アメブロを開始した初期に紹介した、東野圭吾の『片想い』。これは、性同一性障害をテーマにした、ミステリー小説だ。なかなか難しいテーマを、見事にまとめ上げた東野圭吾の手腕には感心する。テーマがテーマなだけに、一般の読者にどう受け止められたのかは分からないが、当事者を身近に見ている私にとっては、いろいろ考えさせられることが多い一冊だった。

 以下の文章は、先ほど「アサブロ」に書いた文章である。アサブロはまだ注目されることは少ないと思われるので、あえてこちらにも書いておこうと思う。なお、この文章は「安易に女性ホルモンを摂取しちゃダメ! 」を読んで執筆したものだ。(トラックバックはアサブロからしたので、アメブロではしていない)


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 私はフリーライターとして、いくつかのパソコン雑誌に執筆している。昨年の春、休刊してしまった日経BP社の『日経ネットナビ』にもQ&Aを中心に執筆させていただいていた。


 その最後、最終号で、ライターや編集者などが一テーマを取り上げた「アンチ定番サイト500」という特集があった。私が取り上げたテーマは、「性同一性障害」。いくつかテーマ案を挙げたが、編集者には特に目立って見えたようだ。


 そこで私は、性同一性障害そのものと、施行される「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律」、そして一般の人々の無理解について、限られた文字数の中でまとめてみた。正直、うまくまとめられた自信はないし、記事に対して当事者や周辺の人たちがどう感じたのか不安はある。


 あれから一年以上が経過した。


 法律が施行され、何人もの当事者が、戸籍上の性別を本来の性別に変更したり、名前の変更をしている。しかし、法律の制限も厳しく、壁にぶち当たっている当事者も多い。


 そして――また一つの命が失われた。自ら命を絶ったのだ。


 インターネットが利用できるようになった現在、非常に便利な世の中になった。しかしそれは諸刃の剣でもある。10日に発生した男子高校生による爆弾事件も、インターネットなどから爆弾の作り方を入手している。アングラな方法も含めれば、何でも入手できる世の中だ。その中で、性同一性障害者にとって福音ともいえるのが、ホルモンの入手が簡単になることだ。MTFの場合は女性ホルモン、FTMの場合は男性ホルモンを摂取することで、手術をせずとも肉体の性別を本来の性別へと近付けることが可能となる。その錠剤を、インターネットを通じて簡単に入手することが可能となるのだ。


 しかし。それは諸刃の剣だ。


 自ら命を絶った当事者は、ホルモン摂取によって肉体を自分が思う性別へと変えることができた。もちろん、性別適合手術をしたわけではないので、完全ではない。しかし、胸など身体のパーツが、手術することなくある程度までは変化してしまうのだ。たった数粒の錠剤を毎日摂取するだけで、である。そして、目的の身体に近付けることができたにもかかわらず、その人は自殺した。なぜか。それは、男から女へと身体を変化させてしまったことによって生じた、人間関係の変化、そして今後への失望が生まれたからではないか。


 例えば、自分の周辺で、これまで普通に同性の友人としてつき合っていた人が、性同一性障害であることを告白し、身体も変化させていたとする。素直に受け入れられる場合もあるだろうが、中には違和感しか覚えなかったり、つき合いすら避けてしまう場合もあるかもしれない。これが、現実だ。まだまだ、性同一性障害に対する認知度は低いし、理解は少ない。理解しているようでも、それはあくまでもブラウン管の向こう、自分とは違う世界の話であって、身近な問題として受け入れていない人の方が多いのが実情ではないだろうか。政治や行政的に、書類から生別欄を省いていくなど、性同一性障害に対する理解が深まっているように思われるが、世間一般ではまだまだこれからなのだ。そして、私は問題点が多いと考える住基ネットには、性別という項目が燦然と残っている。


 一般の方々へ。性同一性障害は、周辺が考えるよりも重いものだ。特例法も出来たが、まだ多くの当事者は救われていない。そして、支える人がいない当事者は、命を経つという最悪の手段を取ってしまうことが多いのも、厳然たる事実なのだ。ぜひ、少しでも理解して欲しい。切に願うものである。


 そして当事者の皆さんへ。ホルモン摂取には、かなりのリスクが伴う。まずは身体に無理を強いることから、寿命を縮めてしまう。そして、一度でも摂取してしまうと、一生摂取し続けなければならないのだ。もちろん、肉体の性別を変えてしまうために、生殖機能は失われてしまう。そして、これも誤解が多いが、女性ホルモンを摂取したからといって、バストが大きくなるわけではない。簡単に手に入るからといって、安易に摂取してしまえば、大変なことになってしまいかねないのだ。そして、仮に望む身体になったとしても、周囲に理解者がいなかった場合、人間関係に悩むことになるだろう。決して、安易な気持ちでホルモン摂取はしないで欲しい。


 それから、政治家の皆さん、行政府の皆さんへ。一昨年、特例法が制定され、昨年施行されたことは、まずは一歩前進。しかし、まだこのように多くの当事者は苦しんでいる現状がある。ぜひ、それらの声に耳を傾け、多くの命を救って欲しい。これ以上、犠牲者が出てくるのを見るのは忍びないのだ。


 何かうまくまとめることができないが、このメッセージが、伝わってくれることを切に、切に願う。