「はーい、それでは本日の収録は以上になりまーす。お疲れ様でしたー。」
スタッフに促されてスタジオを後にしながら時折見上げて手を振る。
嬉しそうに、時に泣きそうに俺の何倍も手を振り返してくれるから、俺はさらに笑顔を返す。
黄色い声援とはまさにこのこと。
俺をすべて包み込んでくれる。この場所も、あんな広いコンサート会場までも、めいっぱいに埋め尽くされる俺の、俺たちの味方。
いつまでも包まれていたいけど、いつかは視線を落としてその場を立ち去らなければいけない。
みんなより少し遅れて楽屋に入ろうとするとプライベートの電話をしてるんであろう松潤とすれ違って、視線だけでお疲れ、とその場をあとにした。
「…あれ?」
にのと視線が合って、思わず声をあげたらにのはゆっくりとまたゲームに視線を落とした。
俺は落ちかけていた気持ちを引き上げるように声をあげて笑顔を作る。
「にのー?なにやってんの?今日これで終わりじゃないのー?」
にのはそっとゲームを閉じて、小さく息をはくと俺の方に向かって座りなおした。すべてを見透かすようなにのの顔に、俺は思わず目をそらす。
「何無理してんだか知らないですけど。そろそろ素直になったらどーですか?」
一言だけ告げると、俺の肩をポンポンと叩いてからにのは楽屋を出て行った。
『どっちかを選ばなきゃならないなんて、優しい雅紀にそんな苦しい思い、させたくないから。』
俺を包み込んでくれる存在だった。
誰よりも俺に笑顔をくれた、涙も同じ分だけ。
いろんな感情を俺にくれた、俺もいろんな感情を分け与えていた。
あの時の小さい小さい俺には、全部を守ることなんてとてもできなくて、でも捨てる事なんてもっと出来なくて。
だから、そう言って離れて行った、あいつの最後の優しさは、もしかしたら最初のわがままの裏返しだったのかもしれなかったのに。
―私を選んで。―
言わせてあげられなかった俺は、優しいふりをして本当は、すげぇ非情なやつだったんだと今なら思う。
今いる場所は俺が守ってきた場所だ。失いたくない。
だけど、完成じゃないことは、あの場所から立ち去らなければならない瞬間にいつも気付く。
君は今、どこにいるの?
「もしもし?」
「どーしたんですか?」
「…待ってる、って伝えてくんないかな?」
「…どこで」
「それだけ言えば、分かると思う。」
にのが少し笑っているのを聞いてから、電話を切った。
あの頃よく着ていたコートを今日は着てきていたから、すぐに見つけてくれんだろうな。
一緒に手を突っ込んだ左側のポケットだけ少し大きく膨らんでいる。
もし来なかったら、一人で泣こう。
笑われてもいいや、明日にのにバカにされてもいい。
ここに残り続けた、君への思いが消えないうちに、君に伝えられたら。
