う「どうしよう・・・、美奈子ちゃん。」

うさぎは、相変わらず、
美奈子の背中に隠れながらいった。

☆★ 先生の素顔 ☆★

美奈子はうさぎの気持ちがなんとなくわかった。

なぜなら、うさぎの声には
戸惑いとうれしさが入り混じっていたから。

美「うさぎちゃん。」
美奈子はうさぎにささやきかけた。

美「チャンスじゃない。」
そんなことばを、美奈子は続けた。

美「うさぎちゃんの体調の件で、
先生たち、心配してくれて、
うさぎちゃんを食事に誘ってくれたのよ。
おかげで、あたしもお付き合いで誘ってもらえたし。」
美奈子の声はすっかり弾んでいた。

うさぎと美奈子がそんなひそひそ話をしているため、
3人は怪訝な顔をしていたが、
美奈子はそんなムードを吹き飛ばすべく、
明るく言った。

美「せっかくのお誘い、乗らせていただきまーす♪」

*****

そして5人は、大気の運転する車で
マンションへとたどり着いた。

きれいなマンションに、
うさぎと美奈子は若干緊張気味だった。

大「では、わたしは、食材の買い出しに行ってきます。
星野、夜天、お2人のお相手をお願いいたします。」
大気は、そう言いおいて、買い物に行ってしまった。

星「何かみるか?」
星野はそう言いながらTVをつけた。

星野と美奈子、そしてうさぎはいろいろと
チャンネルを変えながら、何を見ようか、
いろいろとはしゃいでいた。

夜天は、うるさいのがあまり好きではないし、
3人がTVに夢中なすきに、そっと部屋に戻った。

*****

そっと部屋に戻った夜天は、
先日の人物画の課題が
机の上にあるのに目を止めた。

そういえば、あの2人が組んでかいていたっけ、
先日と同じように、そのことを思いだした。

夜天は、おもむろに
スケッチブックと鉛筆を取り出した。

そして、リビングの扉をそっと開け、
TVに夢中になっているうさぎの
横顔をスケッチし始めた。

正直言って、なぜこんなことをしているのかも
よくわからないし、
こんなところを誰かに見られたら、
変質者扱いをされるにきまっている。

それでも、この時の夜天は
うさぎの絵を描きたかった。

もちろん、短い時間でさっとかいたから、
出来はあまりよくないけれど。

*****

やがて戻ってきた大気は、
夕食の支度を始めた。

うさぎも美奈子も最初は手伝おうと思ったのだが、
2人の壊滅的な料理の腕前を見た大気によって、
キッチンから追い出されてしまった。

星「気にすんなよ。」
星野はそんなことを言って、
うさぎと美奈子に再びTVを見ようと誘った。

大気は夜天に、突かれたのなら、
部屋に行ってもいい、といったのだが、
夜天はキッチンで大気の手伝いをしていた。

めんどくさがり屋の夜天が、
なぜ手伝いをしていうのは
大気は気になったが、
正直言って、夜天が少し、
自分の世界から踏み出そうとしているのを感じ、
うれしい気持ちもあった。

今日の写生会ももちろんだったが。

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やがて、夕食が出来上がったので、
みんなで食事を囲んだ。

星野はビールを飲んでいたが、
大気も夜天もお茶を飲んでいたので、
美奈子は思い切って聞いてみた。

美「先生たちはお酒、飲めるほうなんですか?」

大気が答えた。
大「星野は、まあそこそこ飲むほうですね。
わたしはどちらかというとたしなむ程度で、
夜天は・・・。」

大気が言いよどんだので、
夜「いいよ、いっても。」
夜天がそう答えたので、
大「夜天はアルコールに弱くて、
すぐに気持ち悪くなってしまうんです。」
大気がすぐにそう答えた。

そして、大気はふう、とため息をつくと、
大「ただでさえ、夜天は子供っぽい顔立ちなので、
それでお酒弱いと知られるのが、
夜天はあまり好きではないのです。
なので、このことは・・・。」
そういって、唇の前に指を立てた。

