「というわけで勝負だ!!  改めてアンタに、ポケモンファイトを申し込む!!」

「ほう、随分面白い事を言う小僧じゃの♪」
「愛(うい)奴よ、妾(わらわ)を存分に楽しませよ…」


そう言って、謎の緑髪少女が笑って手招きする。
今いる場所は、塔の最上階の屋上。
外周は高い壁で覆われ、これなら外に叩き出される心配は少ない。
少女の後ろには長い石で出来た太い柱があり、その頂点近くに縄で縛られて捕らえられている守連の姿が見える。
守連の体には傷ひとつ無いが、ただ気絶している様でピクリとも動かなかった…

俺はややキツ目の顔で少女を睨む。
少女は緑の髪で、それは地面スレスレまで着きそうな長さのロングヘアー。
目は細い釣り目で、金色の瞳が小さな体に威圧感を生んでいる。
服は黒のビキニでトコトン薄着。
身長は130cm程で、見た目は完全に幼女のそれだった。
だが、尻から生えている長大な緑の尻尾は、妖しく空中で揺らめき、まるで重さを感じさせない挙動。
それには黄色のラインが入っており、少女の象徴の如く目立っていた。
そして、緑色の長い2本の角と合わせ、俺は少女の正体を確信する。


「ここに来て、レックウザかよ…大物だな!」

レックウザ
「ほう?  この姿を見ただけでレックウザと見抜くか…」

愛呂恵
「むしろ解りやすいかと思われます」
「貴女の尻尾や角は、まさにレックウザの特徴でもありますので」


レックウザはそれを聞いてふむ…と考えた。
そして、数秒考えた所で大笑いする。


レックウザ
「カッカッカッカッ!!  まぁ、どうでも良いわ!!」
「さぁ、妾と闘え!  妾を楽しませよ!  妾を満たせ!!」
「さもなければ、あのピカチュウの命は無い!!」

「待てよ!  何でお前は守連を狙う!?」
「いや、何故先に殺さない!?  お前はアルセウスの幹部じゃないのか!?」


俺がそう捲し立てると、レックウザははぁ…とため息を吐く。
そしてやや怖い顔で目を細め、こう言い放った。 


レックウザ
「少し黙れ…『小僧!!』」


ドンッ!とその瞬間、俺は何かの衝撃で吹き飛ばされる。
一瞬、レックウザの声がエコーがかった様に感じた…!
音波系の…技かっ。


愛呂恵
「敵性意志の確認…これより迎撃に入ります!」

レックウザ
「ほう、出来るなお主…?」
「ここまでやって来たのはお主の力か?」


愛呂恵さんはすぐに攻撃体勢に入り、ダンッ!と思いっきり踏み込んでレックウザへと高速接近する。
レックウザは特に構える事無く、両腕を胸の前で組み、その場で攻撃を待っていた。
そして愛呂恵さんは、まず射程に入ったと同時、右足で横蹴りを放つ。


ガシィッ!


レックウザ
「…っ!  やるのぉ…!  初手から妾に両手を使わせるとは!!」


レックウザは直前まで余裕を見せていたが、愛呂恵さんの全力の蹴りを見てすぐに対応をする。
両手でしっかりとガードし、愛呂恵さんの蹴りは見事に止められたのだ。
やはり、レックウザはパワーがスゴい!
愛呂恵さんの技でも、正面衝突じゃキツいのか!?


愛呂恵
「…相手の力量を再予測、対応を変えます」
「中~遠距離では不利と結論、近接戦闘特化に切り替えます」

レックウザ
「面白くなって来た!  久し振りに妾の血が滾る!!」


愛呂恵さんは至近距離に踏み込む。
中距離の蹴り主体から、手や耳も使うインファイトスタイルに切り替えたのだ。
レックウザも呼応する様に踏み込んで来る。
彼女の短い手足のリーチでは、愛呂恵さんとは打ち合えないと思うが、それでもレックウザは自信満々で、楽しそうに笑っていた。


(何だ…?  レックウザからはやはり悪意みたいな物は感じない)
(純粋に愛呂恵さんとの格闘を楽しんでいるみたいだ…)


愛呂恵さんは自分の持つ全ての格闘技術を持って、レックウザを攻め立てる。
レックウザは射程外から繰り出される手、足、耳の攻撃を的確にパーリングなどで捌き、懐に入った。

そしてレックウザの目が光り、愛呂恵さんは一瞬体を浮かされ、その場で止まる。
懐に入ったレックウザは、そこから渾身の右ブローを愛呂恵さんのボディに叩き込んだのだ。

かなりの衝撃に、愛呂恵さんの背中は一瞬盛り上がった様に見え、その威力の高さを物語る。
だけど、愛呂恵さんにとってその一撃は、初めから想定範囲の一撃だった。


愛呂恵
「!!」

レックウザ
「…なっ!?」


メキャァッ!!と、今度はレックウザの首が横に吹き飛ぶ。
愛呂恵さんはワザとレックウザの右ボディを食らい、ガラ空きの横っ面に『冷凍パンチ』を斜め上から打ち下ろしたのだ。
流石に効果抜群の技!  レックウザは頬を凍らせ、膝を揺らす。
だが、それでも意地で耐えていた。
揺れる自分の膝を自らの拳で打抜き、渇を入れる。

