一趣味人のお気楽二次創作ブログ

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好きなゲームキャラクター等の二次創作ブログです。
ジャンルは
「FINAL FANTASY 7のクラウド×エアリスのイチャイチャ甘々なその後の日常を描いた文章」
の他、色々なカップリング創作ブログになると思います。
お気楽に書きますんで、お気楽に寄っていって下さい。

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第九話 〜青の瞳に映るのは〜

かつて神羅カンパニーが魔晄炉を建設したのは、ミッドガルだけではない。
クラウドの生まれ故郷であるニブルヘイム、バレットの生まれ故郷コレル。

そしてここ、ゴンガガにも。

この地に建設された魔晄炉が爆発事故を起こし、多数の犠牲者を出したのは、もう何年も前のこと。
神羅カンパニーの情報操作によって長らく隠匿されていた真実が明らかになったのは、つい最近のことだ。

事故の全貌を知る人は、少しずつその数を増やしつつある。
しかし事故の傷跡は、今もなお消えてはいない。


「それでも村は残る、か」


誰に言うでもなく、クラウドは呟く。

クラウドの生まれ故郷であるニブルヘイムもまた、この地とは異なった惨劇の舞台となった。
そしてその地は、神羅による隠蔽工作によって再建され、真実そのものが闇に葬られた。
故郷を奪い、母を奪い、幼馴染を傷つけ、青年の心にも大きく深い傷を遺した、あの惨劇の真実を。

傷だらけのまま生きねばならないこの村と、全てを無かったことにされて、消えていった故郷。


───俺たちが似てるところなんて、せいぜいそんなところぐらいだよな。


もう会えなくなってしまった、命の恩人にして無二の友人に、心の中で呼びかけた。

「ここ、何だか寂しいね」

今、エアリスは覚えていない。
この傷ついた村が、彼女が初めて心惹かれた男の生まれ故郷だということを。
それもあって、エアリスをこの地へ連れてくることを、クラウドは少しだけ躊躇した。


───正直言って複雑な気分だ、ザックス。


それはとても敵わないと思った友への嫉妬心か。
想い人が自分の側から離れていってしまうかもしれないという恐れか。
それとも思い出すことで、彼女の痛み、悲しみが増えてしまうのが、自分の心にも決して小さくない痛苦を与えるからなのか。

「ここはエアリスの、大切な人が生まれ育った所・・・らしい」

それでも、目を背けることはしたくなかった。
自分の感情で、訪れる地を選り分けるようなことはしたくなかった。
それではかつての自分と何ら変わらないから。
今第一に考えるべきは、自身の痛みなどではない。
エアリスがエアリス自身を取り戻すことだ。


「エアリスだけじゃない、俺にとってもそうだ。会うことはできないが」


自分がエアリスと出会えたのは、おそらくあの陽気な友人のおかげなのだろう。
初めて出会ったあの頃だけでなく、あるいはこの再会もそうなのかもしれない。
感謝してもしきれない、最高の友人。
それもまた、クラウドの嘘偽りなき本心だ。

「そっか・・・」

廃墟と化した、壊れた魔晄炉を遠くに眺めながら、エアリスは少し俯く。

“俺を守って死んだ”とは、今は言えなかった。

それは彼女が思い出したそのとき、自分が改めて受け止めねばならない現実。
そしてそのとき、己が生きていく限り背負わねばならない罪が、また一つ増えることになる。
繰り返し重ねた罪の責めから解放される日は、おそらく来ないのだろうとクラウドは思う。


「ねえ、わたし、いつ思い出せるかな」


エアリスの声で、苦悩の沼に足を踏み入れかけていたクラウドの意識は引き戻される。


───難しい選択・・・決断の連続だな。


こんな選択と決断を迫られることは、多分これまで一度も無かった。

何も考えずにひたすら剣を振り回していた、ミッドガルへ来て間もない少年の日々。
偽りの記憶を疑いもしなかった、“なんでも屋”だった日々。

そして、真実と虚構の間でもがき、自分の弱さや脆さにも、自分がどれほど大切に想われていたかにも気付くことが出来なかった、あの旅と闘いの日々にも。

まだ思い出していない段階で、一方的に告げられて残酷な真実を知らされる。
それが彼女にとって良いことなのかどうか、クラウドにはわからない。
わかってもいないままに、その手段を用いたくはなかった。
思い出すまで黙っているのが良いことなのか否かも、同じくらいわからなかったけれど。


