女胤
「さて、そろそろ最後の通路を進みましょうか」

ホリィ
「本当に最後だと思うのですか?」


私(わたくし)達はひとまず休憩を終え、残された最後の道と思われる暗い通路を見定めた。
その先にはここからでは何も見えず、ただただ暗い闇が広がっている。
灯りひとつ見えず、果たして何があると言うのでしょうか?


女胤
「あまりに解りやすい予兆演出ですし、ね」

ホリィ
「それもゲームの知識という物ですか?」

女胤
「そう思ってもらって結構ですわ」
「とにかく、私達に他の選択肢はありません…行きますよ?」


私はそう言ってホリィさんの手を取り、ペースを合わせてゆっくり歩く。
ホリィさんは想像以上に体が弱い様です、あれからロクな食事も取れていませんし、栄養的にも足りていないのが予想出来ます。
私の様に、光合成で賄える種族でも無い様ですしね。


女胤
「大丈夫ですか?」

ホリィ
「………」


ホリィさんはコクリと頷く。
しかし、表情からはあまり余裕がある様にも見えません。
可能な限り、私が護らなければ…



………………………



女胤
「………」


暗い、暗い闇の中をただ歩く…
通路はここまで通った広さと同じ位の物ですが、長さは確実に今まで以上でした。
どの位歩いたかも忘れかねない程の長さであり、次第に私は精神を疲弊させれているのが理解出来ます。
…これも、私への試練なのでしょうかね?


ホリィ
「………」


ホリィさんの手から若干の発汗を確認する。
この暗闇では顔も見えませんので、今は繋がれているこの手が互いの状態の確認方法。
ホリィさんも、焦りは有るのでしょうか?


女胤
(そもそも、ホリィさんは本来全てに絶望して諦めたポケモン)


だからこそあんな気の狂ったシステムを受け入れ、あんな無惨な死を幾度経験しても笑っていた…
ホリィさんの本音は…どうだったのでしょうか?


女胤
(本当は、誰かに救って欲しかったのではないでしょうか?)


この繋がれている手から感じられるのは、不安と怯え。
今の彼女はあまりに弱々しく、この手を離せばその場で消えてしまいそうな感覚に陥りそうです。
だからこそ…尚更この手を離す事は出来ませんね。


ホリィ
「……!」


私は無言でホリィさんの手をギュッと握り締める。
絶対にこの手は離さないという意志表示です。
私はキッと前を睨み、ようやく灯りのある部屋を確認しました。
ですが決して急がず、あくまでホリィさんのペースに合わせて歩く…

そこから数分後…私達は遂に最後と思われる部屋に辿り着きました。



………………………



女胤
「…ここは?」

「ほう…まさか貴女の様な者が紛れていたとは、フフフ…これは面白くなりました♪」


私達の目前にはひとりの男が立っていた。
その姿は黒をベースにした基本的な執事服に髪は青髪で長さは普通位。
ピンと頭部から真上に立っている耳も同じ色ですね。
そして顔は黒人の様に黒く、瞳は悪魔の様に紅い。
私はその男の持つ独特の雰囲気を受けて、思わず身構えていた。


女胤
「…!  貴方、私の事を知っているのですか?」

「ええ、少なくとも名前と素性は」
「特異点に選ばれた、6人のポケモン…」
「女胤様、お初お目にかかります…私は『ルカリオ』の『ヌビア』、元七幻獣のひとり『真姫(しんき)』様の従者にございます」


男はそう言って自己紹介し、丁寧に礼をした。
私はそれを聞いて純粋に驚く。
元七幻獣とは…あの恵里香さんやメロディさんと同じ?
まさか、この先にその存在がいると言うのですか?


女胤
「…最初に聞いておきます、貴殿方は敵ですか?」

ヌビア
「さて、どうでしょうか?」
「私はあくまで真姫様の従者…主に従うだけです」


不適な笑みを浮かべ、ヌビアという男はそう答える。
あくまで元と言う以上、今は敵の組織に属していないはず。
ですが、それはあくまで敵の敵になっただけであり、こちらの味方という訳では無いのです。
しかし、わざわざこの場面でこの遭遇…あからさまにボス戦としか思えませんが!


