白那
「…戦線の押し上げ、か」

夏翔麗愛
「単純な物量戦術なのです、むしろこっちはやりやすくなるのですよ!」

「そんな単純な事じゃねぇだろ…もし囲まれたりしたらどうするんだ?」


あの戦闘後、俺たちは1度モニタールームに戻って再び作戦会議をしていた。
今度は俺自身もちゃんと会話に加わり、意見を出し合っている。
とはいえ、どうやってこの状況を覆せるのか…


夏翔麗愛
「その気になれば、キングゴルーグで一気に壊滅出来るのです!」

白那
「ダメダメ…それは最後の切り札だ、オレが良いって言うまで絶対に使っちゃダメだからね?」


白那さんにそう言われて夏翔麗愛ちゃんはぶーと不満そうに頬を膨らませる。
この娘、精神的には21歳相当らしいけど、ホントなのかね?
藍ちゃんや棗ちゃん見てたら何となく納得も出来るけど、どうにもこの娘は幼さが残ってる気がする…


大愛
「とりあえず、敵の同行が気になる所ではあるな」

二海
「それなら、偵察を出してみるか?  私を筆頭に数人機動力のあるメンバーを貸してもらえればやってみせるが?」

「敵を知れば百選危うからず、か…悪くないと思いますけど?」

白那
「なら、杏ちゃん達に頼んでみようか?  彼女達なら機動力も高いし、何より判断力が高い」

夏翔麗愛
「でも、無理だけはダメなのですよ?  杏お姉ちゃん達はそこまで強く無いから、注意しないと…」


夏翔麗愛ちゃんはそう言ってやや不安そうな顔をする。
強くない…ね。
割かし夏翔麗愛ちゃんって言い難そうな事をズバッと言うよな…
悪気が無いのは解るけど、現実をハッキリ突き付けられるのもそれはそれでキツイんだが…


二海
「出来る限りのフォローはしてみるさ…」


そう言って二海はひとりで部屋を出て行く。
さて、偵察となるとその分陽動も必要になるな!


「大愛さん、体力はどうです?」

大愛
「ダメージはほとんど受けていないが、PPに余裕があるとも言えんな」

白那
「宙君、今回君達は休んだ方が良い」
「陽動なら他に適任者もいる、今回はそっちに任せて信じるんだ」


白那さんにそう諭され、俺は黙って頷く。
大愛さんはため息ひとつ吐き、そのまま部屋を出て行った。


「あ、大愛さん!」

白那
「心配しなくて良い、彼女は無駄な事をする性格じゃないからね」
「それより、アレを使えるのは君だけなんだ…頼むから無茶はしないでね?」


そう言って白那さんは俺の肩をポンと叩く。
アレ…ね、白那さんにとって大愛さんは元嫁らしいけど、今でも因縁浅からぬ関係なのかね?
大愛さんもその辺はあまり語りたがらないし、過去にはどんな因縁があったんだろうか?

少なくとも今の両者から推察するに、そこまでの確執は残って無さそうなんだけど…


夏翔麗愛
「それよりお兄さんも休むのです…戦場に置いて常に万全の状態を保てるとは限らないのですから」

「あ、ああ…分かったよ」


俺はそう言って部屋を出る事にした。
あのふたりはずっとあそこでモニターとにらめっこしてるみたいだけど、ちゃんと休んでるんだろうか?
実質指令室だし、白那さんが体調崩したら目も当てられない事態になりそうだけど…


(いや、もしかしたらそういう作戦もあるのかもしれない)


考えてもみれば、まず戦力比が違いすぎる。
だからと言って、向こうからもイタズラに戦力を浪費してここを落とそうとは思わないはず。
それなら、もっと楽にここを落とす方法がある…それは


(ひたすら時間をかけて、こっちの兵站を枯渇させる作戦…)


良くも悪くも、こちらの補給線は限られてる。
かなりの食料ストックは残ってるらしいけど、それでもいつかは切れる。
相手は逆にあれだけの物量を動かしてる以上、それを運用出来る兵站は潤沢に用意してるはずだ。

