私は専業主婦。41歳。
結婚10年目。
小学生の息子と、会社を経営する夫と3人で暮らしている。

ママ友に夫の話をしては
「嘘でしょ?それ本気で言ってるの?」
と真顔で呆れられるほど、私は夫が大好きだった。

夫にはこの生活が出来ることを心から感謝していたし、夫が大好きだから、やれることならなんでもやってあげたいと尽くしてきた日々。

出産してから体重は増えてしまったけれど、その分を取り戻そうとエステに行ってみたり、様々なダイエット本を買い漁っては減量を試みたり、メイクを勉強したり、おしゃれをしたりと常に自分には気を使っていたつもりだった。

けれどそんな簡単に体重なんて減るわけはなく、少し痩せてはリバウンドを繰り返して、気付けばここ数年体重は増えていく一方…。まだなんとかクビレなるものはあるけれど、さすがにこの体重はまずいよね…。

そう思っていたある夏の出来事。

数週間前に複雑骨折し入院していた義母が、高齢で知らない場所では痴呆が進むとの事で、早々に退院してうちで義母の面倒を見ていた私。

食事の世話やら、入浴やお手洗いの介助まで、それが私の仕事だった。大好きな夫の大切な人は私にとっても大切な人…。だから、夜中に何回お手洗いの介助で起きても、辛くはなかった。

そんな私に気を遣ってくれたのか、たまにはお友達と食事でもして楽しんでおいでよと夫の許しを得て、私は友人達と焼肉さんへ行き、美味しい焼肉やワインに舌鼓を打ちながら、焼肉屋さんのオーナーご夫妻も一緒に、ワイワイ楽しい時間。

「ゴルフに行くやつは大抵浮気してる。周りはそんなんばっかよ。釣りとか狩猟とかそういう趣味の男よりゴルフやる男は要注意だよ。」

そんな男前の焼肉屋の店主さんの言葉を耳にしながらも、私は内心、うちの夫に限って、ないない…。

そう言い聞かせた。
夫は魅力的な人だし、浮気されたくないし、されないように頑張ってるつもり。だからうちの夫に限って…。

私はそう語りあってる友人達の言葉に耳を傾けながらも、自分の中で消去しようとしている自分がいた。

楽しい時間はあっという間。ほろ酔いで気持ちよく帰宅したら、もう部屋は真っ暗で、息子も夫も義母も寝ているようだった。

真っ暗な寝室の中、夫の手の中で煌々と携帯だけが光っていた。

「もう、また携帯つけっぱなし…。」

そう言いながら、携帯を閉じようとしたその瞬間、❤️マークがたくさんのLINEが目に入ってきた。

心臓の鼓動が強く早くなり、緊張がよぎる。
やりとりしているのはnanami。

「女だ…。」

心臓の鼓動はさらに早くなり、強くなっていくのを感じた。

一瞬どうしていいか分からず、とりあえず、状況を把握し、証拠を取らねば…と夫の手から携帯を取り、私はお手洗いに駆け込んだ。

下着も脱がずに、便座に座り込み、震える手で携帯を開く。それでも読み進めるのが怖くてどうしたらいいのか分からず、夜中なのに、こんな時間に電話じゃ迷惑だろうと思いながらも、震える手でやっとの思いでついさっきまで一緒にいた親友に電話をかける。