女胤
「では、貴方はこの世界のクリア条件を知っているのですか?」

ヌビア
「それを知っていれば、こんな所に留まりはしませんね」


ヌビアはそう言って肩を竦める。
解せませんわね…互いに巻き込まれたとすれば、互いのクリア条件はどうなるのです?
もしこれがマルチプレイを前提としたゲームだとすれば、クリア条件は共通?


女胤
(考えられる条件は…どちらかの全滅?)


単純な対戦ゲームなら定番のルールでしょう。
どちらかが倒れれば、倒した方の勝ち。
これ程単純明快なルールはありません。


ヌビア
「ほう?  奇遇にも意見が合いましたか?」

女胤
「…ホリィさん、部屋の外に出ていてください」


私はホリィさんから手を離し、背中越しにそう伝える。
ホリィさんは無言で後ろへ退き、ゆっくりと暗い通路に戻って行った。


ヌビア
「おひとりでやるつもりですか?」

女胤
「そちらもひとりではありませんか?」

ヌビア
「ふ…自信があるという事ですか」


ヌビアは微笑して軽く斜に構える。
ルカリオは格闘タイプですが、物理も特殊もこなせる万能型。
更に鋼タイプで草は半減!  トコットン相性不利ですわね!?
ですが、私には多くの選択肢は無い。
少なくとも鋼と相性最悪のホリィさんを参加させる訳にはいきませんわ!


女胤
(今は、ただ勝つ事を考えましょう!)


私は定番の『蝶の舞』からスタートする。
とにもかくにも、コレが私の生命線です。
最悪無理矢理にでもゴリ押しで…


ヌビア
「では、僭越ながらお相手致しましょう」

女胤
「バカな!?  一瞬で背後に…!!」


いえ、これは恐らく『神速』…!
とはいえ、神狩さんのソレよりも隙が無い!
明らかに洗練された動き、先手を取られる!?


ヌビア
「…!」


私は歯を食い縛って頭部への衝撃に耐える。
ただの拳による打撃ですが、それでもかなりのダメージ!
ですが、まだこれ位では倒れませんわ!!


女胤
「次は…こちらの番です!!」

ヌビア
「!!  炎を扱いますか…」


私はすぐに体勢を立て直して右手に火球を作る。
『目覚めるパワー』の威力でも、それなりには効くでしょう!?
私はヌビアが動くよりも先に技を放つ。
高速で投擲された火球は一直線にヌビアへ向かい、着弾した。

ドォォン!と、軽い爆炎を上げてヌビアは体を焼かれる。
ですが、彼は即座に反撃を開始した。
瞬間、私の身体は容易く吹き飛ばされて壁に叩き付けられる。
何をされたのかすら理解出来ず、私は壁に張り付いて大きく息を吐いた。
そしてすかさず相手を見るも、ヌビアは余裕の笑み。


女胤
(これがルカリオの種族特性ですか!?  それとも技の性質!?)

ヌビア
「考えている暇があるのですか?」


気が付けばすぐ横にヌビアの姿が…
私はすぐに反応して蝶の舞を使い、速度を上昇させて難を逃れた。
接近されていればこういう使い方も出来ます!


女胤
「今の内に…もう1発!!」


私は目覚めるパワーで炎を練り、ヌビアに投げ付ける。
しかしヌビアはその場から移動する事無く、片手で水を作って炎を相殺してみせた。
私は唖然とする…まさか、これ程の使い手とは!!


女胤
(反応、技の練度、動きの無駄の無さ…どれを取っても私を上回っている!?)


これが…これが七幻獣の従者でしかない、と?
それならば、後に控える主とはどれ程の強さなのですか!?
かつて、あの守連さんでさえ七幻獣には手も足も出せなかったと聞きましたが…従者レベルで既に私の手に余る、と?


ヌビア
「やれやれ、思った以上に冷静ですね」
「もっと迂闊に突っ込んで来るかと期待していたのですが、少し宛が外れました」


そう言ってヌビアは軽く服の埃を叩き落とす。
あまりに余裕のその態度を見て、私は流石に突っ込む勇気は有りませんね…


女胤
(どうする?  どう攻略する!?  勝てなければ死有るのみ…なのに、これ程その壁が高いとは…!!)

