高田龍の夢か現か

高田龍の夢か現か

長く続けてまいりました『夢か現か』を『ごまめの歯軋り』にタイトル変更して新出発しましたのですが、これからはここで小説だけ書いて行きます。
宜しくお願い致します。

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                                 《戦いの始り》


うっとうしい雨はふりつづいていた。

徳田の所有するマンションに匿われてから、随分と日にちが経った。


あれ以来、千夏の携帯には弁護士からも桑嶋からも何の連絡もないままだった。

いつまでも、空き部屋だからとはいって居座り続けるわけにはいかない。

ここに世話になっているあいだ、千夏は何度か自宅へ戻っている。

郵便物の確認や、ポストに溢れそうな新聞のことや、留守番電話の内容を聴くこと。などなど、やはり家を空けたままというのは、問題もある。

しかし、千夏が家に行く時は、必ず徳田が付いて来た。

ありがたく思ってはいても、気が重いのも事実だった。

千夏は、心を決めて徳田に電話を入れた。

『坂井です。もしもし、徳田くん?実は私そろそろ家に戻ろうかなって思うの、いつまでも徳田くんにご迷惑かけてもいられないし。』

千夏に、そう告げられた徳田は、事が落着するまでは気にしないで居てくれて構わないと言った後に、一応尊の意見を聞いてみると話した。


小田尊から千夏に連絡が入ったのは、翌日の昼前だった。

『ちーちゃん、小田です。』

そう言って話し始めた尊。

千夏は、尊から中学時代のように呼ばれる事が嬉しかった。

尊の声が耳に入り、そこから尊の声が全身に拡がっていくのだ。

その声は千夏の身体中の細胞のひとつひとつに活力を与えてくれる。ような気がするのだ。

千夏は、あの時代に自分が引き戻されるのを感じていた。

『もう少し、そこにいてくれないかな。多分二、三日で結論が出るはずだから。』

千夏は尊の指示に従い、とりあえず自宅に戻ることをやめた。

翌朝、尊の言った通り事態が動いた。

『千夏、私だ金はどうなってる、銀行から融資されたんだろ。』

千夏が銀行からの融資がまだだと言うと、沈黙がしばらく続き、電話が桑嶋から誰かに代わった。

『奥さん、この間の話し冗談だとでも思ってる訳じゃないよね、いつまでものんびりしてられないんだよ。』

声の主は名乗らなかったが、あの弁護士だということは千夏には判った。

『あんまりトボけてると、取り返しのつかない事になるよ。』

『桑嶋の問題を、なぜ私が片付けなくてはならないんですか、あの時も申し上げましたよね。今の奥様や、病院に話して解決を図るべきですよ。私に話すのはスジが違うんじゃないですか。』

『桑嶋さんの立場がなくなると言ってるのが判ってもらえないなら仕方ないね。』

電話は、また桑嶋に代わった。

『千夏、頼むから力を貸してくれ、一旦用立ててくれたら、早急に金は君に戻すから、頼むよ。』

尊から話を聴いていなければ、桑嶋達の企みは判らなかった。

千夏は今頃、銀行に掛け合い、提示された金額を準備していただろう。

尊や徳田がいてくれなかったら、どうなっていたか。

千夏は、桑嶋が騙されていることを伝えたかったが、尊から、必ず桑嶋の周囲に奴らが居るはずだから電話での会話は用心するようにと言われていたために、話すことはしなかった。

桑嶋は、今迄よりも明らかに焦っている。

弁護士の村上達が、態度を変えて彼を脅しているのだろうか。

桑嶋の背後で、誰かが指示をしたのか、突然電話は切れた。

『桑嶋さん、元の女房を動かすのは、もともと無理な話だ。俺も、そういつまでも待ってられない。まあ今の奥さんに話すしかないんじゃない。だいたい、離婚れた女房にケツ拭かせるなんて、ヤクザでもやらないよ、先生。』

村上や鳴海の態度は、あきらかに変化していた。

『村上さんが・・』

桑嶋の言葉は鳴海の罵声にかき消された。

『いつまで甘ったれてんだよ、テメエのケツはテメエで拭くっきゃねぇんだよ。そんな事も判んねぇのか!テメエ!』

『とにかく、鳴海社長のおかげで、マスコミにも知られず、病院も無事、先生も元の生活に戻って、一件落着。あとは立替えて貰った金を戻すだけのことなんだから。』

『わかってます。わかってますよ。しかしあなた方だって・・・』

『私達が、なんだって。』

『離婚れた女房から金を工面させるなんて私には思いもよらない事だ。村上さんが私に任せればいいからって言うから。』

『言うから、何ですか。』

桑嶋は、言葉を飲み込んだ。

愛生の事も、冷静になって考えてみると、腑に落ちないことがある。

最初に関係を持った日は、泥酔していて何も憶えていない。

眼を覚ましたときに、ベッドの中に彼女が裸でいたのは確かだが、それ以外は記憶がない。

一億の現金を立替えたという話も、実際に愛生の処に金がわたったのを確認したわけではない。

愛生が、書いたという一億円の領収証を見せられただけだった。

確かに、それ以降愛生からの連絡はなかった。


桑嶋は、いつの間にか抜け出ることの出来ない罠にかかってしまったのかもしれないと思っていた。