予定日を一日過ぎた夜。
あぁ、結局今日も産まれなかったなぁ。
そんな事を思いながら布団に入ってうとうとし始めた夜11時過ぎ。
それは突然のことだった。
じょばーーーー
あ、破水した
ってすぐに分かった。
友達も破水から始まったって言ってたし、念のため毎日ナプキンはつけていた。
とりあえず真っ先にスマホを手に取り、布団の上で旦那に電話。
「破水したみたい。まだ誰にも言ってないけど、今から親に言って病院電話して入院になると思う」
と告げた。
「まだすぐ産まれないだろうし、急がなくていいよ」
とも言った。
(ならば真っ先に連絡する必要もなかったのだが・・・笑)
恐る恐る布団から起き上がって廊下に出て叫ぶ。
「おかあさーーん!!破水したーーー!!」
母はすでに寝ていると思っていたので、寝室に向かって叫んだが、
まだ起きていてリビングにいたようで、すぐに来てくれた。
(父は毎晩酒を飲んでいたので全くあてにしていなかった。笑)
入院の準備はあらかじめしてあったが、最終確認しつつ病院に電話。
できる限り体を横にして病院に来るよう言われた。
病院に向かう車の中、産まれないと愚痴っていた友達にもLINE。
「破水した、今から頑張ってくる」
もともとLDRでの出産を希望していた私。
1日一万円かかるが、快適さを優先したかった。
運よく2つあるLDRのうち1つが空いていて、そこに入ることができた。
病院に着いて、モニター付けて横になる。
定期的にお腹は張っているが、全然痛くない。
お腹が張るたび、下から噴水みたいにぴゅーっと羊水が出てくるのが分かった。
そうこうしているうちに、旦那が到着。
しかし、いっこうに強まる気配のない陣痛・・・。
結局その夜もいつものごとくお腹の張りはおさまってしまい、翌朝を迎えた。
旦那はソファーベッドで休み、私もわりと良く寝た。
翌朝からいよいよ陣痛促進剤を試すことになった。
張りの強さを見ながら、徐々に点滴のペースを上げていく。
朝9時半くらいから点滴を始め、昼になる頃には結構痛みが強くなってきていた。
強めの生理痛より断然痛い。
痛みが来ては「ふーっ、ふーっ」といきみ逃しをしてひたすら耐える。
しかし子宮口はせいぜい2cmと言われる。。。
14時をまわる頃にはもう、考え事などしてられないくらいに痛みが強くなってきてひたすら耐える。
こんなのがいつまで続くのか、もう気が遠くなりつつ、
耐えることさらに3時間半。
部屋の外が慌ただしい。
どうやら隣のLDRの人は出産を終えたようだ。
なんなら向かいの分娩室も慌ただしい。
私より後に入院になった人も出産を終えているようである・・・。
旦那が腰を押してくれるのだが、どうもポイントがずれている。
助産師さんの手は神に思えた(笑)
痛みが治まっている短い間に旦那に指示。
幸い発狂したり、叫ぶことは無かった。
「この辺押してほしい」
「まだ、今じゃない・・・」
「ちょっと違う"ー・・・」
陣痛の間隔は1分ほどになっている。
もういっそ意識を奪ってくれとさえ思う。
意識も半分朦朧としているとき、その日の担当の先生の声が聞こえた。
「あと30分点滴続けようか」
たったの30分。しかしその時の私にとって30分とはもうとてつもなく長い時間
あと何回この痛いのに耐えたらいいんだと、本当に逃げ出したかった。
(いや、そもそも点滴が終わって陣痛も止まってしまってはダメなのだが、
その時はとにかく30分を乗り切ることだけを考えていた。)
一番大事なのは赤ちゃんのはずなのに、
もうそんなこと言ってられないくらいだった。
自分は何でこんなことしてるんだろうっていう、フルマラソン後半みたいな心境。
少しして、主治医の先生がやってくる。
陣痛の合間に必死に先生に
「少しでいいんで、麻酔うてませんか?!」
と懇願したのを覚えている。
しかし先生、
「うーん、でも今ちょうどいい感じで陣痛来てるんでね」
と流される・・・。
ちらっと時計を見ると、そろそろこの点滴が終わるはずの時間。
が、しかし。
「あと30分延長しましょう」
もう地獄だった。
しかも終盤、残っていた点滴を絞り切るように入れられた後は、
その日一番の辛さだった。
点滴後の内診中は痛すぎて
「ぐわぁーーーーーーーーーーーーっ」
とか悲鳴を上げていたが。
子宮口、3cm。
・・・もう絶望しかない。
幸か不幸か、点滴が終わるとまた陣痛の間隔が開き始めて3分間隔になる。
すると不思議。
起き上がってご飯を食べようと言う気になる(笑)
信じられない!今までの人生、カップラーメンができるまでのあの3分、
たった3分と思ってきたが、3分あると何でもできる気がする(笑)
3分て結構長い!!と感激しながら食事をとっていると、
やってきた助産師さんに
「あら、良かった。ご飯食べれるくらいになったのね」
と言われる。
あとから冷静になってみれば、本当は良くない。
促進剤で勢いがついて、そのまま自力で出産までたどり着くのが理想のはず・・・。
食事を取りながら、陣痛のおさまっている3分の間に旦那に宣言した。