ヌビア
「さて…当然まだ諦めてはいないのでしょう?」

女胤
「…当然、ですわ!!」


私は再度蝶の舞を使用する。
もはや目覚めるパワーは通用しない、ならば少しでもスピードを上げて撹乱し、より高めた火力でゴリ押すのみ!!


ヌビア
「成る程、流石に3回目となると目で追うのは不可能ですね」


そう言いながらもヌビアは狼狽えもしない。
ただ余裕で微笑し、私はそんなヌビアの背後死角に一瞬で移動し攻撃体勢に入った。
そして全力の『種マシンガン』を両手に溜め、放とうとしたその瞬間…

吹っ飛んでいたのは、私の方でした……


女胤
「かはっ…!?」


またしても私は理解不能の衝撃を受けた。
しかし
以前よりもダメージ自体は少ない。
だとすると、単純に手加減されたか…それとも?


女胤
(そうか…あれは、『波導弾』!!)


ルカリオが得意とする、必中の特殊格闘技!
しかし、弾速すら黙視も出来ないとは…!
かつて三海さんの波導弾を見た事がありますが、少なくとも黙視出来ないレベルでは無かったのに…!!
幸い、特防を高めていたお陰でダメージはそこまででもなかった様ですが…


ヌビア
「フフ、ひとつ忠告しておきましょう」


ヌビアはこちらを見る事無く、片手だけをこちらに向けながらそう言っていた。
そう、彼はこちらを見もしていない!
それなのに、こちらの高速機動を完全に把握し、あまつさえ死角に回り込んだ私を容易に撃墜してみせたのです…
少なくとも、レベルその物が違うだけとはとても思えません!


ヌビア
「私の波導弾の射程は1kmです」
「その射程内であれば、確実にどんな獲物でも必中させる事が出来るでしょう」

女胤
「何…ですって!?」


それは、この高々10m四方の部屋においては十全に働くという事。
つまり私がどれだけ動こうが技は必中し、いずれ私は倒される…と?
いえ、それは流石に不可能です。
いくら確実に当たるとはいえ、所詮この程度のダメージでしたらまだまだ耐えられる。
私には『光合成』もありますし、長期戦ならばあるいは…?


ヌビア
「それともうひとつ…私の波導弾は威力を落とした代わりに」


ドォンッ!とまたしても私の顔面が吹き飛ぶ。
見えもしないその技を私は食らって歯を食い縛る。
耐えられなくはない、ならばここは回復を…

と思った瞬間、私の身体は後ろに吹き飛んだ。


女胤
(そんな、バカな…!?  何故そんなリロード速度で撃てるのですか!?)

ヌビア
「弾速と速射性を極限にまで高めています」
「なお、私は貴女を見る必要も無くロックオン出来ますのでご心配無く」


更に絶望を上乗せしてくださいますね…!
確か、ルカリオとは波導という物を探知し、離れた相手の動きや感情すら読むという。
つまり、そんな超超高精度レーダーを搭載し規格外スナイパーライフルを持った○ュータイプ相手に遠距離から近付いてみせろと言わんばかりの無理ゲー…!

これでは、逆にこちらがジリ貧に…!!


女胤
(このままでは、嫐り殺されるだけ…!)


ならば、もはや悠長な事は言っていられません!
幸い特殊技であればまだ耐えられる、この際接近戦で一気に仕留めるしか…!


ヌビア
「では遠慮無くどうぞ」


ヌビアはこちらの感情を読んだからなのか、私のやりたい事を読んだ上で両手を開いて待ち構えていた。
私は一気に背筋が凍り付く。
ルカリオはあくまで物理も特殊も高い万能型のポケモン。
それは言い換えれば接近戦でも遠距離戦でも一向に構わん!という意志表示!!
そんな相手に対して、ノーガードで突っ込め…と?



