私が家庭教師をしていた不登校の女の子(当時中2)は、ごく普通の女の子でした。
ゲームやアニメが好きで、私が教えに行くといつも楽しそうにゲームやアニメの話をしてくれました。
特に性格に問題があるわけでもなく、しっかりしていて、憂鬱そうだとも見えませんでした。
でもその子はいつも保健室登校をしていて、教室には行きたくないと言っていました。
最初のきっかけは部活だったようでした。
原因について詳しく聞き出すのは嫌な気持ちをさせてしまうと思い、何も聞きませんでした。
ただ、部活での人間関係でいやになったと言っていました。
そこから始まった不登校は、中学卒業までおよそ2年間続きました。
授業に出ることがないので成績はもちろん良くなく、テストを休んだりもしていました。
学校は、休んだり、行っても保健室だったりとあまり進展することがありませんでした。
ただ、話す口調はしっかりしていて楽しそうだったので、精神的に問題はないようでした。
3年生になってクラスも変わり、彼女もなんとかして行きたいと思ったのでしょう。
頑張って教室に通い始めました。
でも、私は心配でした。
無理は長く続かないと知っていたからです。
一時続いたとしても、その反動でまた大きな休憩がやってくる。
その子はしばらくすると教室に行かなくなりました。
聞いてみると、
「クラスの子がいやだ」
と言いました。
「どうして?あ、いやなら言わなくてもいいけど」
と私が言うと、
「ある女の子が、すごく仲が良かった友達を突然嫌いになって陰口を言っているのを見て、『なんでそんなひどいことができるんだろう』と思ってクラスのみんなが嫌になった。」
と教えてくれました。
私は心を打たれました。
この子は自分がいじめられたわけではありません。
他の子が陰口を言っているのを見て、「ひどい」と思いクラスが嫌になったのです。
普通だったら、「うわぁ怖い、私は言われないように気を付けよう」とか思って、放っておきませんか?
だけどこの子は違ったんです。
たとえ休むことで自分の学校生活に影響が及んだとしても、そんな汚い人間社会を見るのは嫌だというのです。
なんて優しい子なんだろう。
と思いました。
とても純粋で、正義感が強く、不器用。
こんなに繊細で優しい子が不登校になって将来を危ぶまれ、人の悪口を平気で言って傷つける子がのうのうと生きている、そんな世の中は理不尽だなぁと思いました。
絶対この子には幸せになって欲しい。
不登校になったからといって人生を棒に振ることがないように。
私は名古屋に引越しをしましたが、その子の家庭教師は続けました。
バイト代はほとんど交通費に消えました。
でもここでやめたらこの子やそのお母さんやおばあちゃんを励ましてあげられる人はどこにいるのだろう?
と思い、めんどくさくても続けました。
その子は、自分でリサーチして見つけ出してきた「昼間の定時制高校」を志望校にすることに決めました。
自分で資料を探したり、先生に聞いたりしてその子なりに考え出した結果です。
私は、そんな風に自分の将来について向き合っている彼女を本当にえらいと思いました。
私は、高校受験のときに逃げてばかりいたからです。
当時の私よりも、何倍も立派な子だと思いました。
自分で決めた目標は、彼女をやる気にさせました。
今までやる気がなかった彼女が嘘のように、勉強に励んでいました。
(人は、自分で本当に欲する目標があれば頑張れるものです。
本気で頑張れる目標を、是非見つけて欲しいと思います。)
私は家庭教師に行くのが楽しくなりました。
やる気のある子を指導するのはこんなにも楽しいことなのだと思いました。
そして、絶対に志望校に合格して欲しい、そのために私に出来ることはなんだろうと一生懸命考えながら家庭教師をしていました。
当の本人は頼もしいもので、
「過去問を解いてみたけど結構いけそうな気がする」
と言っていました。
そして本当に合格しました。
信じられないような、夢を見ているような、でも現実でした。
自分が受験に合格したときよりも嬉しくなりました。
本当に、2年間、辞めたいときもあったけれど、先が見えない長い時間だったけれど、頑張ってよかった、諦めないで良かったと思いました。
そして、一番頑張ったであろう本人の成長を、何よりも嬉しく、誇らしく思いました。
人生の大きな壁を乗り越えた彼女は、春から元気に高校に通って、ときどき報告メールをしてくれました。
好きな男の子ができたり、バイトを始めたりと充実した高校生活を送っているようでした。
私は不登校のときにとても孤独でつらい思いをしたけれど、その経験のおかげで他の誰かの助けになることができるのなら、こんなに苦労の報われることはない、と思います。
苦しみは嫌です。
だけど、その苦しみを知ることによって、同じ苦しみを味わう人を少しでも減らせるのなら、私は苦しむことも悪くないと思いました。



