな?歌かな?ゲーム実況とか??
なんならサバイバルしちゃう??何がいいかな?あー、でも、やっぱ人生楽しみたい!!!」

また始まった。こいつの突拍子も無い発言には慣れたつもりだったが、毎度毎度俺は呆れてしまう。

「はぁ?楽しいだけの人生なんかないだろ。苦しみがあって初めて喜びがくるんだよ。すべてがハッピーにいくわけない。」

俺はその都度、そいつに現実を教えてあげるのだった。こいつは夢ばっか見て現実を見ていない。ふわふわとどこかに飛んでいってしまいそうだ。そんでもって、いつの間にか、あはっ、めっちゃいいクスリあるよー!とか言って覚せい剤を進めてきそうな恐ろしさもある。
 いかん、いかん。俺は頭を左右に揺らした。友達としてあいつが安全に生きられるようにせねば。
 そんな俺の心配をよそに、あいつは俺の言ったことをふんふんとかみ砕いているようだった。そして、少し間を置いた後、真面目な顔でこう答えた。

「まぁ、確かにそうかもしんないね。そんな簡単に生きれたら誰も苦労しないもんね。今、君が言ったように現実は厳しいんだね。きっと。」

そいつの顔は優等生のように凜とした顔つきだった。おぉ。伝わったか。こいつと話が通じることは絶滅危惧種並みの頻度だから、俺の心はパッと照らされた。
 あぁ、だから、楽しくないことにもきちんと向き合っていこうな。
 そう答えようとする間際に、そいつは表情筋を操りなんとも揚々とした顔になった。
そして
「え、でもー、それはみんなが辛いって思うだけでしょ?僕は楽しむよ。じゃないと人生つまんないし。生きたくなくなるし。だから、僕に辛いことなんて存在しない!!」

とドヤ顔が言ってのけたのだ。

「はぁぁああああああぁ。」

いつもはもう少し自重している俺のため息が今日は盛大に漏れた。
 そいつは、どうだ!と言わんばかりの顔で俺を見つめる。俺は認めざるを得なかった。こいつには常識が通用しないことに。

「お前になにを言っても無駄だと分かったよ。だけど!何かやるときは俺に伝えてからだぞ!!危ないことだった時のために!!!」
俺は必死に訴える。ここだけは厳守しなければ。
「えー、危ないことくらい自分で分かるよ!!まぁ、君ならいいけど。あ、なんなら一緒にやる??」
そいつは不服そうにしたり、とぼけ顔になったり、しながら答えた。こいつの表情筋はやたらと忙しそうだ。

「やるかよ!!」

俺の小切れの良いツッコミが響く。本当は内容によってやってやってもいいか、という考えがよぎったのだが。ここは、まぁ、ボケとツッコミの役目を優先した。

「えー!!即答!?!?」

俺たちは互いの顔を見て笑い合った。ちぐはぐに見えて俺たちの相性はなかなかいいのかもしれない。