女胤
(出来るわけがない…!  ましてやタイプ的に半減)

ヌビア
「フフフ、どうしたのですか?」
「聞いていた限りでは、貴女はもっと短絡的で迂闊だと聞いていましたが?」

女胤
「…以前までの私でしたら、間違いなくそうして死んでいたでしょうね」


私はその場で結局動けないまま、ただ構えるだけでどうしようも出来なかった。
ただ、今の会話の内に光合成を済ませて回復はしておく。
ヌビアはあえてそれを見逃し、特に阻止もする様子は無かった。
つまり…したければどうぞ、という事ですわね。


ヌビア
「フフフ、回復は済みましたか?」

女胤
「お陰さまで…!  ですがこのままダラダラとやる気は無いのでしょう?」

ヌビア
「そうですね…まぁ終わらせる気であれば」


バキッ!と突然私の脳が揺さぶられる。
金属的な何かを頭部に食らい、私は一瞬意識を失いかけた。
ただ、それでも私は倒れる事無く踏み留まる。
そして額から血を流しているのを私は理解して、キッとした顔でヌビアを睨んだ。
それでもヌビアは表情すら崩さない。


ヌビア
「今のはただの『バレットパンチ』です」
「私の打つそれは、この程度の距離でしたら容易に届きますよ?」

女胤
「悪趣味ですわね…つまり殺るならいつでも殺れたと?」

ヌビア
「フフフ…そんなに呆気なく終わらせては面白くありませんので」


私はようやく気付いた。
ヌビアに、私を殺す気が無いという事を…
初めから、この男はただ遊んでいただけ。
惨めに足掻く私を見ながら、愉悦に浸っていたのでしょう。
とんでもないドSですわね!!


ヌビア
「所詮、私にとってはこんなゲームはどうでも良いのですよ」
「ただ、私を楽しませてくれる存在がいてくれればそれで良い…」
「今は、その存在が真姫様なだけですよ♪」

女胤
「益々解せませんわね…でしたら、何故こんな世界に留まっているのですか?」
「貴方程の実力者であれば、容易にクリア条件を満たせられたのでは?」

ヌビア
「さて、それに関してはどうでしょうか?」
「ただ、ここで貴女を殺した所でクリアにはならなさそうだとは思います」


ヌビアは半ば核心めいた言い方でそう言う。
これは、クリア条件ではない?
だとすれば、一体何が条件に……?


ヌビア
「…貴女は、何故ふたりでここに辿り着いたのですか?」

女胤
「…?  ホリィさんの事ですか?」

ヌビア
「ええ、少なくとも貴女方の仲間では無い様ですが?」


私は、改めてホリィさんの事を考える。
私はただ、彼女を救いたいと思った。
聖様であれば、必ずそうすると信じて…
そんなホリィさんは、果たして私達の仲間と言えるのでしょうか?


女胤
(そう、きっと聖様であればこう答える…)


『仲間かどうかとかそんなモンは、本人が決めれば良い』
『ただ、俺は救いたいから救うだけだ』


女胤
(聖様であれば、きっとそう仰るでしょう)


あの人は、決して自ら仲間を求めない。
ただ、誰かに求められるのであれば必ず助ける。
それこそが、『魔更 聖』なのですから…
だからこそ、私もまたこう答えた…


女胤
「仲間では、まだありません」
「ですが…私は彼女を救うと決めました」
「だから、その後の事は…彼女の意志に委ねます」

ヌビア
「…ほう」
「やはり、聞いていた貴女とは大分違いますね」
「情報では、もっと冷酷で自信過剰な性格だと聞かされていたのですが」

女胤
「否定はしません、ですが今の私はそんな愚かな事をしている余裕はありませんので」


ヌビアはそれを聞いて笑う。
もはや戦う理由も失った様です。
私は構えを解き、ただ息を吐いて俯く。
どうやっても勝てませんね、今の私では。
まさか、これ程の差があるとは…


ヌビア
「そう悲観する事もありませんよ?」
「一対一で私に勝てる相手は、全世界でもごく少数でしょうし」


事もあろうにそんな事を宣った。
逆に言えば、一対一に拘らなければ解らない…という事でしょうか?
とはいえ、仮にホリィさんと共闘したとしても勝てたとは思えませんが。


ヌビア
「さて、そろそろ出て来ますよ?  私の、今の主が」


ヌビアが微笑してそう言うと、静かに奥の扉が開け放たれる。
私はゴクリと喉を鳴らし、その姿を見定めた。
現れたのは身長160㎝程の女性で、長く綺麗な白髪の持ち主。
首には赤い首飾りをしており、それが種族の特徴なのだと私は理解した。
そして身長に対してグンバツのプロポーション…衣服を一切身に付けず、その恐るべき裸体をこれでもかと言う程他人に見せ付けていた。

そう、真っ裸で!!