「私、明日も促進剤って言われたら、もう腹切ってくれって先生に言う!!!」
その晩、陣痛間隔は徐々に5分間隔になった。
旦那はその日も病院に泊まってくれて、
「ベッドから移動したいとき言ってね」
と言ってくれたのだが。
そんなのいちいち起こすのもかわいそうである。
結局ほとんど眠れぬまま、一晩中5分間隔の陣痛に1人耐えた。
窓越しに中秋の名月を眺めつつ。
陣痛が来た時は、テニスボール、トイレの手すり、壁、
あらゆるものを使って自分でおしりを押してなんとか乗り切り続けた。
朝になる頃にはもう、おしりを押しすぎて、押すこと自体が痛くなってしまっていた(笑)
翌朝まず主治医の先生による内診。
先生「あ、夜の間に結構進みましたね!8cmくらいです!」
私はにわかにこの言葉が信じ難かった。
陣痛の痛みこそひどいが、間隔が狭まってもいなければ、
状況が変わっている実感が全くないのである。
しかしこの時、「絶対帝王切開にしてくれって言う!」という決意が少し揺らぐ。
「私も見せてもらっておこう」
と、ただでさえ痛いのだが、続けて助産師さん、
そしてさらに助産師の実習生と3回内診を受ける。
助産師さん「あれ、先生張りが来てるときに見ました?今見たらせいぜい4cmくらいなんですけど」
ほら来た。
そうだろうそうだろう。
昨日あれだけの苦痛に耐えてやっと3cmだったのだ。
一気に8cmなわけがない。
こっちの方がだいぶ実感にあっている。
再び私の決意が復活してくる。
主治医の先生と、当直の先生が2人私についてくれていたのだが。
主治医の女医先生は、ふんわりしてそうで結構大胆な性格とみた。
一方当直の男の先生は、結構淡々とドライな性格のようにみえる。
主治医の先生と、当直の先生が交互に話し始める。
当直医「ひとまず選択肢は二つ。今日も同じ促進剤を試すか、もう少しこのまま様子を見るかー・・・」
主治医「今日ももう一度促進剤で頑張ってみましょうか」
きたよきたよー、まぁそうだろうよ。
私が医者でもそう言うだろうよ。
と思いながらも、めいっぱいぶんぶん首を横に振る。
(この状況、先生のタイプから考えて、交渉するならこっちだ!と瞬時に判断。
主治医ではなく当直医に目で訴えつつ)
私「昨日ほんとに死ぬかと思いました」
そして続ける。
私「そもそも下から産めるんでしょうか、レントゲンとか撮らないんですか??」
当直医「最近は骨のサイズ見ても、産める人は産めるってことが分かってきて、
あまり意味がないって言われてるんです」
ぐぬぬ・・・。そうきたか。
しかしここで折れたらあの地獄がまた待っているのだ。
ここはダメ元でも自分の意志はきちんと伝えるべきだ。
二人の先生に押されそうになりながら絞り出す。
私「もう気持ち的にはお腹切って出してくれって感じです」
すると思いのほか、当直医の先生はその主張をすんなり受け止めてくれた。
女医先生はこのまま促進剤を続けたそうだったが。
当直医「じゃぁあと10分あげるので、ご家族と話し合って決めてください。
今日は休日なので帝王切開するなら、急いで人を集めないといけない」
LDRに戻ると、旦那と姉が待っていて、間もなく両親も到着。
姉と両親「自分の後悔のないように好きにしたらいいよ」
旦那「とりあえず今日の昼くらいまで様子見て、それから帝王切開ってできないの?」
私「今の段階で陣痛の間隔短くなってないのに、昼までに産まれるわけがない。
5分間隔ってまだ入院の判断基準だよ。」
子どもの頃に盲腸で手術した経験があるので、手術に対してあまり抵抗のない私。
自分の意思や動作と無関係に訪れる間隔的な痛みより、
術後の痛みの方がはるかにマシなはず。
私「早く赤ちゃんに会おう!」
そして、ついに帝王切開を決断した。
決めてからはあっという間だった。
決断したのは9:40、
10:30にはオペ室に入っていた。
もちろん手術の準備中も陣痛は襲ってくるわけで、
『早く麻酔を!それまでの辛抱』
って思ってた。
実際麻酔が効いてきて、やっと陣痛から解放された時はもう最高に幸せ(笑)
手術に対する恐怖はほぼなかった。
着々と手術は進み、お腹をぐぐっと押されたあと、
すぽっと赤ちゃんが取り出された。
赤ちゃんは出てきた瞬間から、予想以上に力強い声で泣き始めた。
待機していた小児科の先生が受け取り、
少しして術中の私の顔のところまで連れてきてくれた。
感動の母子初対面!と言いたいところだが、
私はかなり冷静だった。
真っ先に思ったのは、
『あれ、私にも旦那にもあんまり似てない』
次に、
『めっちゃ頭とんがってる。骨盤に押しつけられてたのかな』
そして、赤ちゃんに手を差し伸べかけて、
『あ、待てよ、私手を洗ってない』
結局、そっと赤ちゃんの名前を一度呼んだだけで、
触れることもなく初対面終了。
赤ちゃんは帝王切開で出されたためか、呼吸音に乱れがあり、
念のためNICUに入ることになった。
結局手術してみたら、私も炎症を起こし始めていて、
腹水がたまっていたとのことだった。
結果的には早く帝王切開に踏み切って良かったと言われた。