小崎家と言えば、
徳川がまだ三河の小大名だった頃から仕えた
古参といえる家柄である。

真三郎は13代目当主であるが
祖母から聞いた話では、
どうやら6代目の当主に落ち度があり
江戸城、出納所勤務を解かれ、
大阪城付きとなったのだという。

真三郎は
大阪城、青屋門の門番である。


下級武士の勤めと言っていい。

徳川大阪城は、
関西に配置された外様大名が
反乱を起こしたときの
防御壁として再築された
城である。

泰平の世になって久しい
このご時世において
大阪城の門番と言えば
閑職中の閑職であり、
出世の見込みは
まずない。

風采も冴えず
間の抜けた真三郎は
青白い肌、細く垂れた目、
小柄な体と薄い頭髪で
人に抜きん出る容貌を持っていない。

門番がうってつけよ、と
真三郎の耳に届くようにいう
口の悪い上役もいる。

そもそも、
目の粗いザルのような性格のため
6代目の当主の失態を恨む気になれず

『おいの祖先では仕方あるまいて。』

そう、酒の席で言うばかりだった。

日々の仕事と言えば
お堀で釣りをする子供たちを
いかめしい顔を作って、追い払うことだ。


『無礼である!』

そう叫ぶのは同僚の目があるからで
実のところ

『何が釣れるんじゃ?』

と聞いてみたい真三郎であった。
むしろ、自分も釣りをしたいほどである。

『出口も入り口もね、お堀に魚がいるとは
 いったい、誰が放したんじゃろな、な?』

誰かに聞きたい
この疑問を3年ほど、
黙って耐えている。

藻が浮かぶ
堀を眺めて
真三郎の大阪城暮らしは
あまりに退屈に過ぎて行くのだった。

続く。

おもっきりフィクションです。
昨日、大阪城行って来たので。

『何が釣れるの?』って少年に聞いたら
『ブラックバス』というので、たまげました。