「さぁ、行こうぜ!  俺たちの戦いはこれからだ!!」

守連
「え、これで打ち切りなの?」

阿須那
「ええ最終回やったな…」

華澄
「だ、誰もツッコマないのですか?」

女胤
「何をイマサラタウンですわ…最後なのですから、思いっきり滑るのも一興でしょう」


シクシク…何か微妙に皆が冷たい!
まぁ、最終決戦前にこんな反応しづらいネタをぶっ込む俺が大体悪いのだが…
そもそも、これは完全に作者の悪い癖であって、ネタの神が大体悪いのだよ!
とはいえ、俺は気持ちを完全に切り替えて表情を変える。
そして、そんな俺を見て皆は円陣を組んだ。


恵里香
「とりあえず、お帰り聖君」

「恵里香、早速頼む」


俺は恵里香にいきなりそう頼む。
それを聞いて、恵里香は少し顔をしかめた。
そして、答えは解っているはずなのに、あえてこう聞く。


恵里香
「本当に良いの?  ここから先は全てを滅ぼせる神との戦いだよ?」

「…そんな神に、俺は勝つと決めた」
「それに、アルセウスだってポケモンだ」
「ポケモンが相手なら、ポケモンで倒せるさ!」


俺の言葉を聞いて、恵里香は数秒黙る。
そして、決心した様に手を虚空にかざし、光の道を示した。
俺たちはその道筋を見つめ、思い思いの言葉を放つ。


阿須那
「行くで…アルセウスを倒して、正真正銘のハッピーエンドや!」

華澄
「行きましょう…全ての世界の、皆の未来の為に!」

女胤
「迷いはありません…理不尽な滅びを回避する為、勝利をこの手に!!」

守連
「行こう…皆の世界を救いに、私たち家族の幸せの為に♪」

「これが、正真正銘のラストバトルだ…俺は、お前たちを信じる!」


俺たちは全員で同時に頷く。
腹は決まった、後は恵里香次第だな…


恵里香
「…分かったよ皆の気持ちは、だからボクも覚悟を決める」
「そして、改めて皆にお願いするよ…未来を救ってと」
「この最果ては多分何も変わらないけど、それでも勝って…」
「世界の滅びを回避する事が、ボクの悲願だから」


俺たちはもう1度頷く。
そして、俺は右手の甲を上にして前に差し出した。
全員は?を浮かべたが、俺は笑ってこう言う。


「定番だけどさ、俺は結構良いと思ってる」
「折角、こうやって一丸になって集まったんだ…別に良いだろ?」


俺が笑ってそう言うと、守連はすぐに俺の手の上に自分の手を重ねる。
あえて、触れる手前で止める辺りが守連らしいか…
華澄もそれを見て、あえて守連の手には触れる手前で止める。
そして阿須那、女胤と順に手を重ねていった。
だが、後ひとり足りない。


「…どうした恵里香?  お前もやれよ」

恵里香
「えっ…でも、ボクは…」

「バーロー!  今更何言ってんだ!?」
「お前は俺の嫁だろうが…さっさとやれ」


俺が強引にそう言うと、恵里香は少し俯いて微笑する。
そして、ゆっくりと重ねられた手の上に自分の手も重ねた。
俺はそれを確認してこう叫ぶ。


「俺はここに誓う!!  必ず、滅びの未来を救うと!!」

守連
「私も、手伝う…絶対に皆の世界を救ってみせるって!」

阿須那
「ウチもや!  そんで、皆で家に帰るで!?」

華澄
「委細承知!  拙者の全てを持って任務を遂行いたします!!」

女胤
「これまで聖様が出逢った全ての方たちの為…私(わたくし)も全力を尽くしますわ!!」


皆がそれぞれの意志を見せる。
そして、最後に恵里香が呟いた。


恵里香
「…ボクから言う事は何も無いけど」
「それでも、信じさせてほしい…キミたちが、必ず勝つと」
「そして、救ってほしい…皆の未来を」


その言葉は悲哀に満ちていた。
恵里香にとってはまさに悲願。
自分にとっては、もう何も変わらない事なのに、恵里香はそれでも願った。
この滅びを救ってくれと…だから俺は今こそ約束を果たす!!
もう、反故にしたりなんかしない!  必ず、アルセウスに勝ってみせる!!