そう、俺達が今置かれている現状は…補給線の絶たれた籠城戦。


(古来より、援軍の無い籠城戦なんて敗戦も同義)


なら、どうする?
少なくとも俺が敵の大将なら、戦力を小出しにして相手を疲弊させ、寝る間も置かせずに進撃と撤退を繰り返すが…
今の所、相手にその気配は無い。

だが徐々に戦線を前に出して、こちらを追い詰め始めてはいる。
大規模な部隊を同時運用する以上、指揮官も複数いるはずだが…


(だとすると妙だな?  確かあの黄色い指揮官、わざわざ叫んで指示出してたけど…)


思い返してみればおかしい事だらけだ。
空を飛べる指揮官が、何でわざわざ声出して低空飛行で指示してるのか…?
拡声器でも手旗信号でも何でもあると思うんだが…それをしてなかったって何か理由があんのか?


(なら逆に考えてみるか、そういう頭も無かった…とか?)


もしくは、不測の自体でそうせざるを得なかった…
確か相手の大将はエスパータイプって聞いてたな…なら本来は超能力で通信してたと予想される。
なら、何でそうしなかった?


(出来なかった…もしくはやりたくない、か?)


と、なると…超能力による通信は何か問題がある?
そう言えば、夏翔麗愛ちゃんもテレパシーは使ってないみたいだけど、何か関係があるのかな?
大愛さんや白那さんは特性の『テレパシー』って奴で会話出来るらしいけど…それは別に超能力の類いじゃないらしいし。


(…もしかして、お互いに傍受を狙ってるのか?)


超能力による通信は、ジャックされる可能性が高いのかもしれない。
夏翔麗愛ちゃんは、長距離に置いて感情の揺れだけで相手の思考を読み取ったり出来るらしいし、相手はその能力を警戒してるのかもしれないな。
だとすると、夏翔麗愛ちゃんがあそこから動かないのも納得だ、常に目を光らせてなきゃならないんだから…

同時に、夏翔麗愛ちゃんの役割が俺たちの生命線なのも理解してしまった…
いわば大規模レーダーだ、夏翔麗愛ちゃんがいるから敵の戦力も大まかに解るし、対策も立てられる。
だが、それが無くなれば俺たちはもう敵の場所も数も見失う事になる。


「…うん?  でもそれなら偵察とか必要あったのかな?」


夏翔麗愛ちゃんの能力で大体解るなら、二海達がわざわざ出る必要は無かったんじゃ…?



………………………



「…成る程ね、敵拠点の情報が目的か」
「って事は、ようやくこっちから攻める作戦に入りたいって訳だ」

二海
「理解が早くて助かる、とりあえず今回の目的は北にある塔を目指す事になる」


二海はそう言ってテーブルに地図を広げた。
夏翔麗愛が手書きで描いた為か、色々適当な図だけど…


「この城は最南端、敵は北から徐々に戦線を押し上げてるって訳か」

二海
「そして、この城と敵拠点を結ぶ位置に塔がひとつある」
「敵はそこを占拠していて、監視塔の役割を持たせているんだ」

「えらくアナログだね?  互いに超能力使えるなら、そんな事しなくても把握出来るんじゃないの?」


アタシが至極当たり前っぽい事をツッコムと、二海やや複雑そうな顔をしていた。
どうやら、何か理由があるっぽいね~


二海
「私とウォディは一応親子だ、互いの超能力は互いに干渉出来る」
「だが私とウォディだと超能力の質は向こうに軍配が上がる」
「だからこっちからは読めないし、むしろ一方的にこちらの情報を渡しかねないんだ…」

「それでも相手が監視塔使わなきゃならないって事は、それだけ夏翔麗愛ちゃんの能力が怖いって所かね?」


二海は驚いた顔をし、アタシの顔を見る。
まぁそこまで情報渡されれば予想出来るって…
しっかし、そうなるとこの戦いは思ったよりアナログ戦になるって事だね~
確かに、それなら偵察も致し方無しって訳だ!


