おかしい。マレクは歩みを止めた。このまま歩みを進めることに、なにか危険を感じた。
「どっか、影から様子をみた方がいいよな…」
一人、呟く。そしてゆっくりと歩き出した。足音を殺して。
村の入口付近にある一軒の家の影から、マレクがこっそり顔を出す。鉄の防具と真っ赤な隊服に身を包んだ、十数人の男たちが、村人たちを囲んでいた。長細い筒のような物を住人に向けている。怯えてる皆の様子を見ると、あれは武器か何かだろうか。
マレクはふと気がついた。赤黒い染みが、地面に出来てるのを。心臓を氷の手で捕まれたかのような気持ちがした。あれは血だ。誰かが、切られたのだ。それともあの武器にやられたのか。
死体は見当たらない。マレクは村人達の間を必死で探した。見知った顔は、皆不安に歪んでる。そして、いた。
マレクの父親は無事だった。マレクは、静かに息を吐いた。みた限り怪我人は居ない。撃たれた人は何処かで治療を受けてるのか、それとも…
マレクは不吉な考えを頭から振り払った。とにかく、僕が皆を助けなきゃ!
でもどうやって? 敵の数は十数人の大人の戦士。相手は武器を持ち、こちらは短い剣が一振り。しかも村の外にはまだ仲間が居そうだ。その時、
「―――ッ!」
マレクは後ろから口を塞がれた。
「騒ぐな、俺だ」
それは、聞き覚えのある声だった。マレクが抵抗を止めると、塞がれた口から手を離した。振り返る。
「ジエサ!」
「しっ! 静かに」
マレクは頷いた。ジエサは、マレクの兄だ。今はベースに行ってる筈なのに、何故…
「ベースがダメになった。早馬跳ばしてきたんだが…」
マレクの気持ちを察したのか、兄が説明する。
「村についたら…なんなんだよ、これ」
「僕も…わからないよ」
「とにかく、だ」
「うん、皆を助けなきゃ!」
「その前に…あそこに捕まってる中に、キルケが見えないが、お前何か知ってるか?」
「キルケなら、フリードさんと教会の方にいたけど…」
「そうか…。あの方が無事だったなら、大丈夫だ。とりあえずここから逃げるぞ」
「ど、どういうこと? 皆を見殺しにするの? それにキルケがあの方って?」
「お前を危険に巻き込む訳にはいかない。もしお前に何かあったら父さんに…そして死んだ母さんにも会わせる顔がない」
「で、でも―――ッ!?」
その時、ジエサの拳がマレクの鳩尾に入った。
「それに心配するな。村の皆なら、いずれ殿下が救って下さる」
その声を最後に聞きながら、マレクの意識は闇の奥へと薄れていった。
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