「やるぞ皆!  例え偽善と言われても構わない!!」
「俺は!  俺たちは!!」


この瞬間、全員の心がひとつとなったのを感じた。
そして、全員一斉にこう叫ぶ。


一同
「全部!  救ってみせる!!」


その言葉を持って、俺たちは手を離す。
そして、迷わずに光の軌跡を歩んで行った。
迷いは無い…この先には紛れも無い虚無があるのだろうが。
例え希望は無くとも…声すら届かなくても……
俺たちの絆は、絶対に…切れない!



………………………



「………」


俺たちは、階段の前にいた。
周りは暗闇に満ちているのに、その階段は光を放ち、まるで俺たちを誘う(いざなう)かの様に聳える。
俺たちは迷わずその階段に足を伸ばした。


守連
「………」
阿須那
「………」
華澄
「………」
女胤
「………」


皆、横一列になって階段を上って行く。
その階段は目も眩む程の長さだったが、俺たちは言葉ひとつ交わすことなく、ただ静かに上り続けた。
軽く気が遠くなりそうな距離の階段で、気を抜いて転んだら死ねる位には恐怖だな。
そして、そのまま1時間程上った所で、遂に頂上に着く。
流石に俺は足がかなり疲労してガタガタになったが、それもこれで終わりだ…

俺は息を切らし、上りきった階段の先を見据える。
その先は、光の差さない荒野。
暗闇だが、それでも地面は輝いて見える…そして遠目に見える先には、後光を放つ圧倒的な存在。
それを見て俺たちは確信する…アレこそが、アルセウスなのだと。

俺は、はやる気持ちを抑え、右足を1歩だけ前に踏み込む。
だが、次の瞬間阿須那に右肩を掴まれた。
俺は?を浮かべて阿須那を見るも、阿須那は真剣な顔でこう言う。


阿須那
「聖、アンタはここで見とき」

「あ、阿須那!?」

華澄
「阿須那殿の言う通りでござる…ここから先は人外の戦い」

女胤
「人の身の聖様は、ここで私たちの勝利を信じていただけませんか?」


俺は察する…確かにここから先、非戦闘員の俺は邪魔にしかならない…
今までの中でも最大規模の死闘となるだろう。
そこに俺がいたら、皆は気になって全力で戦えない…か。


守連
「大丈夫だよ…私たちは絶対に勝つから」
「だから、信じて…私たちの勝利を!」


守連の言葉を合図にして、4人は同時に駆け出す。
その速度は到底俺が追い付ける物ではなく、改めて戦闘における自分の無力さを痛感した。

だけど、俺には俺の仕事がちゃんとある。
アルセウスを倒した後、俺は夢見の雫を使い、皆をそれぞれの世界に戻すんだ。
そして、俺も同時に現実世界に帰る…

その先に何があるかなんて俺には解らないが、今は関係ない!
俺は皆を信じる…!  そして必ず、全部救うと…!!



………………………



アルセウス
「来たか、我が子らよ…」

阿須那
「コイツが…アルセウス!?」

華澄
「まさか…アルセウスも人化しているとは!」


守連たちが向かった光の正体は、玉座に座ったアルセウスだった。
そのアルセウスは、何故か人化を果たしており、白と黒の色が混ざる長髪を靡かせている。
額近くの前髪だけが金髪なのがやや印象的で、人間と同じ位置の両耳、その少し上辺りから二本の角の様な物が上に伸びていた。

瞳は赤で、目の下に黄緑の丸い模様が入っており、その瞳は酷く無感情。
だが、一見して間違いなく美女だと断言出来るであろうその美しさに、4人は一瞬見とれてしまっていた。

