仕事終わりに病院に寄った

来たよって声をかけたら、すぐに先生が部屋に来て
手招きした

嫌な予感はしつつも、話をする

今週もつか どうか
血液検査の結果がすごく悪くなってる
いつでも電話とれるような環境か確認される
痛みが増してきてるので、麻薬を増量する



部屋に戻って、薬が効いて寝てるお父さんの隣に座った
姉に先生から言われたことをLINEする

腹水がたまってきたの?って聞かれる

そういう問題じゃねぇーよって思いつつ
再度、血液検査の結果が悪いんだってと伝えた

仕事終わったらすぐ行くから、いてねと言われた


初めて病室で、涙が出た
お父さんの前では、泣かなかったのに
ぽろぽろ出た


だめじゃん しっかりしぃ
あかんよ
って

仕事帰りの旦那さんも来た

声をかけてた


姉がきてしばらくして、旦那さんは犬の散歩があるから帰らせた
姉と甥っ子と私の3人で、うじゃうじゃ話してたら


うるさい


と、すごく力強い声でお父さんに怒られた

だからねまさか、翌日亡くなるなんて思わなくて
9時も過ぎたから、帰るねってまた明日ねって

帰るときに声かけてねって看護士さんに言われてたんだけど
お姉ちゃんが帰るときかと、思ってたら私だったらしく
飛んできてくれた

熱があること
おしっこが出ないこと
家はどこらへんか
すぐ来ることが可能か
聞かれた


でもまさかとまだ思ってた

下に降りると、息子が車に乗っていたから
おじいちゃんに会いに行こうって
病室に戻った

息子も少し話した
話しかけただけかも、しれないけど

じゃ また明日ねって言うと

はいっ はいっ

てまた力強い返事してくれたから、安心して戻った

潮の満ち引きの時間を、すぐに確認した

ここ何日かは、朝晩共に5時台だったから
朝起きたときに、連絡がなかったこと
ほっとして
お弁当を作り始めた
作り終わって、子供達を起こし始めたら
電話がかかってきた


血圧が下がってきたので、来てもらえますか?って


お姉ちゃんにすぐ電話した

弁当箱をすぐ冷蔵庫に入れて
子供を着替えさせて荷物を持たせて、慌てて出た
でもちゃんと、元栓も切ったし猫にご飯をあげたし炊飯器の保温も切った

お父さんに着せてあげようと思ってた服も忘れずに、持ってきてる自分に笑いが出た



前日の雨のせいと、朝の6時という早さのせいでタクシーが1台も通らない
すぐにお姉ちゃんに電話して、甥っ子の車に同乗させてもらった
軽に大人6人 最近の軽は広くなったねぇ
娘は私のおひざの上だったけどね

慌てて病院に
ちょうど正面玄関を守衛さんが開けてたから、入れますか?って聞いて
どーぞーの声と共に駆け込んだ

病室についた
声をかけても、起きない
看護士さんが連絡するのも迷ったんですけどね
熱があるので、って
私と娘は部屋に入って覚悟が決まった
正確に言うと、娘は部屋に入ってから
私は父の側に座ってから

今日お父さんは死ぬって
匂いがしてた
お父さんの口や体から
すごく嫌な匂いだった

電車が動き出したのを確認して、娘を大学に書類を提出させに行かせることにした
引き潮は夕方だから、まだ大丈夫って思ってたから
甥っ子が車で連れてってくれることになったから、安心した
夕方までには、戻れると思うけど間に合わなかったらって不安だったから

子供達が出て、しばらくして看護士さんがいつ戻られますか?って聞いてくるから
1時間かな?って答えて
すぐにLINEした
高速道路使って帰ってこいって
おじさんにも連絡しといた

来る?どうする?
今日もつかなって言われたよって

お父さんは、目を閉じたまま寝てるようだった
時々痛みで、顔をゆがめるけど寝てた
血圧は上が60台で下が40台
ヤバい数値だとは、わかってた
でも病室には、穏やかにゆっくりとした空気が流れてた
口が開いてるから、喉や唇が乾くねってお姉ちゃんがタオルを塗らして口を湿らすと
口を閉じて、うれしそうだった

私も塗らしたタオルを口につけてあげたけど、その度に匂いがして
すごく悲しかった

子供達が帰ってきて、ほっとしてしばらく賑やかな病室になった
お父さん喜んでるかなぁ 孫が四人も揃ってる
こんなこと久し振りだなぁって


朝の6時に家を出てきてるから、お姉ちゃんが洗濯したいって言い出して
じゃ 戻る?って11時前に戻った
病院を出たくらいかなぁ
お父さんの心拍数が急に下がった
100とか110だったのに、70にまで
その時 がっと目をお父さんが開いたから
うちの家族が一斉に覗きこんで声をかけた