「了~解、なら妹達も連れて早速出るよ」

二海
「決して無理はするなよ?  私も後から出るから、勝ち目が無さそうならすぐに逃げろ」

「そういうのは得意分野だから、任せときな!」


アタシはそう答えて妹達を叩き起こす。
ったく、戦時中なんだから気を抜くなってのに!
って、こういうの何か久し振りかも…
あの世界の時は、こんなゆとり何も無かったのにね…



………………………



「地形は叩き込んだか?」

土筆&未生羅
「うん、大丈夫!」


アタシ達はそれを確認して走り始める。
アタシ達ペンドラー姉妹は全員『加速』の特性だ。
故に、通常では有り得ない程の速度で私達は走る事が出来る。
そしてそれに比類するスタミナも私達は十分にある。
伊達に訓練を怠った事は無い、役に立てる部分は確実に役に立ってみせるさ!



………………………



「ここまでは敵の姿も無い、か…」

土筆
「思ったよりも敵は塔の近くにいないんじゃ?」

未生羅
「もしかしたら罠の可能性も有るんじゃ…?」


アタシは1度足を止める。
それに倣って妹達も足を止めた。
塔は既に目視距離…周りは林だらけで、視界はすこぶる悪い…か。
今回の偵察は、あくまで塔に潜んでいる敵の正確な数を知る事。

そしてその戦力の高さを測る事、だ。
敵が雑兵ばかりとは限らない、もしかしたら一騎当千の化物が潜んでいる可能性も有る。
そうだった場合、アタシ達じゃ対処は出来ない。
なら…ここで取るべき最善の行動は。


「…未生羅はここで待機、30分以内に戻らなかったら即座に撤退して緊急事態宣言!」

未生羅
「え…?  でも…!」

「3人で行って、一気に全滅したらどうなる!?」
「冷静に戦局を見ろって何度も言っただろ!?」
「最悪、アタシ達が全員やられたら誰がその驚異を城に伝えるんだ!?」


アタシがそう怒鳴ると、未生羅はしゅん…と俯いてしまう。
この娘は良くも悪くも、土筆よりも内気な性格になってしまった…
個性が付いたのは喜ばしい事なんだけど、普通の世界での生活は良くも悪くも未生羅を弱くしてしまったのかもしれない。

だからこそ、この娘は残るべきなんだ。


「後から二海が駆け付ける手筈になってる、最悪の時は二海の指示を仰ぎな!」

未生羅
「う、うん!」

「行くよ土筆!  先行して塔の偵察を行う!!」

土筆
「了解!」


土筆はあれから自信も付いたのか、前向きになった。
自分から主張も出来る様になったし、良い方向だろう。
出来るなら…こんな戦場に出なきゃ良かったんだけど。


(それでも、アタシは聖さんを助けると決めた!  なら、最期までその遺志を貫き通す!)


アタシ達は高速で塔へと向かう。
そして塔の近くまで着いた所で私達はスピードを抑えた。



………………………



(…?  入り口には誰もいない?)

土筆
「お姉ちゃん、やっぱり罠なんじゃ?」


その可能性は低い…と思ってたんだけど。
ここまで防衛部隊すら存在しないってのも、確かにおかしな話だ。
塔の頂上にはちゃんと監視兵がいたし、監視塔として機能させているのは確実なんだけど…


「………」


アタシは地面に手を当てて、振動を読み取る。
アタシ達の様に地を這う虫タイプの多くは、こうやって相手の位置を探る事が出来るのだ。
主に敵の足音とか感じ取る事が出来るんだけど…


(馬鹿な…?  防衛部隊所か、近くに人ひとりいない!?)


アタシは思わず冷や汗をかく。
その意味は、何だ?
やっぱり罠なのか?  それとも、もっと別の何かが…!?


(い、いる…!!  入り口の奥にひとり!  体重はかなり重い?  何かを着込んでる…鎧、か?)