アルセウスの姿は、白き洋風のローブを思わせる衣服で、胸の上部ははだけている。
そしてその胸を覆っている部分だけが黒色だった。
ある意味妖艶ともいえるその衣服を身に纏い、アルセウスはゆっくりと立ち上がる。

豊満な両胸がたゆんと揺れ、その際に腰に付いている金色のリングも揺れた。
リングは左右にひとつづつ付いており、ふたつ合わせるとまるでメビウスの輪の様にも見える。
輪には4つの宝石の様な物も埋め込まれており、色は黄緑。

そしてそれはまさに、アルセウスが創造ポケモンである事を象徴するかの様な印象を4人に植え付けた。
 
一見すれば、その形は∞…一は全、全は一。
創るも崩すも、全てアルセウス次第なのだと主張しているかの様な…
 そんな、絶対的なオーラすら無言で放つアルセウスが、静かに言葉を放つ。


アルセウス
「我が子らよ、何故抗う?  何故、我に牙を向ける?」

女胤
「愚問ですわね…私たちが戦う理由はひとつ!」
「貴女が引き起こそうとしている、滅びを救う為ですわ!!」


女胤は意志を強く持ってそう言い放つ。
だが、アルセウスは全く意に介さず、無感情に言葉を返した。


アルセウス
「何故、それを滅びだと断言出来る?」

4人
「!?」


その言葉は、4人にとってやや衝撃的だった。
世界の滅び…だが、それはアルセウスにとっては滅びでは無いとでも言わんばかりの言葉。
アルセウスは、そんな驚く4人を無感情に見ながら言葉を続ける。


アルセウス
「我が行使するは、創造の力」
「だが、その為には増え過ぎた世界を崩さねばならぬ」
「その結果、崩される世界は滅ぶのではない…新たなる創造の為に崩れるのだ」
「そして崩れた世界は、やがて正しい世界として再構築されよう…」

阿須那
「…訳の解らん事をゴチャゴチャと」

華澄
「全くですな…馬の耳に念仏でござる」
「そして、神たるアルセウスにそれを説明するのも、釈迦に説法ですな…」

守連
「アルセウスさん…私たちが戦う理由はひとつだよ?」
「私たちは、その崩される世界を見捨てられないからここにいる!!」
「崩されて、新しく創られたら、きっとそこにはもう前の心は残らないんだよ!!」
「そして、きっとそれは救いじゃなくて、滅び…」
「そんな滅びを、誰も救ってくれないなら…」


全員は心をひとつにして、強く想いを込める。
暴走したアルセウスの救済に、救いは無い。
それは最果てに辿り着いた、悲しいセレビィが証明している。
今のアルセウスは、もはや創造する事すら出来なくなるのだと、恵里香が知っているのだから…
だからこそ、4人の言葉と瞳には一切の迷いも無かった。


守連
「私たちが救ってみせる!!」
阿須那
「ウチ等が救う!!」
華澄
「拙者たちが救うでござる!!」
女胤
「私たちが救ってみせます!!」


そう、全員同時に言い放つ。
その言葉を聞いても、なおアルセウスは表情ひとつ変えなない。
いや、そもそもこのアルセウスは悪意や憎悪を受け止めすぎたせいで暴走している。
もはや、このアルセウスに正常な思考は出来ないのだ。

だからこそ、4人は止めなければならない。
この、邪神と化したアルセウスを…



………………………



「皆…」

恵里香
『信じよう、聖君…』

「ああ…大丈夫、俺は信じてるよ」


俺はスマホを片手に、遠くから皆を見ていた。
アルセウスは目映いばかりの光を放ち、皆と対峙している。
だけど、あれは暴走して堕ちたアルセウスだ。
そこに、創造神としての正常な思考も能力も多分無い。
だからこそ、アレは力ずくでも止めなければならないんだ…!