そして、細い釣り目で愛呂恵さんを睨み、不適に笑って見せた。
口の端から血が滴り、レックウザはそれを拭う事無く、こう言葉を放つ。


レックウザ
「肉を切らせて骨を断つか…!  お主の胆力、認めるぞ!!」
「だが、骨を立たれたのはむしろお主の方かな?」

愛呂恵
「…ぷっ!」


愛呂恵さんは口に溜まった血を地面に吐き出す。
そして、右手の親指で口元を拭い、依然無表情なままでレックウザの射程にゆっくり歩いて行った。


レックウザ
「あの一撃をまともに受けて平然と歩いて来るか…恐ろしい女子(おなご)じゃな」
「ここまで、ひとりで勝ち抜いて来ただけの事はある!!」
「これ程の相手は久しい…妾もそろそろ本気になれそうじゃな!!」


何だと…?  アレでまだ本気じゃないのか?
レックウザの底知れぬ力に、俺は軽く恐怖した。
たった数分の攻防とはいえ、実力の高さは感じられたのに…
俺は愛呂恵さんを信じてはいるが、それでも本当に勝てるのか?

腐っても相手は禁伝のレックウザ…愛呂恵さんは強くてもただのミミロップ。
そこに優劣はホントに無いのか?  実は大きな溝があるんじゃないのか?
俺は不安で一杯だった。

だけど、そんな俺の心境を理解してくれたのか、愛呂恵さんは背中越しに優しくこう言う。


愛呂恵
「心配はいりません聖様」
「聖様が信じてくださる限り、この愛呂恵は無敵です!」

レックウザ
「…!  凄まじい闘気よ!!  お主もまだ本気ではなかったか!?」


ここに来て、愛呂恵さんは更に気迫を増す。
無表情なままで、愛呂恵さんは闘志を燃やしていたのだ。
背中越しに絶大な信頼を感じる。
俺はこれに答えなければならない!
信じよう…俺に出来るのはそれだけだ!
俺は声を振り絞って叫ぶ。


「信じてる!  だから勝ってくれ、愛呂恵さぁぁぁぁんっ!!」

香飛利
「がんばれ~!」


愛呂恵さんは俺の声を受けて今1度踏み込む。
レックウザの射程でもあるが、愛呂恵さんはあえて至近距離で戦う事を選んだ。
そして、レックウザの腹に右の冷凍パンチを素早く打ち込む。


レックウザ
「ぐぅっ!?」

愛呂恵
「!?」


瞬間、レックウザの右爪が愛呂恵さんの左頬を切り裂いた。
鮮血が迸り、愛呂恵さんは頬を赤く染め、一旦距離を取る。


愛呂恵
「………」


そして頬の血を左手で救い取り、それを舌で舐める。
その後、愛呂恵さんは構えを取り直してこう言った。
 
 
愛呂恵
「…ここまでで貴女の攻撃は見切りました、投降する事を推奨します」

レックウザ
「!?  面白い事を言う!!」


愛呂恵さんの警告に反応したレックウザは、一瞬で距離を潰した。
数mはある距離を一瞬で潰すとは…『神速』か!
だが、愛呂恵さんは狼狽える事無く、レックウザの攻撃を待っている。
レックウザは踏み込んで再度右ボディを放とうとするが…


レックウザ
「なっ!?」


愛呂恵さんはレックウザの右腕を両手でしっかりと止めて防いでいた。
そして、ガラ空きの顔面に愛呂恵さんは首を思いっきり縦に振り回し、両耳でレックウザの脳天をカチ割る。 

メキィィッ!と骨が軋む音がここまで響いた。
間違いなくフツーの人間なら致命傷だ。
だが、レックウザはまだ倒れない。
それ所か、ダメージを食らいながらも、まだ笑っていた。


レックウザ
「本当に最高だお主は!!  よもやここまで妾を追い詰めるとは…!」
「もう、そろそろ良いだろう…妾の真の姿を見せてやる!!」
「そして、慄け(おののけ)!!  この力の前に!!」
「これぞ、強者が祈り…!  妾が最大戦力!!」
「メガ…進化ぁぁぁぁぁっ!!」


レックウザは全身を震わせ光輝く。
まるで宇宙をイメージするかの如く、暗くも美しい輝きを放ち、レックウザは姿をガラリと変えてしまった…


「な…バ、バカな…!?」


レックウザは、妙齢な女性に一気に変貌した。
胸も含めたスタイルが、一気に大人のそれに変わり、身長も愛呂恵さんを上回る。
そして、耳から伸びる金色の触手と、角から伸びる同様の物は異様な神秘さを併せ持っていた。
 
尻尾の模様も変わり、体の周囲から明らかに異質な空気を生み出す…これが特性の『デルタストリーム』!?
上空では雲が乱気流によって激しく蠢き、それは塔の最上階付近にまで影響を及ぼしている。

ヤバイぞ…?  この状態では飛行タイプの弱点が無くなる!!