ここでアタシは何やら騎士っぽい誰かの足音を感知した。
そしてそれは段々と入り口から出て来ており、アタシは遠目に息を殺して草むらに潜む。
気配を消すのは得意だ、土筆も問題無い。
これはあくまで偵察、決して無理はしちゃいけない…!
だけど、敵の正体を見定める事位はしないと!

ガシャ!  ガシャ!と、鎧が揺れる音が響いていた。
そして塔の入り口からは黒い全身鎧に身を包んだ重騎士が現れる。


(な、何だアイツ…!?  身に纏ってる雰囲気が尋常じゃない!!)


これは、これまでに備わってきたアタシの勘が全力で危険信号を出すレベルのヤバさだった…
思わず背筋が凍る、あんな異様な相手は見た事が無い!


(どうする…?  逃げるにしても、タイミングを見計らわないと!)

黒騎士
「ふーん、虫が2匹か…もしかしてそれだけかな?」


既にバレている!?
しかもこっちのタイプまで当てやがった!
だとすると、相手はエスパーかその手の能力者!?
恐らく人間じゃあない!  多分、ポケモンだ!!


「土筆、すぐに逃げろ!」


アタシは土筆の肩を叩いてそう指示を出す。
土筆はビクッ!と体を震わせ、アタシの表情を伺っていた。
アタシは1発土筆の頬を手の甲で叩き、渇を入れる。


「グズグズするな!  これは命令だ!!」

土筆
「っ!?」


土筆はすぐにその場から背を向けて撤退する。
アタシはあえて敵の前に姿を見せ、すぐに戦闘態勢に入った。


黒騎士
「ほう!  すぐにひとり逃がすとは良い判断だ!」
「だが、それは自分が犠牲になってまでやる事かい?」

「安心しな!  アタシもすぐに離脱させてもらうさ!!」

黒騎士
「ふむ、気後れはしてないか…なら!」


突然、黒騎士は腰に差していた大剣を右手1本で抜きそれを地面に刺す。
瞬間、そこから凄まじい電気が広がり始め、アタシの足元は電気のフィールドで覆われてしまっていた。
アタシはすぐにこの状況を察し、相手から距離を取る。


黒騎士
「少し…味見させてもらおうかぁ!?」


黒騎士はアタシの動きに合わせて剣を薙ぎ払う。
遠距離から電撃が飛ばされ、アタシはステップしてそれを回避してみせた。


(よし!  思ったよりもスピード差はある!!  これなら離脱出…)

黒騎士
「はい、つっかっま~えた~♪」


何と、気が付けばアタシは組み付かれていた。
そしてそのまま地面に押し倒され、マウントポジションを取られる。
アタシは舌打ちするも、状況はいきなり最悪だった。


(『高速移動』の類いか、『電光石火』!?  どっちにしても、あの距離を一瞬で潰して来るなんて!!)


黒騎士
「ふっふふふ…さぁ、どうする?」
「このまま一思いに心臓を貫くか?  それとも首を落として晒してあげようかい!?」


黒騎士は剣を構えつつも、頭をこちらに近付けてそんな風に威圧する。
アタシはまた背筋が凍り、全身に恐怖が走るのを理解する。
だけど、これはアタシ自身が選んだ道だ…!


(ここでアタシがやられても、土筆が帰還すればこの敵の事は知らせられる!)

黒騎士
「ふむ、思ったより冷静だねぇ~」


そう言って黒騎士はアタシの右足首を切り落とした。
アタシはあまりの痛みに絶叫し、悶絶する。
それを見て、黒騎士はこの上なく楽しそうに笑っていた。


黒騎士
「アッハッハッハッハ!!  それだよ!!  その痛み!!」
「どうだい!?  怖い!?  逃げ出したい!?」
「ならもっと抵抗しなよ!!  もっと私にも痛みをくれ!!」


アタシはコイツが危険なのを再確認する。
それも今までに見た事の無い残虐性だ!
かつての茫栗でも、ここまで狂った思考はしてなかった!