あのアルセウスを倒さなければ、世界は全て無かった事になってしまうのだから!!


「頑張れ、皆…お前たちには、皆が付いているんだから」


俺は夢見の雫を外に出して呟いた。
ここまでの使用で、大分濁ってはいるものの、まだ透き通ってはいる雫。
そして、この雫に今は不可思議な力を感じていた。
それは、今まで感じた事の無い力で、俺はその力に温かさを覚える…


「恵里香、お前は夢見の雫に眠っている力とか、そういうのは感じられるか?」

恵里香
『流石に解らないね…ボクが知っているのは、今まで使った用途の力位で、更に深いフルスペックとなると、全く想像が付かない…』
『そもそも、その雫の出生すらボクには解らないし、何故生み出されたのかも解らない…』
『ただ、その雫は時に歴史をも変え、時に夢を現実にする…』
「その結果に多大な代償を支払いながらも、いつの時代にも存在したと思われる、チートアイテムのはずだよ…」


俺は色んな色が混ざりあい、美しく輝く雫を見て思う。
コイツは…本当は誰かを助ける為に生まれたんじゃないかと。
もうどうしようも無くなった時、コイツはそっと手を差し伸べてくれる優しさを持った…そんな神の右手なんじゃないかと。

俺は、何となくだけど…そう思ってしまった。
そして、その優しい神の右手が本当にあるなら…


(どうか…皆の世界を、救ってください)


そう、願った。
だが、雫は何も反応を示さない。
あくまで今のは俺の個人的な希望であり、願いだ。
神に頼んだのであって、雫にそれを頼んだわけじゃないからな…

とはいえ、そんな願いを雫に頼んだらどんな代償が待つのか…俺は逆にそれが恐怖だ。
どこまでいっても、これは悪魔にもなれる恐怖のチートアイテムなのだから…



………………………



アルセウス
「愚かな子らよ…人の悪意に惑わされたか」
「ならば…せめて、我が自ら救済してやろう」
「2度と愚かな考えを抱けぬ様…」


その言葉と共に、アルセウスの背後から17枚のプレートが規則正しく宙に並ぶ。
これこそがアルセウスをアルセウスたらしめていると言われる、伝説の宝具。

それぞれ炎、水、電気、草、氷、格闘、毒、地面、飛行、エスパー、虫、岩、ゴースト、ドラゴン、悪、鋼、フェアリーのタイプを司る17枚。
それらがアルセウスの創造と崩壊を形成する根幹であり、力の源でもある。

そしてそれらを持ってして、まさにアルセウスは最上の神たらしめる存在となっているのだ。


アルセウス
「我が胸の中で安らかに眠るが良い…」
「そして崩壊の後、新たな世界に生まれるが良い…」


段々、アルセウスを中心に力の波動が巻き起こる。
守連たちは既に臨戦態勢を取り、覚悟を決めた表情でアルセウスを睨み付けていた。
そこに恐怖は微塵も無い、あるのは…希望の光。
そう、この戦いを持って…全ての未来を救うのだから!


アルセウス
「我が力の前には、もはや抵抗は無意味…諦めよ、我が子らよ」
「そして安心せよ…そなた等は我が救おう」
「崩壊の後、全てはまたひとつに創造され、新たに始まるのだから…」


アルセウスの力が最高潮に高まるのを守連たちは感じた。
だが、彼女たちは不適に笑ってみせる。
初めからこうなるのは解っていたのだから、恐れる事など何も無かった。
そう、初めからやる事は変わってないのだ。


守連
「行こう皆!」

阿須那
「ああ…絶対にぶっ倒したる!」

華澄
「あのアルセウスに言葉はもう必要ありませぬ…!」

女胤
「ええ…ここは最終決戦の場、戦うしかない相手に問答など無意味!!」


4人はそれぞれ構える。
そして、遂にラストバトルは始まった…
まずは、1番素早さの速い華澄が前に出る。


華澄
「まずは、拙者が先制致す!  阿須那殿、続いてくだされ!!」


華澄は叫び、まずは様子見とばかりに『水手裏剣』を5枚アルセウスに放つ。
アルセウスは微動だにせず、ただ全身から光を放った。


バシャシャシャシャシャ!!