───でもその問いなら、俺は答えられる。


「どのくらい時間かけたら、思い出せるかな」

静かに、ゆっくり息を吐いて尋ねるエアリス。
クラウドは良く晴れた空を見上げながら答えた。


「具体的に、いつだとは言えない。だが思い出せる。しかもそう遠くないうちに」

「自信たっぷり、だね」


顔を上げて、エアリスがこちらを振り返る。
この青年にしては珍しく、遠からず思い出せると迷いなく言い切ったことが意外だったのかもしれない。

きっと覚えている。
きっと思い出せる。
クラウドは断言できた。
それを受け入れるのは、実はとても苦しいけれど、彼には確信があったから。

「当たり前だ」

その強気な言葉とは逆に、クラウドは目を伏せて自嘲しながら苦笑する。


「大切だと思ってくれた人、一度好きになったら・・・なって、しまったら」


他の誰でもない、自分自身がそうだったから。





「忘れるなんて・・・できないんだ」





エアリスがいなくなってから今に至るまでの時間を、クラウドは振り返る。

ずっと。

触れることも、一目会うことすらも叶わなかった。
それでも本当の自分を探してくれた、会いたいと言ってくれた女性を想い続ける、愛してしまう己が心を、クラウドはどうすることもできなかった。
どんなに女々しい、情けないと叱咤してみても、自身の心の中から彼女がいなくなることはなかった。
だからこそ、彼は確信をもって答えられる。



「絶対に、できないんだ」
───また、この感覚。


紡がれるクラウドの言葉に、エアリスの心は締めつけられる。

クラウドの言葉は、自分を安心させる為のもの。
それはわかっている。
わかっている、はずなのに。



───あなたが見つめてるのは誰?



彼の優しい言葉が、細められたその目が、とても苦しい。
彼が自分の知らない時間を生きたこと、そしてその時間は、多分遠い昔のことではないのだと、否が応にも気付かされる。



“忘れるなんて・・・できないんだ”



クラウドがその言葉を声に乗せたとき、間違いなくその声の先に、心の中に、誰かがいた。
心の底から、その誰かを想っていた。
きっと、ずっと、狂おしいほどに。



───あなたの心の中にいるのは、誰?



クラウドは微笑みを浮かべてみせようとした。
しかしエアリスの目に映るのは、彼の整った顔立ちに残された、その努力の跡だけだった。
どこか儚げで、孤独で、寂しそうに見えた。
遠くを見つめるように目を細めるクラウドが、自分ではない誰かを、ここにいない誰かを見つめているように思えた。

「だから、すぐに思い出せるさ」

前を歩いていた筈の自分をいつの間にか追い越して、眩しそうに空を見上げて進むクラウドの声が、背中が離れていく。


───やだ・・・やだ!


「クラウド!待って!!」

「・・・っ!?」


これ以上先へ、遠くへ行かせまいと捕まえるように、エアリスは必死で、振り返ったクラウドの両腕を掴んでいた。

「エアリス?」

「クラウド・・・」

慌てて顔を背け、視線を逃がそうとするクラウドの頰を、両の手で包み込む。


「クラウド、あの・・・」


怖くなった。
思い出せないいつかのように、彼に自分の手が届かなくなるようで。
その青い瞳が、もう自分を映さなくなりそうで。



───わたしを置いていかないで。あなただけは、どこにもいかないで。



戸惑うように泳ごうとしていた、青い瞳が静止する。
逃げ回ることを止めたその瞳が、エアリスを捉える。


「・・・心配するな」

「えっ?」


青い瞳の中に、自分の姿が見える。
陽の光を受けた金色の髪が、視界に入る。



「俺は、いなくならない」



たったそれだけのこと。
なのに、どうしてこんなにも安心できるのだろう。
今の今まで振り払えなかった恐怖と不安が、青と金色の光を浴びて溶けていく。
このままこの金色の光に照らされて、この青の中にいたいとまで望んでしまうのはどうしてなのだろうとエアリスは思う。


