森田ゆりのブログ

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「うつ病と闘った3年の日々からの贈り物」
 心と身体のヒーリング、めい想とアロハ・ヒーリング・ヨーガのこと、スピリチュアルな意識のシフトについて

大阪北区ビル放火大量殺人事件:ジェンダーと暴力

          森田ゆり

連載エッセー「ダイバーシティの今」   部落解放2022年5月号 より転載 

 

 

 

「暴力とは何か」というテーマに取り組み40年になる。その発生メカニズム、予防、介入、回復プログラムの開発と実践に米国と日本の両国で携わり続けてきた。最も身近に起きる体罰という暴力と国家レベルで起きる戦争という暴力の驚くほどの共通点を引き出し、またジェンダーと暴力の諸相を解析してきた。

 

 昨年12月に起きた大阪北区ビル放火大量殺人事件で、24人の命を奪い自らも死んだ谷本盛輝(61)の犯行からは「ジェンダーと暴力」の類型が浮かび上がってくる。

 

 21年前の2001年6月、大阪教育大附属池田小学校に侵入し、小学1〜2年生8人を刺殺し、その他子供と職員15人に重軽傷を追わせた宅間守と共通するものである。私はこの男の背後に、「ジェンダーと暴力」の濃い影を見て、それを明らかにするために、彼の公判に通った。

 

 宅間が裁判で情状酌量を望まず、死刑を希望していたために、弁護側の被告人質問は真実を可能な限り明らかにするという異例の方針でなされた。宅間はありのままの自分の心情をかなり正直に語った。

 そのため子供時代から犯行に到るまでの宅間の経験や内面を有り体に知りたかった私にとって、公判は二度とない稀有な機会となった。(拙著「体罰と戦争:人類の二つの不名誉な伝統」(かもがわ出版2019年)の「ジェンダーと大量殺人—宅間守の場合」を参照)

 大阪ビルの大量殺人事件についても、谷本の裁判を傍聴してジェンダーと暴力の関係をさらに解明する予定でいたが、彼の死によってそれは叶わなくなってしまった。

 

 宅間は元妻たちを暴力で支配していた。3番目の妻から離婚され、接触も不可能になると、彼は自暴自棄になりうつ状態に陥った。彼女を殺す念入りな計画を立てることで抑うつから抜け出すが、しかし成功率が低いので代わりに大量殺人を考え池田小での犯行に至ったことを公判で供述した。

「離婚であなたがどつぼにハマることと大量殺人がどう繋がるのか」と弁護士から聞かれると宅間は「自分の人生を幕引きする代わりに道連れにしてやろうと」と答えた。

宅間の頭の中には大量殺人の幻想が渦巻いていた。暴行の数の多さが男の強さの誇示になると信じていた。

 

 谷本盛輝も2008年に妻に離婚されてから生活が荒れ始めた。離婚の原因は妻の口からは明らかにされていないが、夫のモラハラに悩んでいたことを周辺の人が証言している。腕の立つ職人として信頼されていた板金工場も辞めてしまい、酒浸りになり、貯蓄を競馬に散財し、絶望的になる。

 

 2011年に自殺を考え、「死ぬ時は家族4人一緒だ。道連れにする」と元妻と二人の息子を殺そうと元妻の家に出刃包丁等いくつもの凶器を持って行った。包丁で長男の頭・肩を刺すが抵抗され逮捕。殺人未遂で5年の懲役刑を務めた後も別れた妻子に執着し続けた。

 親の残した家があり、職人としての技術を持ちながらも、自分の生活を立て直すことができないまま、酒浸りの無一文になってしまう。

 1年以上前から「大量殺人」の方法をネットで調べ念入りに準備していた彼は、宅間と同じように一人でも多くを道連れにして死のうとしていた。

 

 妻を暴力や暴言で支配していた夫たちが、離婚後、妻や子を殺して自殺するケースは、しばしば起きている。

 

 2017年長崎県諫早市で2歳の息子を離婚後面会交流に連れて行った母親が元夫に殺された。その後元夫は首をつって自殺した。

 同じ年兵庫県伊丹市で、離婚後面会交流中に父親が4歳の娘を殺害し自殺した。2013年には東京文京区の小学校の校庭で、別居中の父親が9歳の息子と自分に灯油をかけて焼身無理心中をした。いずれも暴力で妻を支配していた夫たちで、別れた妻子への執着を募らせ自暴自棄になっていた。

 

 アメリカではDV加害者が別れた妻子を殺して自らも自殺したケースは、2008年から今日までの14年間に400件起きている。(Center for Judicial Excellence統計)

 

 なぜ彼らは別れた妻子に執着し続け、無理心中を図るのか。

 それはDV加害者の典型的な心理に由来している。

 彼らの自我はパートナーを支配することで保ってきたものだ。

 暴力や暴言でパートナーの優位に立つことで自分の中の根深い劣等感を意識しないできた。だから離婚や別居で支配する相手を失うと自我崩壊を起こしてしまう。酒浸り、ギャンブル、うつ病、絶望と離婚後の生活全般が乱れていく男たちは少なくない。妻も子も自分の所有物のように思ってきたので、離婚、別居となるとしがみついてしまう。

 

 虐待・DVに至っている父親の回復MY TREEプログラムでは、妻から離婚を求められた父親たちに、妻子を手放していくための瞑想訓練をしている。