華澄
「なっ!?」
阿須那
「水手裏剣がかっ消えた!?」


水手裏剣は確かにアルセウスに命中した…が、それらは空しく霧散したのだ。
気が付くと、アルセウスは髪の色が変わっている。
前髪と後髪の一部が黄緑色になり、腰輪も同じ色に変わっていた。

輪の宝石は黄色になり、胸の部分も緑となっている。
4人はすぐに理解した。
これが、これこそがアルセウスの持つ神の特性『マルチタイプ』なのだと。

17枚のプレートは、全てのタイプをアルセウスに持たせられる。
だが、あくまで同時に持てるのはひとつのタイプのみ。
さしずめ、今のタイプは色から草タイプだと阿須那は予想していた。
そして、阿須那がすかさず右手から炎をアルセウスに放つ。


ゴォォォォォォッ!!


アルセウス
「………」


だが、またしてもアルセウスは傷ひとつ負わず、髪が風圧で靡くだけ。
アルセウスは瞬時に青色を基調としたカラーに代わっており、『火炎放射』は霧散したのだ。
阿須那はこの瞬間、即座に判断した。


阿須那
「タイプチェンジに隙が見当たらん!!  ここは同時攻撃で揺さぶるんや!」
「多分今ひとつの技は無効化されるで!!」
「せやから、有利タイプで受けられへん様に、別々の弱点を同時に攻めるんや!!」

女胤
「でしたら、次は私が行きますわ!!」


女胤はあらかじめ舞っていた速度で動き、撹乱しながらも『エナジーボール』をアルセウスに放つ。
そして、同時に阿須那がタイミングを見計らって火炎放射を再度右手から放った。


ボォンッ!  ゴワァァァァァァッ!!


アルセウス
「………」


華澄
「くっ!  同時でも無理なのでござるか!?」

阿須那
「ちゃう!  今度はドラゴンタイプで受けられたんや!!」
「草と炎やったら、同時でも通用せんか…!」


阿須那は頭をフル回転させるが、ここは神の戦場。
アルセウスはすぐに暗い茶色を基調としたカラーに代わり、腕を真上にかざして数々の光弾をばら蒔く。
それらは鋭利な岩の塊となって阿須那を襲った。

あまりのスピードに阿須那は反応を遅らせ、その塊の一部で体を傷付けられる。
幸い、致命傷は受けておらず、何発か掠った程度の様だ。
阿須那は痛みに耐え、すぐに全員に叫んで指示を出す。


阿須那
「今のが『裁きの礫』や!  気ぃ付けぇ!!」
「ほんで今は岩タイプ確定!  女胤、もう1発かますで!!」

女胤
「わ、分かりました!  行きますわよ!!」


再び阿須那と女胤が同時に着弾する様に技を放つ。
アルセウスはやはり微動だにせず、それをマトモに受け止めるつもりの様だった。
だが、今度は同じにはならない。


アルセウス
「!?」

華澄
「はあぁっ!!」


コキィィィンッ!!


アルセウスの頭上から、突如『冷凍ビーム』が放たれる。
華澄の口から放たれたそれは、見事にドラゴンタイプの状態となっていたアルセウスに効果抜群のダメージを与える。
そして、パァンッ!と破裂音に似た様な乾いた音が響き、アルセウスのプレートが1枚砕け散った。
これで、残りのプレートは16枚…


アルセウス
「…おのれ」

華澄
「!?」


アルセウスは砕け散ったプレートを見て、初めて表情を変える。
そして、すぐに真上の華澄に向かって左腕を薙ぎ、その波動ともいえる風圧だけで華澄を吹き飛ばした。
特に技と呼べる物ではなさそうで…強いて言うなら『八つ当たり』みたいな物か。

