とあるワイナリーで、ある青年と出会った。

着古した感のあるTシャツにジーンズ、リュックに、どの国の土産物店にも置いてあるような「FRANCE」と書かれたサブバッグ。


「こういうバッグって本当に買う人いるんだな・・・」


と思って見てたら目が合う。


「あ、日本人ですか?」


と聞かれ、会話が始まる。


どうやら彼は自転車を借りてブルゴーニュを周る、貧乏一人旅の途中らしかった。

ボーヌに宿を取り、ブルゴーニュの畑地図を手に数十キロ先のジュブレ・シャンベルタンまで行っちゃうというから驚きだ。


ヨレヨレ汗まみれでブルゴーニュの色んな畑を見て回る彼。

フランス語はもちろん、英語もほとんど分かっていなさそうだった。

ワイナリーによって全く相手にしてくれない所と、逆に面白がられてあれもこれも飲ませてくれる所と二分の扱いを受けているのだとか。


コルトンの丘を訪れた時、あるワイナリーでワインをごっそりと振舞われ、酔っ払って、彼が大好きなコルトン・シャルルマーニュの畑内で吐いて眠ったらしい(笑) 


皆さん、2012のコルトン・シャルルマーニュの出来を楽しみにしておきましょう。

彼のばらまいた「肥料」がワインの味にどう作用するか・・・


というのは冗談だが、まぁ彼のした事は冗談にならないほど酷い(笑)


しかし飲み過ぎて気持ち悪くなるのもそのはず、

貧乏旅行中の彼は昼ごはんを買うお金が無くて、各グラン・クリュからぶどうの葉と実を採って食べていたのだとか。

さらに灼熱の中、数十キロを自転車走行・・・


こりゃグラン・クリュに吐きますわ・・・。


全然悪びれずに話す彼の話に

「それ(ブドウの葉と実)、立派な窃盗だよ」

と笑いつつもそんな彼を不憫に思い、


「今晩一緒に飲もうか」


と誘って夕飯を奢ってあげた。

我々夫婦も相当な貧乏旅であるが、ブドウの葉と実を主食にする程貧しくはないから・・・ね。


身の上話を聞いた所ちょっとビックリ、彼は日本にいた時の私の生活圏内で働いていたことが判明。

ローカルな話題で盛り上がり、

「駅前に成城石井が出来ましたよ」

とか、私の知らないここ一年内の地元の最新状況まで教えてもらったりした。


彼は私の地元にあった大手チェーン酒屋の販売員をしていたがその会社が潰れ、潰れた会社を買い取った会社の意向のままに、近くのスーパーの酒売り場で働いたり、宅配運転手のようなパートタイムの仕事をしたりしているらしい。


酒屋で働いていた頃にいろんなワインを飲む機会があり、

ブルゴーニュワイン、特にコルトンのワインが大好きになったのだとか。


で、パート先からまとまった休暇をもらったために今回の旅を思いついたのだとか。


自転車で数十キロを走行しちゃう情熱はあるものの、計画性はゼロの旅。

宅配ドライバーの仕事に満足していない彼はブルゴーニュから帰ったら別の仕事を探そうかな~とか言っていて、そもそも彼の将来ヴィジョンからして何も計画されてなさそうだ。


でも酒は大好きだそうで、ワインに限らずラムやら日本酒やら知識欲はハンパない。そして熱い。

まだ20代半ばの彼。

他の酒屋に務めるでも、ソムリエ系を目指すでも、知り合いがやってるというラムの専門バーに弟子入りするでも、ゼロから始めて何でもなれる気がする。


(ほぼ)ゼロスタートだから故、将来ヴィジョンやら人生設計やらにがんじがらめになっていないから故に広がる、無限の可能性があると思う。


ちょっとだけ羨ましくもある。


ボーヌの宿で、その日に調達したコルトンのワインを飲みながら色々話した。

面白い出会いだった。



ちなみにその数日後、人気のない畑でこっそりブドウの葉と実をほんのちょっとだけ拝借して食べてみた。

葉っぱも実(まだ緑色の種みたいな感じ)も、ハンパなく渋くてとても飲み込めたものではなかった・・・。