茉里乃「なあ……」
綺良「……なんや?」
互い風に吹かれていると、彼女にしては珍しく大きな声で話しかけてきた。
茉里乃「つまりはいつか……私のことも、下の名前で呼んでくれるん?」
綺良「ええー?……どうやろな」
茉里乃「なんでや。呼んでくれへんの?」
綺良「だって……急に私が茉里乃、とか、茉里乃ちゃん、って呼び始めたら気持ち悪いやろ」
茉里乃「ああ……確かに」
綺良「いや納得すんなや」
茉里乃「……どっちやねん」
くだらない会話に、お互い笑いあった。でもそれはすぐ、忘れてしまうかもしれない。
それでもいい。それがいい。
それくらいがきっと、私たちにはちょうどいい。
茉里乃「世界も……私たちの会話くらい、平和になればええのになぁ……」
その言葉は彼女の本心であり、弱音かもしれない。
でも私には、綺良ちゃんならこう言うでしょ、という意思を感じた。
綺良「平和になればええのに、なんやなくて……平和にする、んやろ。私たちで」
茉里乃「さすが。怖いもんなしやな」
お互いにまた、無言で見つめあった。
考えていることは違うかもしれないけれど、きっと私たちの思いは一緒だ。
そしてその思いはきっと、いや絶対に、通じている。繋がっている。
そう信じている。
茉里乃「じゃ、帰ろか。綺良ちゃん」
彼女の方から差し出された手を握り、私も立ち上がった。
綺良「せやな……茉里乃……」
茉里乃「……ぇ?」
もう、二度としないと思う。世界が、平和になるまでは……
綺良「今だけや……気持ち悪いとか言ったら、どつき回してしばくで」
茉里乃「……気持ち悪い。きもい。きしょい」
綺良「おいこら幸阪ぁ!!!」
茉里乃「おっさきぃ~」
すると彼女は勢いよく、向こうへと走り出していった。
綺良「待て!!」
私も慌てて走り出す。
走る速さは私の方が速いけれど、彼女のスタートダッシュが速すぎて、まあまあ追いつくのに時間がかかりそうだった。
茉里乃「村山ちゃぁぁん!!綺良ちゃんに追いかけられてるんだけど、助けて!!」
美羽「えぇ?幸阪さん?って……増本さん!?」
綺良「ちょっと!!村山味方につけるとかずるすぎるやろ!!」
彼女はいつの間にか、そこら辺にいた村山を仲間にしようとしていた。
茉里乃「別に味方なってとは頼んでへんで」
美羽「いやでも大半は増本さんが悪いですからね……」
綺良「なんやと村山ぁ!!」
どいつもこいつも、私が悪いと毎回決め込みやがって……
今回のは完全に幸阪が悪いのに……
美羽「え、なんで私が追いかけられなきゃいけないんですかぁ!!?」
綺良「当たり前やろ!!待てやぁぁぁ!!」
走っているというのに、私は村山のことを追いかけながら、今ある幸せを感じた。
茜さん。
こんな私ですけど、私は茜さんのいない櫻坂で、何とかやってます。
村山や幸阪に、いつも助けられながら、頑張ってます。
約束も、守ってます。幸阪にだけはちょっと、甘えてしまったけど……
約束を守り切るまで、もう少し待っててくださいね、茜さん。
必ず私が、世界の平和を取り戻しますから。
村山や幸阪、櫻坂のメンバーと一緒に。茜さんや菅井さんと一緒に。です。