華澄は咄嗟に両腕を交差させてそれをガードするも、着地に失敗して地面を数m程滑ってしまった。


阿須那
「やったで…!  どうやら弱点突いたらプレートは減るみたいや!」
「せやったら、この調子でじゃんじゃん攻めるで!?」


今のアルセウスは色的にノーマルタイプに戻っている。
だが、アルセウスはすぐにタイプを変え、また腕から無数の光弾を放った。
今度はそれらが地面に突き刺さり、地面エネルギーが全員に向かって行く。

だが、ここで女胤が動いた。
女胤はアルセウスの色からすぐに地面と予測し、『蝶の舞』で速度を上げて攻撃を回避してみせたのだ。
そして、そこから最速のタイミングで『種マシンガン』を散弾銃の様に一気にばら蒔く。
しかしながら、アルセウスはすぐにタイプを変えて草に有効な炎へと変化した。

女胤の技は惜しくも無効化されるが、ほぼ同時にアルセウスの背中に突き刺ささった1枚の水手裏剣。 
華澄は女胤の動きに合わせて死角に入り、裁きの礫を回避して隙を突いたのだ。

パァンッ!とまたプレートが砕ける。
これで残り15枚…だが、まだ戦いは始まったばかりだ。


守連
「くっ!!」


守連は地面を伝って襲いかかる、裁きの礫を巧みに回避していた。
だが、あまりに不規則な軌道で向かって来るそれは、守連の速度を持ってしても完全回避は難しい。
守連は回避に失敗し、左足をやられて地面を転がる。

だが、痛みに耐えながらも守連はしっかりと立ち上がった。
そしてまだ足は動く事を確認し、守連はアルセウスを強く睨み付ける。
アルセウスは、ことのほか険しい表情をしており、予想外の抵抗に若干苛立っている様にも見えた。


阿須那
(アイツ…冷静さを欠いとる?)
(やっぱ恵里香が言うとった様に、悪意や憎悪を大量に取り込んだせいで、正常な思考は出来てへんねんな…)
(これなら、付け入る隙はいくらでもあるで!)


阿須那はアルセウスの異常に勝機を見る。
今のアルセウスは、本来の性能を発揮出来ていないのだと予測したのだ。

所詮、悪意や憎悪といった負の感情に侵された神は、完全に感情を捨て切れていない。
そう、今のアルセウスもまたポケモンであり、また人間なのだ。
それを確信した阿須那は、すぐに攻撃を開始する。


阿須那
「もうドラゴンと炎は無い!  行くで華澄!?」


阿須那は華澄に声をかけ、タイミングを合わせる。
アルセウスは初めてその場から移動し、自ら距離を取った。
そして阿須那が火炎放射、華澄が水手裏剣を高速で放つ。

アルセウスは回避が無理と判断したのか、足を止めてタイプチェンジを試みた。
そして炎と水を同時に受ける為、自らを水タイプに変化。
その瞬間、アルセウスの背後から緑色の光線が照射され、アルセウスの体は光に貫かれた。

だが、アルセウスもまたタダでは受けず、プレートが砕けた瞬間に毒タイプになり、裁きの礫を放つ。
それは紫の光弾となり、女胤の体を貫いて毒のエネルギーを体内に染み込ませた。


女胤
「ああぁっ!!」


大技を放った後だけに、女胤は礫をマトモに受けて絶叫する。
幸いアルセウス側も無理を通して放った為か、直撃というには甘い当たりだった。
とはいえ、毒は草の弱点…女胤はその場で膝を着き、ダメージを堪えた。