(足をやられてもう逃げられない…ならやるだけの事を、やってみようかね!)


アタシは残った左足を地面に突き立てて『地震』を起こす。
その衝撃で黒騎士は少し体が浮き、アタシはすかさず体を引き抜いて体勢を整えた。
思ったよりも効いてる?  という事はやはり電気タイプか!!


黒騎士
「う~ん!  中々気持ち良かったよ?  でも、これじゃ物足りないなぁ~」

「とんだドMだね!!  それならこれでどうだい!?」


アタシは片足でジャンプしてそのまま距離を取る。
そして着地と同時に『地均し』を起こし、黒騎士の足元をゆるがせた。
くっそ、鎧のせいでダメージが読み取れない!


黒騎士
「おっとと…!  素早さが下がるじゃあないか?」

「それが、目的だからだよ!!」


アタシは更に『岩雪崩』で追撃をかける。
踏み込んだ地面から岩が飛び出し、投石の様に黒騎士の上から岩雪崩が降り注いだ。


黒騎士
「やれやれ、小手先の技だね」


そんな事を軽く言いながら、黒騎士は剣を持ってない左手1本で岩のひとつを掴み取る。
そしてそれを持って他の岩にぷつけて軌道を変え、安全地帯を作り出して無事に乗り気ってみせた。
いくらひとつひとつは30cm程度の大きさとはいえ、軽々と片手で返すのか!


「クソッタレ…!  パワー差がそこまであるってのか!」

黒騎士
「むしろ、その足と出血で良くやる方だよ…」
「でも、そろそろ限界かな?」


黒騎士の言う通りだ…もうアタシの体力は限界近い。
だけど、これだけ時間をかけれたなら十分だ。
後は…頼むよ、土筆…未生羅!!


黒騎士
「…もう諦めるのかい?」

「どの道、アンタには勝てる気がしない」
「アタシの役目は一応果たした、なら引き際位あっさり済ませるさ」


アタシはその場で尻餅を着き、敗北を受け入れる。
思ったより、早かったかな?  こうなるのは…
だけど、聖さんや大将がいなけりゃもっと早くに死んでた。
それを考えりゃ、むしろ幸せすぎた位だろ…

土筆と未生羅も、もう立派にひとりでやれる様になってくれた。
後は、きっと自分達でやっていける。
思い残す事は……無い。


黒騎士
「…つまらないなぁ、こんな程度だなんて」
「とはいえ、小言言われるのも面倒だし…仕方無いか」


黒騎士は何かブツブツ言いながらも、剣を持ったままこちらに寄って来る。
今度こそ、終わりだ。


黒騎士
「まぁ、一応謝っておくよ…すまない、これも仕事だから」

「…ああ、気にしたりしないさ」


黒騎士は剣をアタシに振り下ろす。
アタシの命運は…そこで途切れてしまった。



………………………



夏翔麗愛
「……!!」

白那
「?  どうか、したの?」

夏翔麗愛
「……っぅ!!」


モニターを見ながら、夏翔麗愛は珍しく怒りに顔を震わせていた。
こんな顔をした夏翔麗愛、オレでも初めて見る。
一体、何を読み取ったんだ?


夏翔麗愛
「…まだ誰にも言わないで、杏お姉ちゃんが戦死したのです」

白那
「…っ!?」


まさか…そんなあっさりと?
杏ちゃんは確かにそこまでの強さを持った家族じゃないけれど、それでも簡単に敵に仕留められる程弱くもない。
ましてや、土筆ちゃんと未生羅ちゃんもいたはずなのに?


白那
「とにかく状況を説明して」

夏翔麗愛
「今まで確信は無かったけど、敵にはイレギュラーがふたりいるの」


イレギュラー…だと!?
それもふたり?  何なんだそれは、まさか七幻獣とかいうのが複数いるとでも?
だけど、それにしたって夏翔麗愛のこの顔は異常だ。
まるで、予想出来てなかったっていうこの顔…
それも、完全に予想を覆されたっていう程…してやられたって感じかな?