「強く・・・なんかないが、こう見えてしぶとい・・・かどうかもわからない・・・けど、とにかく・・・」


コミュニケーションが苦手なクラウド。
そんな自身に苛立ちながら、それでも彼は懸命に言葉を探す。
照れたように。
困ったように。


「今は、足搔くのも悪くない・・・と思う。自分でも意外だ。新発見、だからな」


そんなクラウドの姿に、エアリスは気付く。
言葉や表現そのものなんて、下手でも何でもいいのだということに。


「だからいなくならない。俺は、その・・・」


少しだけ躊躇うように言葉を詰まらせたクラウドだったが、エアリスの手に包まれて、首も顔も、目も動かせない。
やがて意を決したのか、クラウドの頰を包むエアリスの手に、グローブで覆われた彼のそれが重ねられ、真近にいなければ聞こえない程の声量で言葉を続けた。




「・・・いなくなりたくないんだ」




彼が彼の声を、彼の言葉に乗せる。
だからこそ、その言霊はこんなにも暖かく、エアリスの心に灯されていく。




「ここから・・・あんたのいるところから」




先程のクラウドの言葉は、なるほど真実だったのだろうとエアリスは理解する。
その少し上擦った、囁くような甘い声音も、その瞬間赤みがさしたクラウドの顔も、どこか泣き出しそうな青い瞳も、忘れはしないと絶対になれるから。


「うん・・・ありがと」


クラウドの頰から手を離し、今度は顔の前に小指を差し出す。


「ね、クラウド。約束、しよ?」

「・・・約束するのは良いとして、“それ”もしないと駄目なのか?」


一歩下がって間を空けようとした青年に歩を完璧に合わせ、エアリスも一歩を踏み出して至近距離を維持する。
戸惑いの表情を隠せなくなったクラウドが無意識に後退ろうとすることが、エアリスには手に取るようにわかった。
そしてその理解は、きっと知識でも、記憶でもない。


「約束、クラウドは守ってくれるよね?指切り、できるよね?」

「・・・」


戸惑いながらも、恐る恐る、エアリスの小指にクラウドのそれが絡められる。


「約束、だよ?」

「ああ・・・約束する」


約束の指切りを交わしながら、エアリスは自分自身の美しいとは言い難い感情を自覚する。
約束することで、彼を自分の元に縛っていたい。
指切りを交わすことで、彼の元で縛られていたい。
彼を縛るのも、彼に縛られるのも、自分でなければ嫌なのだと。
そして、それはクラウドも同じだということも。


───クラウドも、わたしも同じ。離れて、いなくなっちゃうなんて、嫌だよ。
「・・・っ、行こう。この先に、少し用がある」


小指を絡めたままの沈黙に堪えきれなくなったのか、クラウドが空いた手で何かを取り出した。


「お花の種?」

「生命力が強そうなやつを優先した。センスは保証できない」

「それが、クラウドの用事?」

「・・・気まぐれだ。何となく蒔いてみようと思った」


そう言った自分の顔を直視されたくなかった。
だからクラウドはエアリスから視線を外し、足早に歩を進めようとした。
わざと、あからさまに、ぶっきらぼうな態度と口調を強調しているのをエアリスが見逃すはずがないことなど、とうにわかっているのに。


「ふ〜ん?今度は、こっち見て言って?」

「う・・・」


───こんなにわかりやすい人だったっけ?