阿須那
「女胤ー!  大技は控えるんや!!」
「プレートを破壊せん事には、恐らくマトモなダメージは通らん!!」


阿須那そう叫んで女胤に注意する。
アルセウスの状態を見て、すぐに判断したのだ。
既に多くの技を受けているにも関わらず、アルセウスの体には傷ひとつ無い。

これは恐らく、プレートがダメージを肩代わりしている可能性が高いと阿須那は踏んでいた。
それならば、大きなダメージを狙う技は恐らくメリットが薄い。
あくまでプレートを破壊出来るだけのダメージが通せれば良いのだから、隙の少ない小技を使う方が安全と言えるのだろう。


華澄
「ならば、今1度行くでござる!!」


華澄は再び水手裏剣を1枚だけ作る。
既に1度割っているだけに、威力もスピードも調整は容易い。
華澄はそれをアルセウスに向けて放とうと踏み込む。
とはいえ、毒タイプのアルセウスに水は抜群ではない。
これはあくまで牽制であり、弱点を突くのは別の技。
アルセウスは特に狼狽える事なく、華澄を見て一瞬身を屈めた。

次の瞬間、アルセウスはノーマルタイプに戻り、一瞬で華澄の目前に踏み込む。
華澄は呆気に取られ、直後にアルセウスの右膝が華澄の顎を跳ね上げた。


華澄
「っぅ!?」

阿須那
「クソッタレ!  『神速』かっ!?」

守連
「華澄ちゃん!!」


守連は痛む足を無理にでも動かし、吹き飛ばされた華澄を空中でキャッチした。
華澄も歯を食い縛って痛みに耐えており、口からは血を流している。
恐らく口の中を切ったであろうその出血は、華澄の体力を如実に奪った事を証明していた。


阿須那
「!!」


阿須那はすぐにその場で『穴を掘る』を使う。
一瞬で地中に潜り、アルセウスに向かって地中を掘り進んだのだ。
それを見て、空中の守連は華澄を近くの地面に投げる。
華澄は驚くものの、何とか着地しその場で呼吸を整えた。

その際、若干守連の電気で痺れたのか、華澄はその場で片膝を着く。
それでも、華澄はアルセウスを睨んで目を離さなかった。
地面を受けるなら飛行か草。
そして、この2タイプに一貫して通るのは…


華澄
「ここでござる!!」


華澄は阿須那の攻撃タイミングを勘で読み、口から冷凍ビームを放った。
そして阿須那はほぼ同時に地中から攻撃を仕掛ける。
アルセウスは瞬時に飛び上がり、阿須那の攻撃をかわして上から阿須那を踏み潰すが、代わりに冷凍ビームの直撃を貰う羽目になった。
そして飛行のプレートをも砕かれ、アルセウスは苛立った様に阿須那の腹を足で踏み砕く。

ベキベキベキィ!と、阿須那の骨が砕かれる音が鳴り響いた。
阿須那は叫び声をあげ、そのダメージは相当な物と予想される。


阿須那
「ぐあああぁぁっ!!」

守連
「阿須那ちゃんからどいてぇぇぇぇぇっ!!」


バチバチバチィ!!と凄まじい電気がアルセウスに向かった。
だが、アルセウスはここで地面タイプにチェンジしてそれを無効化する。

しかし、それは既に女胤の読み通りだった。
女胤はダメージを感じさせない動きで腕を振り、アルセウスの背中に『エナジーボール』を叩き付けたのだ。
これで地面も割れ、残りは12タイプ…着実にアルセウスは追い詰められていた。


アルセウス
「…!!  おのれ…!」


アルセウスは次第に激昂を露にしていく。
既に冷静さは失われつつあり、戦い方も段々と荒々しくなっていっている。
そこには、もはや神の威厳も失いつつある様だった。
勿論、4人もダメージはあるが、それでも誰ひとりとして勝利は諦めてはいない。

むしろ、そんなアルセウスを見て全員が笑っている。
4人は、必ず勝てると信じているのだ。
残りのプレートは12枚…まだ半分以上もあるが、4人は既に精神的に上に立っていた。

アルセウスはそんな4人の微笑を見て、更に苛立つ。
そして、アルセウスは自らタイプを変え、次の攻撃体勢に入った…



………………………