白那
「他のメンバーは?」

夏翔麗愛
「それより、使用許可を欲しいのです!!」


夏翔麗愛はこの上なく真剣な顔でそう言った。
オレはそれを聞いて決断を迷う。
今の夏翔麗愛は、怒りに任せている…それを許可しろと?


夏翔麗愛
「もう出し惜しみしてる余裕は無いの!!」
「これ以上、犠牲を出すわけにはいかないのです!!」

白那
「!!  そこまで、切羽詰まっている状況だと…!?」

夏翔麗愛
「土筆お姉ちゃんが、そのイレギュラーに向かってしまったのですよ!!」



………………………



黒騎士
「…あれ?」

土筆
「はぁ…!  はぁ…!!  お、お姉ちゃんは何処!?」


私の前に現れたのは、まさかまさかのペンドラー。
それも、さっき始末したペンドラーの妹らしい。
アタシは途端につまらなくなり、思わずため息を吐く。

やれやれ…ただでさえ損な役回りさせられてるのに、更に上積みしろって言うのかい?


黒騎士
「私がここにいる…その意味を理解出来てるのか?」

土筆
「お姉ちゃんは、何処だぁぁぁっ!?」


妹君は怒り狂って私に襲いかかって来る。
だが悲しいかな、その力は私所か姉にすら及んでいない。
私はあえて彼女の一撃を受ける事にした。
彼女の角が輝き、『メガホーン』が私の兜を捉える。
私はそれを無防備に受け、頭を仰け反らせる事なく受けきってみせた。
しかし彼女の角は兜を貫き、私の両頬を傷付ける事には成功する。
その衝撃で、私の兜は砕け散った。


土筆
「!?  マトモに入ったのに!!」

黒騎士
「やれやれ、所詮この程度か…こんな痛みじゃ反って気分が悪くなりそうだな」


アタシは軽く妹君を睨み付ける。
『怖い顔』と言っても構わないがね!
まぁとにかく、これで彼女の素早さはガクッとダウンさ!


黒騎士
「妹君、悪い事は言わない…逃げたまえ!」
「でないと、お姉さんは君を殺さなきゃならなくなる!!」

土筆
「…っ!  それでも!!  お姉ちゃんは最期まで戦ったんでしょう!?」


彼女は更にその場から空中一回転し、全力で踵落としを見舞った。
私はそれも頭部で受け、短めの黒髪と大きな丸い黒耳が激しく揺れる。
私はそれでも、怯む事すらしなかった。


黒騎士
「彼女は立派に使命を全うした、なのに君がここで死ぬ事に意味があるのかい?」

土筆
「お姉ちゃんなら、絶対にここで家族を見捨てたりしない!!」


私はいい加減ウザくなって、左手だけで彼女を吹き飛ばす。
勢い良く地面を転がり、彼女は血を吐いて苦しんでいた。
いつもなら、心地の良い痛みなんだけど…今回は最悪の食い合わせだ!
吐き気を催すと言い換えても良いね!


黒騎士
「君の美学なんてどうでも良いよ!  姉の立派な功績に泥を塗るなと言っている!!」
「君は姉に何と言われた!?  ただ無駄に討ち死にしろと命令されたのか!?」

土筆
「…!!  そんな事、貴女に言われなくってぇ…!!」


彼女はそれでも立ち上がり、こちらに闘志を向けた。
その闘志は実に立派だよ、でも意味を履き違えている!
悲しいねぇ…これでは先に逝った姉が報われないじゃないか。


黒騎士
「…これ以上は私も我慢の限界だ、向かって来るなら容赦はしない!」


私はそう言って剣を構える。
本来なら別に無くても良いんだけどね…まぁ一応ウォディちゃんの趣味に今回は合わせているだけだ!


土筆
「…お姉ちゃん、未生羅」
「私に、力を貸して!!」


彼女は勇気を振り絞って私に向かって来る。
実に愚直で、搦め手も何も無い。
私からすれば、ただ切ってくださいと言われているレベルの稚拙さだ。
やだねぇ、ホント…こんな役回り、2度としたくない!!