あまり追及するのはかわいそうかなと思いながらも、クラウドの本心を聞き出したい自分の心を、エアリスは偽れない。
そして、クラウドは逃げ切れない。



「ねえ、どうしてここに持ってきたの?」

「・・・」


───・・・勝てないんだ。こうやって上向きで見つめてくる、この瞳にはどうしても。


またしても受け入れざるを得ない敗北を認めて息を吐き、手に取った種子に視線を落として、クラウドは答える。



「・・・嫌いじゃない」

「えっ?」



何かを思い出して懐かしむような、クラウドの瞳。
今度は遠いどこかではなく、大切そうに、そっと握られた種子に、見守るような視線が注がれる。




「花・・・嫌いじゃないんだ、俺」




エアリスが手渡してくれた、あの花を受け取った時。
その瞬間こそが、青年にとって全ての始まり。




「春・・・幸せが来る。そう知らせてくれる」




あのとき、凍りついていた自分の時が溶け始めた。
停止していた自分の生が、そこからもう一度動き出した。
クラウドは素直に、そう信じることができる。


「少なくとも、俺には知らせてくれた。もうすぐ、幸せが来ること」 


それはきっと、クラウドの大切な思い出なのだろう。
青年の懐かしそうな顔を見る度に、エアリスは思う。
もしもそのとき、そこに自分もいたのなら、一分一秒でも早く、彼と共にその思い出に立ち寄ることができる自分になりたいと。



「花は知らせてくれる。エアリスが教えてくれた」

「わたしが?」

「だから花はす・・・き、らいじゃない」



瞬間、エアリスの心は大きく高く跳ね上がる。


「クラウド!今のもう一回言って!」

「・・・花は嫌いじゃない」

「もうっ!違うでしょ!」

「違わない。花は、嫌いじゃ、ない」

「その前!言い直す前に言いかけたの!」

「言い直すも言いかけたもない。言おうとしたことをそのまま、そのとおりに言った」


クラウドは早口で言うと、そのまま早足で歩き出す。


「む〜」


素直じゃないクラウドに頰を膨らませながらも、もうずっと前から、エアリスは知っている気がした。
素直じゃないのが、クラウドという人なのだと。
そして・・・


「えいっ」

「っ!?」


駆け寄って追いつき、エアリスはクラウドの腕に自分のそれを絡める。
素直じゃないクラウドだからこそ、エアリスは素直になれるのだと




「っ、な、何なんだいきなり?」

「クラウド、すぐに先に歩いていっちゃうんだもん。前と後ろじゃなくて、隣がいい」




“先に行かれてしまう”ということ。
その痛みを、クラウドは身に沁みて知っている。


「それは、その・・・悪かったな」


彼女が自分と同じくらい知っていることも、それ以上に身に沁みて知っている。





“隣がいい”

叶わなくなってしまうのが怖くて、クラウドが願えなかったこと。

───本当は願いたかった。それだけを叶えてほしかった。





クラウド自身も、そして今もやはり自信は持てないが、多分エアリスも。

エアリスの突然の行動で一瞬強張った身体から、力が抜けていくのがわかる。

「暖かいんだな、エアリス」

「暑苦しかった?」

正面でも隣でも変わることなく、自分をまっすぐに見つめてくる翡翠の瞳を見つめ返すのは、この青年にはやはり至難の業だ。


「そうじゃない。暖かくて・・・」


実のところ、暖かいどころではなく、もはや顔面が沸騰しているに等しい熱を帯びていることを、クラウドは自覚していた。
それでも離れてほしくない感情の方が勝ったのか、ほぼ反射的に答えていた。




「暖かくて、心地良いんだ。だから・・・俺も隣がいい」




───急にそんなこと言うの、ずるい。


今の今まで、目に見えて恥ずかしがっていたクラウドのたった一言に、エアリスの心は射抜かれる。
照れて、動揺していたクラウドのたった一言で、エアリスの胸は高鳴り、熱くなる。

自分のペースだったはずなのに、あっという間にひっくり返されてしまうこと、そのことに彼が気づいてもいないのが悔しい。
思いもしないところで現れる彼の赤心を聞けたこと、それに自分が触れることができるのが嬉しい。

絡めた腕に力を込めると、クラウドの体温が高まっていることがわかる。
大きく、ゆっくり呼吸する音が、エアリスの頭上から聞こえる。

緊張、気恥ずかしさを鎮めようとしながらも、腕を振り解くつもりは全く無い。
そんなクラウドの感情が、腕を通して伝わってくるようで、エアリスは嬉しくなった。



「もう少し、こうやって歩こ?」

「・・・ああ」



───2人一緒に歩きたかった。前と後ろじゃなくて、隣に立って。


To be continued…