女胤
「この痴れ者がっ!!  服を着なさい服をぉっ!?」

真姫
「あん?  何だコイツ…?  何故女がここにいる?」
「ヌビア…連れて来るなら美少年を用意しろといつも言ってるでしょう?」

ヌビア
「お恐れながら、この方は客人でございます」


そう言ってヌビアは丁寧に礼をしてそう説明する。
何故か客人扱いされていますが、良いのでしょうか?
少なくとも、当の本人は相当面倒臭そうな顔でこちらを睨んでいますが…


真姫
「チッ、こんな世界じゃロクな餌にありつけない」

女胤
「貴女、色欲でしたわね?  それも枷か何かの影響ですの?」


私は冷静にそう質問する。
この際、真っ裸なのは無視する事にした。
いや全然無視出来ないのですけど、もう色々とアウト過ぎて何も言えませんわ!!


真姫
「はぁ?  …ふーん、成る程ねぇ」
「あの特異点の飼ってる雌豚か…何でこんな所にいるのよ?」

女胤
「サラリと雌豚とか言わないでくださいます!?」
「聖様に雌豚扱いされるならむしろご褒美ですが!!」

ホリィ
「…貴女それで本当に良いの?」


おっと、気が付けばホリィさんが近くまで来ていましたか。
もう戦闘になる事も無さそうですし、まぁ良いでしょう。


女胤
「ホリィさん、私はこれでも一般的にはHENTAIで通っております!」
「聖様の為であれば、どんな羞恥プレイですら受け入れてみせましょう!!」

真姫
「理解出来ないわね、男なんて物は玩具の様に使い潰す物よ?」

女胤
「それこそ愚かの極みですわ!  例えどんな事があろうとも玩具になるのは女の性ですわ!!」

真姫
「ふーん、それならその聖様がキモデブな鬼畜キャラでもそう言えるのかしら?」

女胤
「性格に関しては置いておいて、見た目だけがキモデブであれば問題はありませんね!!」
「中身がしっかり聖様なのでしたら、むしろオッケー!!」
「って言うか私だけを襲ってくださる鬼畜でしたらノープロブレムですわ!!」


私は悦に入りながらそう叫ぶ。
そんな私の主張を聞いて真姫さんはウザそうな顔をした。
まぁ、理解されるとも思ってはいませんが…


真姫
「フンッ、それで?  私に何か用なの?」
「こちとら欲求不満が限界越えて、○ナニーじゃ満足も出来ない身体なんだけど!?」

女胤
「サラリと変態的な発言をしないでくださる!?」
「貴女も大概のHENTAIですわね!!」

真姫
「欲望を抑制する方がどうかしてるのよ!!  良い女なら好きな男を貪ってもお釣りが来るでしょう!?」

ホリィ
「…こんなド低俗な会話を聞いたのは初めてですわね」

ヌビア
「フフフ、真姫様は欲望に忠実ですからね」


心底軽蔑した目で見るホリィに対し、ヌビアは微笑するのみ。
私としても初対面の相手にそんなド低俗な会話は慎みたいのですが、この目の前のHENTAIはそれを許してくれませんので!


女胤
「とにかく服を着なさい服をぉ!!」

真姫
「チッ、煩いわね…私に命令するんじゃないわよ」

ヌビア
「真姫様、話が進みませんので…」


ヌビアはそう言って真姫を連れて奥の部屋に入って行く。
そしてバタン!とやや荒々しく扉は閉められ、私達はしばらくその場で待つ事にした。
ただ、その間部屋の中から恐ろしい声が響き渡ってしまっていた……


真姫
『そら、もっと強く突きなさい!!  そんなんじゃ私を満足させられないわよ!?』



………………………



そのまま、ギシギシアンアンと激しいプロレスごっこの音が響き、私達は呆れながらゆっくりと座って休む事に…
もう哀れ過ぎて何も言えませんわね。


女胤
「…よくこんな馬鹿げた世界でああもハジケられる物ですわね」

ホリィ
「女胤さんもそんなに変わりませんわよね?」


即答でツッコマれた!?
いえ確かに相手が聖様であれば、私も似た様な物だったかもしれませんが…
というか、改めて私と聖様がふたりっきりで混沌に巻き込まれる事はありませんでしたからね…