黒騎士
(一思いに首を落としてやろう!  あえて苦しませはしない!!)


せめてもの情けだ、これでもあの姉君には敬意を払っているからねぇ。
もっとも、この妹君の無能さを見たら…どれ程嘆くだろうか?


土筆
「うああああぁぁぁぁっ!!」

黒騎士
「……!!」


私は眼を細め、剣を振り払おうとする。
そのまま決まれば、確実に彼女の首は飛ぶ…が。


土筆
「!?」

黒騎士
「!?」


突然、妹君の体が横に吹き飛んだ。
そうなると私の剣は当然空を斬り、私は体勢を崩してしまう。
そして直後、私は突然空が暗くなったのを見て思わず上を見てしまった…
そこには、まさかまさかの展開が待っていたのだ!


夏翔麗愛
『これ以上!  やらせはしないのですよ!!』


そんな少女の声がスピーカーから聞こえて来る。
今私の上空に浮かんでいるのは、まさかの巨大ロボット…
見た目は何処となくあのゴルーグに似ているが、かなりの魔改造が施されている上に、そもそもサイズが大きすぎる!
おおよそ50m以上はあろうかというその巨体は、明らかに常軌を逸した代物だった。

そしてそんな規格外の代物は、あろう事かこの私に向けて拳を振り上げていたのだ。


黒騎士
「冗談……だろう!?」

夏翔麗愛
『伊達や酔狂で巨大ロボットには乗らないのですよ!!』
『シャドォォブレイクゥ!  マキシマムパァァァァァァァンチ!!』


巨大ロボットは上から私に向けて右拳を射出した。
今時ロケットパンチかい!?  ロマンは買うけど実用性0だよね!?
絶対普通にパンチした方が痛いよ!?


黒騎士
「…くっ、これは流石のお姉さんも予想外だよ!!」


私は自分でも珍しく思える程、回避に徹していた。
だが、その放たれた拳は突然に闇に消え、私の視界から完全に消える。
音も気配も無く、その拳は気が付けば私の体を吹き飛ばしていたのだ。
その痛みの経験は今まで感じた事の無いカタルシスだった。
正直、イキ狂うレベルだったよ…♪


夏翔麗愛
『!?  土筆お姉ちゃん、ダメなのです!!』

白那
『時間切れだ夏翔麗愛!  すぐに転送する!!』

夏翔麗愛
『ダメですお母さん!!  先に土筆お姉ちゃんを…!!』


そんなやり取りを私はしっかりと聞き取る。
そしてボロボロになった私に向かって、あの妹君が突進して来ていた。
もう私に鎧は無い、あるのはハイレグの下着だけだ。
いくつか骨も折れてるし、確かにこれならやれるかもねぇ~?


土筆
「お姉ちゃんの仇!!  ここで仕留めてやる!!」

黒騎士
「だけど、残念…それは選択ミスだ」


私は妹君のメガホーンを首筋1枚で回避し、カウンターで彼女の首筋を噛み千切る。
その際に炎を纏わせた私の『炎の牙』により、彼女は頸動脈を焼き切られて絶命した。


黒騎士
「…ホント、損な役回りだよ」


私の横でドサッ!と妹君が倒れる、
その際に血溜まりを作るも、すぐに光の粒子となってその存在は完全に消滅した。
あの巨大ロボはもういない、パルキアの能力で引き戻されたか。
惜しいね…欲さえかかなきゃ、最高の結果を出せたのに。


黒騎士
(流石に、お姉さんもダウンだよ…)


私はそのまま前のめりに倒れて意識を失った。
あまりの痛みに、体が快感でイキっぱなしだ…♪
こりゃ、当分動けない……な。










『とりあえず、彼氏いない歴ウン千年のポケモン女が愛する男を救う為に戦う。後悔する暇も無い』



第2話 『驚異の黒騎士』


…To be continued