いそいでお姉ちゃんに電話して
戻ってきてって
そこからまたみんなが揃って、心拍数も元に戻ったのに
やっぱり70台になった

そこからは、少しずつ少しずつ下がってきて
息もゆっくりになった
先生も来て、1時間かなって
うそだよね?って思ったけど

声をかけてあげてって看護士さんに言われて

あかんよ まだあかん
私が泣いたら、困るやろ
お父ちゃん まだやでって話しかけた

お姉ちゃんも泣きながら、ひ孫の顔を見てよ
だめよ
お父ちゃん お父ちゃんって話しかけてた


息をするのがゆっくりゆっくりになった
最期は、またもう一回息するよね?って待ってたのに
もうしなかった
もう息をしなかったんだ

眠るように、穏やかな顔で苦しむことなく
12時43分に息がとまった
先生が確認してくれたのは、10分後
だから死亡時間は、12時53分
先生が外来で病院にいるときに
お父ちゃんは亡くなった


そこから、おじちゃんにも電話した

ごめん お母ちゃんとこに逝ってしもうた
また詳しい事が決まったら、連絡するね
って電話を切った


そこからは、てきぱき動ける自分に苦笑い

看護士さんに、一張羅持ってきてるので着せて帰れますか?って聞いたら
もちろんって

病室に姉と私だけ残って、エンゼルケアのお手伝いをした
一張羅を見せたら、看護士さんが
◯◯さんらしいわぁ
って誉めてくれたよ
本当によく似合うんだよ あの服

体も拭かせてもらった
看護士さん達が、声をかけてくれた
◯◯さんごめんね 体横にするよー
って何かするたびに、生前してくれたように声をかけてくれてた
それがすごくうれしかった

病室での様子も聞かせてくれた
上の歯がお父ちゃんはなくて
それを見た看護士さんが
 今から生えてくるんですよねぇって言うと
笑ってうなずいてたって

可愛がってもらってたんだね


葬儀やさんに電話をして、お迎えを頼んだ
きれいにしてもらったお父さんを家で、迎えるために姉達に先に出てもらった
私と子供3人だけが、病室に残った

息子がおいでって、抱きしめてくれた
頑張ったねって
その時わんわん泣いた
それが、とりあえず泣き納め

時間になって、お父さんとエレベーターに乗った
婦長さんも、乗ってくれたので
ご挨拶をした

父が婦長さんがきてくれたら、明るくなるんだっていい人だって言ってました
本当にありがとうございましたって

もちろん看護士さんにも、たくさんお礼を言った
よくしてもらって本当にありがとうございましたって


葬儀やさんに霊安室でご挨拶したら、娘の同級生のお父さんで
うわぁーって 違う地域の館長さんなのに、たまたまいて
びっくりした

その人に家まで、お父ちゃんを連れて帰ってもらった
横に座らせてもらって
ずっとお父ちゃんを撫でてた

もう少しで家よ
ゆっくりしようね
って

亡くなったのが、昼だからその日にお通夜はもうできなくて

今 思えば本当は朝の5時の引き潮に、乗らなきゃいけなかったんじゃないの?
家でのんびりしたいから、あんな時間にした?なんて
お姉ちゃんと笑った


お父ちゃんをゆっくり寝かせて、祭壇とか色んなことを決めていった
手際がいい自分に本当に苦笑い
担当の人は、娘の同級生のお父さんではさすがになくて
でもちゃんとさせるからねって声をかけてくれて
祭壇の横に本来ならつかない五重の塔がついて、入口横にフォトスクリーンがついた

お父ちゃんに孫がやってくれたねぇって笑った

担当の人が本当にいい人で、よくしてくれたんだ
しばらくして、いとこやおじちゃんがついた
そこからは、賑やかにご飯をみんなで食べた


今夜は姉夫婦と交代で、線香番
家に帰って、布団に入って眠った


姉もしてたけど、私もしてたこと
お父ちゃんをさわりまくった
耳たぶがずっとやわらかくて、ぷにぷにしてた
色白だから、いいなぁとか言いながら
お父ちゃんの左側のほっぺが、ずっとぷくって膨れてて気になってたんだけど
見たら、へっこんでた
歯が当たってたのかなぁ?
お姉ちゃん知ってる?って聞いたら、気づいてなかったって
でもへこんでて、よかったなぁって思った


眉間に1本だけ黒い毛が、ぴよーんって生えててお姉ちゃんが最後まで、抜きたいって騒いでた
なんかの時に抜こうとしたら、
皮膚も伸びてきたから、あわてて止めて撫でておいたって


私はふとしたときに、二人きりになったら


あんたほんまに死んだん?
起きてきてもええよって声をかけてた


ほんまに二人きりになったときに
お父ちゃんには、たっちゃんのこと話しといた
すまんねぇ あんたの娘だから許してねって


そして朝がきた
ここからが、本当に私の踏ん張り所


そうそう写真を流してもらうのに、20枚写真がいるからみんなで見てた
お父ちゃんが学生の時の写真から、娘の卒業の時に撮った写真まで
たくさんあったんだよ
お母さんが、家に一人でいたときに整理してくれてたみたいで
みんなでわいわい写真を選んだ
楽しい時間だったから、きっとお父ちゃんも喜んでるよね