女胤
「…まぁ、どの道聖様が受け入れるはずも無いのですがね!」

ホリィ
「あら?  無理矢理でもヤルのではありませんの?」

女胤
「少しでも聖様にそんな弱みがあればまだしも、まずありませんからね」


私は想像してため息を吐く。
聖様はどこまでいっても聖様…決して私ひとりを見てくださる事は無いのですから。
だからこそ、聖様は……


ホリィ
「女胤さん?」

女胤
「…お気になさらず、ゴミが目に入りましたわ」


私は定番のボケで流す事にした。
やがて再び扉は開き、今度は服を着た真姫さんが現れる…それでもハイレグの超露出度ですが!!
ヌビアも少なからず疲弊したのか、若干精気が失われていた。
まぁ、御愁傷様ですわね!


女胤
「というか、貴女達そういう肉体関係なのですか?」

真姫
「勘違いするな、ヌビアは私の玩具よ?」
「使いたい時に使う…ただそれだけの関係ね」


どこまでも下衆な発言ですわね。
まぁ当のヌビアが何も言わないのですし、私からどうこう言うのも野暮という物ですが…


女胤
「本題に入りましょうか…貴女はここから出る方法を知っているのですか?」

真姫
「そんな事を知っていればさっさと出て行ってる」
「それよりも、お前が現れた事の方が重要だ」
「まだクリア条件を見付けていないのか?」

ヌビア
「真姫様、彼女達はほぼ一本道を駆け抜けてここまで来たと思われます」
「でしたら、物理的に脱出するのは不可能かと…」


ヌビアが冷静にそう進言する。
どうやら主の方が頭は悪いらしいですわね。
さて、それではここで考えてみましょうか?


女胤
「…結局、この理解不能な脱出ゲームには物理的な出口は存在しない」

ホリィ
「ですが、条件を満たせば現れる扉もあります」


そう、条件を満たせば…なのです。
ですがその条件は未だ判明しない。
最悪、この4人全員が出られるかも解りませんね。


真姫
「…ふん、悪趣味な王が造った世界だ」
「どうせロクでもない条件でも設定してるんでしょ」

ヌビア
「ではそのロクでもない条件とは何なのですか?  真姫様…」


真姫さんは心底ウザそうな顔をする。
それ程に嫌な条件なのでしょうか?
というより、予想は出来ている…と?


女胤
「非常に興味が有りますわね、一体どんな条件だと?」

真姫
「…そうねぇ、なら」


一瞬、真姫さんの目が光った瞬間だった。
音も無く真姫さんは私の側まで高速移動し、私の首を掴む。
私は呼吸を止められ、苦しむもその意味を探った。


女胤
「な、何をいきなり…!?」

真姫
「気に入らないのよ…この私がそんな簡単に協力するとでも?」


私はすぐに頭の花から『眠り粉』を撒く。
それを察した真姫さんは手を離してすぐに離れる。
そのスピードはかなり速く、流石の『ダークライ』と言った所でしょうか!
しかし、こちとら既に疲労困憊だと言いますのに…容赦の無い事ですわね!!


女胤
「しかし、それならそれで対応させていただきますわ!!」

真姫
「ふん…これでも食らいな」


真姫さんは軽く手を掲げて黒い球体を放って来る。
見た事の無い技…!  となると、ダークライの持つ専用技!?
スピード的に回避は間に合わない、私のダッシュ移動はステップ型ですので、空中判定ではガードも出来ませんわ!!


女胤
(ですが!  それも織り込み済みです!!)


ガードも回避も間に合わない、その分だけ私は素早く踏み込めたのです。
代わりに技の直撃は受けますが…


真姫
「ハッ、ゆっくり悪夢を楽しみな…」

女胤
「ええ、存分に楽しませてもらいますわ!」


私は何の影響も無く真姫さんの側まで到達する。
真姫さんは露骨に驚いた顔をするももう遅い。
私は真姫さんの顔面を掴み、その掌から種マシンガンを一斉掃射した。
ズバァンッ!と、ショットガン型特有の炸裂音と共に真姫さんは後方にぶっ倒れる。
私はそれを見下ろしながら、ふん…と鼻で息を吐きました。