美奈子もうさぎも、
別に広めるつもりはなかったし、
むしろ、先生のトップシークレットを
知ることができただけに
逆にうれしい気持ちだった。

美「だいじょうぶ、任せてください!」
美奈子は胸をどーん、とたたいた。

大気も星野もその様子にぷっとわらった。

夜天はなにがおもしろいのかと、
内心ぶぜんとしていたが。

*****

大気特製のマリネやら、冷製スープやら、
ポークソテーやらを
うさぎも美奈子もきれいに平らげた。

大「もらいものなのですが・・・。」
そんな恐縮しながら大気が出してきたお菓子と一緒に
食後のお茶を飲んでいた時のことだった。

美「そういえば、うさぎちゃん、今夜はどうするの?」
美奈子がおもむろに聞いてきた。

そうだ、うさぎは体調があまりよくないうえに、
今日は家に帰ってもひとり。

う(どうしよう・・・。)
うさぎがそう考えているとき、
大「月野さん。」
大気が声をかけてきた。

大「もしよろしければ、わたしの部屋をお貸ししますので、
泊まっていきませんか?」
大気は、うさぎをこのままほおっておくのは
忍びない、という一心での言葉だったが、
一同、みんなびっくりした。

*****

というわけで、星野がお風呂の用意をしている間に
大気は美奈子を家に送っていった。

大気がうさぎを一番風呂にするよう言いおいていったので
うさぎはお風呂に入ることになった。

夜天は女子とあまり体の大きさが変わらないため、
うさぎは夜天の寝間着を借りることになった。

なんだか、どきどきする。

おまけに、洗面所には、
先生たちのものと思しき髭剃りなんかがある。

う(そ・・・そうだよね、先生たちも男の人なんだもんね。)
うさぎは、あれこれ、考えようとしてしまう。

というより、あれこれ考えたほうが気がまぎれる、
といったほうが近かった。

とりあえず、うさぎはぷるぷると頭を振るとお風呂に入った。

*****

美奈子を送っていった大気が戻ってきた。

星「おかえり、大気。」
星野はそう声をかけた。

星「いま、おだんごがお風呂入っているから。」

大「ああ、ありがとうございます。」
星「ビール飲むか?」
大「ええ、いただきます。」
そんな会話を交わして、ダイニングで大気と星野は
ビールを傾けた。

大気はさんざん自分に対して、
生徒との距離感を保つように言っていた。

なのに、うさぎを泊めるなんて、
どういうことなのだろう。

星「どういうつもりなんだよ。」
星野の追求に、
大「すみません。」
大気は謝るしかなかった。

正直言って、うさぎをほおっておけなかった、
ただ、それだけのことだった。

星野の部屋は雑然としているし、
夜天は1人の空間が絶対的に必要。

だから、大気は自分の部屋をうさぎに使わせて、
自分はリビングのソファで寝ることにしたのだ。

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お風呂から出たタイミングで星野と大気に
お茶に誘われた。

2人がビールで晩酌しているので、
うさぎはルイボスティーをいれてもらった。

う「先生たち、男の人だから、
髭剃りもすると思うんだけど、
なんか意外で・・・。」
うさぎはそんなことを言い始めた。

星野も大気も、ぷっとふき出した。

うさぎの発言がかわいらしかったからかもしれない。

大「わたしたちはともかく、
夜天は永久脱毛しているので、
ひげは生えないんですよ。」
大気はそんなことを教えてくれた。

なんでも、ひげの永久脱毛は
相当痛いらしいが、夜天は
つるつるの肌を手に入れるため、
バイト代もかなりためて、
麻酔クリームとかもかなり使ったのだという。

*****

そして、通された大気の部屋。

大気もそうだが、星野も夜天も
先生としての顔ではない、
素顔をしれて、うさぎはどきどきしていた。

実は、あとで夜天もお茶に合流したのだが、
その最中だった。

ぴこん。

夜天のケータイが鳴った。

夜「あー、バイト先だ。」
なんでも、あしたバイト先で欠員が出たらしいので、
急きょ入れる人を探しているらしい。

その時、初めてうさぎは夜天が
倉庫でバイトしていることを知った。

それに
大「夜天。
今日はあなたはさんざんがんばったんですから、
明日はアルバイトを休んでもいいんじゃないですか?」
大気のアドバイスから
3人はかなりしっかりとした
絆で結ばれているらしいことが分かった。

そう、素顔の先生たちを
うさぎは今日1日でかなり知った。

こんこん。

部屋の扉がノックされた。

大「月野さん、暑かったり、
寒かったりしませんか?」
大気はその言葉とともに
空調は好きに変えてもいい、
と言いおいていった。

先生たちのお部屋。

うさぎのどきどきは最高潮に達していた。