黒い蛇/
柊治郎
廣済堂出版
- ¥1,785
- Amazon.co.jp
初めて読む作家さんです。図書館でふらーっと見つけて手に取りました。
読書メーターみても読んでる人が少なくて、どういう話か分からないまま読んだけど、存外面白くて思わぬ拾いものでした。
著者紹介をみると、著者は本物の元外事捜査官だそうで。
本物だけが書けるリアリティー、と言うのが本書の売りだそうです。
長編だと思ってたら短編五編の書き下ろしでした。いやー、最初の一作があんまり重厚な感じだったからてっきり長編だと思ってしまったわ。
【イミテーション】
上層部への上申書提出で犯人逮捕は出来たものの、組織に逆らった刑事に先はない。
依願退職の形で刑事を辞め、細々とその日暮らしをしながらとりつかれたように険しい山に登り続けていた。
剣岳に挑もうと麓の駅に着いたとき、どこか見覚えのあるような老人に声をかけられた。
【黒い蛇】
表題作。朝鮮人女性と結婚し思わぬ協力者を得て、本庁へ引き抜かれた。
異例の大抜擢だ。それをよく思わない先輩もいる。
ある時、朝鮮人妻が忽然といなくなり、初めて出会った山の登山口で姿を見かけたという情報を得、向かってみると…。
【部外秘】
警察には公式に秘密にする文書と、暗黙の了解的に内々で示し合わせて秘匿する文書と、2種類の区分けが存在する。
あるとき、その文書がどこからか漏れていることに気づいた公安部は、文書を制作した男をマークすることに。そしてある時、8人の男たちが集い"IPA"なる組織の話をしている現場を押さえた。
【微罪処分】
不祥事を起こして警察を辞め、ドラッグストアの警備担当になった。
こういった店では、組織的な強盗とも呼べる万引きが多発しており、1回で100万円単位の万引きも珍しくなかった。
大口の万引きを止められないなら、警備を別の人間に交換すると店長に小言を言われる毎日。
そんなとき、万引きが起こる時に印が出ていることに気づいた。
【不定期刑】
少年法の為、重大な殺人を犯した少年は2年で刑務所から出所した。
少年に反省の色はなく、19歳の不良が21歳の不良になっただけであった。
犯人逮捕時に現場にいた子供を殺してしまい、刑事を首になって探偵事務所に勤めていた男に、同様に警察を辞めた同期から「2年で出所した不良を殺して欲しい」という依頼があったことを持ちかけられた。
どれもすごく重い感じの話で、主人公はそれぞれ違うんだけど、みんなが何らかの理由で警察を辞めていてその日暮らしの苦しい生活をしています。
一体どうしてここまで主人公たちの背景が同じなのかしら??
もしかして、作者も何か理由があって警察を辞めたのかもね。
あまりにも一つ一つがしっかりしてるので、一つを読み終えて次に行くのに心の準備というか、内容をリセットして次に行くのに時間がかかっちゃうんだなー。
そのくらい短編とは思えない読み応えのある話ばかりでした。
今度はこの人の長編が読みたいと、密かに探しているのであります…。