女胤
「本当に愚かですね貴女は…見ていて非常に腹が立ちます!」

ヌビア
「ククク…無様ですね真姫様?」


事もあろうに部下から嘲笑されるとは…哀れな。
そんな真姫さんはプルプル震えながらも顔を抑えて体を起こす。
まぁ手加減しておきましたからね、当然でしょう。


女胤
「『スイートベール』の特性を忘れているとは思いませんでしたわ」

ホリィ
「…?」


当のホリィさんが?を浮かべてどうするんですの!?
ま、まぁ…スイートと言いつつ、ホリィさんのソレは全く甘くない香りなのですが!!
そのせいで真姫さんも気付かなかったのかもしれませんわね…


女胤
「…とはいえ、私も半信半疑でしたけど」
「本当にスイートベールだったのは僥倖ですわ!」

ヌビア
「フフフ…私ですらその匂いでは判断が難しいですからね」


とまぁ、とどのつまり今の私は技では眠れないのです。
ダークライは悪夢を見せるポケモン…ならばまず眠らせに来ると想定して突っ込んだのは大正解という訳です。


真姫
「こ、このクソアマがぁ…!!  よくも私の顔に…!!」

女胤
「…本当に腹が立ちますね、貴女を見ていると」


同じなのだ…彼女は以前の私と。
自分の力と美貌に絶対の自信を持ち、その自尊心を傷付けられるのを極端に嫌う。
自分の欲求の為には他者の事など露とも思わず、自分が負ける事も想定しない。
あの時の私も……そうでした。


女胤
「…少しは痛みが解りましたか?」

真姫
「何を!?  ふざけてるのか!?  そんな哀れみの目を私に向けるな!!」

女胤
「過去の貴女に何があったのかは知りませんし、興味も無い」
「ですが、私達はこの世界から何としてでも出なければならない」
「その為でしたら、私は自分の安いプライド等ポイ捨て致しますわ!!」


私はそう言って、座り込んだままの真姫さんに手を差しのべる。
真姫さんは理解出来ないといった顔で私を睨み付けており、手を取ろうとはしなかった。
そんな無駄な時間をかける間、痺れを切らしてヌビアが代わりに真姫さんの手を取って私の手に乗せる。


真姫
「ヌビア!?」

ヌビア
「真姫様が負けたのです、ならば真姫様に決定権はありません」
「それとも、これ以上醜態を晒すおつもりですか?」
「でしたら、流石の私も見限らせていただきますが?」


真姫さんはプルプル震えながら歯軋りする。
認めたくないものの、従わざるを得ない…という所でしょうか。
私はふぅ…と息を吐き、改めて真姫さんを立ち上がらせる。
そして真剣な顔でこう尋ねた。


女胤
「教えてください真姫さん、条件とは?」

真姫
「クソみたいな条件よ…だけど、もう説明もいらないわ」


彼女がそう言った瞬間…突然世界が揺れ出す。
そして世界は次第に光の粒子へ変わり始め、残された私達を飲み込もうとしていたのです。
慌てる私を尻目に、ヌビアは冷静にこう促す。


ヌビア
「さぁ行きましょうか、旅は道連れ世は情け」
「精々協力しあって生き残っていきましょう!」
「ねぇ?  真姫様…?」

真姫
「ちっ…気に入らないが仕方無い」
「だけど勘違いするんじゃないわよ?  あくまで利害が一致したからなんだからね!?」


そう言って真姫さんは私の手を乱暴に剥がし、スタスタとヌビアと共に歩く。
その先には光の扉が有り、ようやくのゴール地点だと理解出来ました。


女胤
「…さぁホリィさん、私達も」

ホリィ
「…女胤さん、貴女は本当に強いのですね」

女胤
「私の強さ等、とてもあの方には及びませんよ…」


私は苦笑しながらも、ホリィさんと共に歩いて行く。
私の強さは、聖様の為に…
そして聖様の強さこそが、私が憧れた全てなのですから…
だからこそ、私は歩みを止めるわけにはいきません。
この先、例え何があろうとも必ず私は皆を護って生き残ります。
誰ひとり欠ける事無く聖様と再会する…その約束を叶える為に。










『とりあえず、彼氏いない歴ウン千年のポケモン女が愛する男を救う為に戦う。後悔する暇も無い』



第4話 『色欲のダークライ、真姫との邂逅』

第4章 『悲劇のお嬢様と足掻く王女様?』 完


…To be continued