「もしもし、どうしたの?」

「ねー。どうしよう。夫に女がいるみたい。」

「は?え?どういうこと?何があったの?」

「帰宅したらもう部屋は真っ暗で、でも夫の携帯の開いたままだったから閉じようとしたら、女とラブラブのLINEしてた…。」

「あなた今どこにいるの?大丈夫?嘘でしょ…。」

「今トイレにいる。全然大丈夫じゃない。どうしよう…。」

「ちょっと待って。とりあえずそれ証拠になるから全部写メしておきな。でも一括でやる方法なかったかな…。調べてまた折り返すから一旦きるよ。大丈夫?」

「う、うん…。」

一度親友との電話を切るも落ち着かず、妹にも電話をかけた。

「…もしもし。」

「ごめん。寝てたね…。どうしよう、夫が浮気してた…。」

「え?」

「浮気してたの。今携帯見ようとトイレに来たけど怖くて読み進められない…」

「今から迎えに行こうか?」

「でもどうしたらいい?分からない。どうしよう。どうしたらいいの…。」

「とりあえず、写メ出来るだけ写メしな。内容は読まなくていいから。」

「うん…。じゃあ電話切るね。」

「とりあえずいつでも迎えに行くから、連絡して。」

私は震える手で、夫の携帯画面を写メし続けた。
後から数えたら600枚ほどもある、夫とその女とのやりとりをぶれながらも、なんとか自分の携帯に収めた。

その間、親友が一括でLINEをコピーする方法等を送ってきてくれてはいたが、なんとか夫が起きる前に証拠集めをしなければと必死の思いで写メし続けた。

2時間ほど経っただろうか。
あっという間にその時間は過ぎていった。

夫が起きてきて、携帯がないことに気がついたのか、

「ママ、帰ってるの?」

とドアの向こうから夫の声が聞こえてくる。

私は必死で平静を装って

「何?トイレに入りたいの?」

そう声をかける。

「うん…」

「今出るから待っててね。」

私は夫の携帯を雑誌の裏に隠して、あくまで平静を装ってお手洗いを出た。

夫の顔なんて見られず、視線を外しながらお手洗いを出て、夫がお手洗いに入ってる隙に

「ちょっとコンビニに行ってくる…。」

と家を出た。
もう時刻は朝の4時半…。

私はずっとやめていて、煙さえも吸いたくないと思っていたはずの煙草と携帯灰皿を近くのコンビニで購入した。

とりあえず何かしていないと落ち着かなかった。
だからとりあえず煙草…。

明るくなりつつある早朝に、ご近所さんの目もあり、街中で喫煙するわけにも行かず、どこか吸える場所を探す…。

けどそんなところはあるわけもなく、私は仕方なく広い駐車場の車の陰に隠れて、10年ぶりの喫煙をした。

身体に悪い煙をわざわざ吸う私ってバカ…。
でも今はそんなことどうだっていい。
とりあえず現実逃避をして落ち着きたかった。

一本吸いきったところで、こんなに明るくなった街中で、こんなにもボロボロの顔で、私はどこへ行ったらいいのかも分からず、一度帰宅することにした。

相変わらず部屋は真っ暗で、夫は寝室で布団を被って寝ているようだった。

携帯は夫の手元にある。
ということは、私がお手洗いに隠したのは分かってるはず。

けれど夫からの反応はなし。

私は平静を装って、寝室に置いてある鏡台で軽くメイクを施した。

ほどなく、義母がお手洗いで起きてきたようだった。すぐさま、義母の所へ行き、お手洗いの介助をして、義母が寝ている子ども部屋のベッドへ送っていき、少し痴呆が入ってきている義母に、そのことを打ち明けた。

「お義母さん。夫に女がいるみたいです。私たちを捨てて、一緒になるそうです…。私、どうしたらいいですか…?」

「どういうこと?女ってなに?」

「お義母さんこれ見て下さい…。」

「まったく、あの子はしょうがない子ね。なに考えてるのかしら。lilyさんは本当に私にもりりか(前妻との娘)にも良くしてくれて、私は貴方のおかげでいつも幸せだなーって感謝の気持ちしかないのに、どうしましょう。あの子は今何してるの?」

「寝ているみたいです。お義母さん、大丈夫です。話を聞いて欲しかっただけなんです。主人には何も言わなくて大丈夫です。ありがとうございます。ご心配をおかけしてすみません。もう少しゆっくり寝て下さいね。」

心配してくれる義母をあとにして、私は軽く荷物を纏めた。家を出る直前に、私は夫の掛け布団をめくった。

「ねぇ。nanamiって誰?貴方はnanamiの事が好きなの?私たちを捨てて、nanamiの元に行くつもりなの?」

そう声をかけたが、夫は剥がされた掛け布団をまた被って、ずっと頭を横に振っている。

「ねぇ。教えてよ。私そんなにダメな妻だったの?」

何を言っても掛け布団を被っては頭を振るばかり。

「ママは何も悪くない…」

「そんなことを聞きたいんじゃない。貴方の気持ちが知りたい。誰が好きなの?私?nanami?」

思わず掛け布団を引き剥がす。
今度は枕を自分の顔に持っていき、私と目を合わせようとはせずに、ずっと頭を振っている夫。

私は何も言わずに荷物を持って外に出た。