レックウザ
「これが、妾の真の姿じゃ…どうじゃ、色気が増したろう?」


そう言って、レックウザは俺に向かって悩ましいポーズを取る。
服は露出度の高いビキニのままだから、確かにエロい!!
声も比例して低くなり、大人の魅力をプンプン出していた…
だが、そこは天下無双の愛呂恵さん!
俺は、まだまだエロさなら愛呂恵さんの方が優れていると断言する!!


愛呂恵
「………」

レックウザ
「ククッ…恐ろしくて声も出ぬか?」


愛呂恵さんはレックウザの姿を見て、構えを解いていた。
だけど、その顔は決して絶望してはいない。
むしろ何かを期待している様な…
そして、愛呂恵さんは静かに俺にこう聞いた。


愛呂恵
「…聖様、メガストーン発動の許可を」

「…えっ!?」

レックウザ
「な、何っ!?」


俺どころか、レックウザまで驚いていた。
そういえば、以前城で出来るとは聞いていたけど…


「この世界でも持ってるんですか!?  メガストーン!?」

愛呂恵
「…こんな時の為に、10年の歳月をかけて世界中を探しました」
「そして、見付けたのです…後は、聖様の許可だけ!」


俺は、信じる事しか出来ない。
そして、愛呂恵さんは待っている…俺との、絆の証を!
俺は、コレに答えなきゃ漢じゃない!!


「メガストーン!  発動!!  しょぉぉぉぉにんっ!!」

愛呂恵
「了解、メガストーン発動!  これより、進化いたします!」


愛呂恵さんがそう言うと、全身を光のオーラが纏う。
そして、胸の谷間からメガストーンが浮き上がり、ミミロップナイトの模様が浮かび上がった。
そして、愛呂恵さんも即座に姿を変える!!


愛呂恵
「…進化完了、これで対等のままですね?」

レックウザ
「…ふ、ふふふ……アッハッハッハ!!」
「愉快愉快愉快っ!!  まさか、これ程の器だとは!!」
「良いぞ!  もう妾は何も言わん!!」
「最後まで、存分にやり合おうぞ!?」


レックウザは大笑いして構える。
そして、愛呂恵さんもまた構える。
まだ、ふたりの闘いは終わらない。


愛呂恵
「…行きます!」

レックウザ
「来い!!」


愛呂恵さんは更に速くなった速度で踏み込んだ。
それはパワーアップしたレックウザの速度を更に上回っている。
しかし、愛呂恵さんは進化すると飛行に弱点が…!


愛呂恵
「!!」

レックウザ
「ああぁっ!!」


愛呂恵さんの蹴りとレックウザの拳が激突する。
だが、そうなると流石にレックウザの力がスゴイ!
愛呂恵さんは右足を拳で押し戻され、レックウザに押し込まれていく。
だが、愛呂恵さんはすぐに足を引き戻し、今度は左耳でレックウザの頭部を狙った。
レックウザは直ぐ様それに反応し、体を下に捻って耳をかわす。
レックウザはそれで体勢を崩し、愛呂恵さんはそれを見逃さない。
愛呂恵さんは耳を振り抜いた後一瞬屈み、レックウザの顔面めがけて右の飛び膝蹴りを放つ。
レックウザは辛うじて両腕をクロスしてガードするも、あまりの威力にガード越しで顎を跳ね上げられた。


レックウザ
「ぐぅっ!?」

愛呂恵
「!!」


愛呂恵さんは怯んだレックウザを追撃する体勢に入る。 
上体を浮かされたレックウザに対し、愛呂恵さんは体を回転させ、左耳でレックウザの首を狙った。
ガシッ!と、愛呂恵さんはレックウザの首を耳で掴み、拳を固く握る。
これは決まる…!  そう俺が思った矢先、レックウザは空中で停止し、ほくそ笑んでいた。


レックウザ
「馬鹿め!  妾が飛行タイプという事を忘れたか!?」


レックウザは愛呂恵さんの拳を受ける前に高速で体を真横に捻る。
すると愛呂恵さんはレックウザに振り回され、回転して地面に叩き付けられた。
そして、レックウザは追撃で尻尾を横薙ぎに思いっきり振るって来る。


ドガァッ!


愛呂恵
「かはっ…!」


愛呂恵さんはレックウザの『ドラゴンテール』を顔面に受けて壁まで吹っ飛んだ。
そして壁に叩きつけられ、愛呂恵さんは壁を背にぐったりとし、レックウザは笑いながら飛んで追撃する。


レックウザ
「ハハハッ!!  これで終わりかっ!?」
「まだ、妾は満足していな……!?」


ゲシィッ!と、右足の前蹴りでカウンターキックを顔面に決める愛呂恵さん。
レックウザは無意識に繰り出されたその蹴りに反応すら出来ず、後に仰け反った。
そして、愛呂恵さんは表情すら変えずに反撃に移る。


愛呂恵
「!!」

レックウザ
「がっ!?」


まず、愛呂恵さんの右耳がレックウザの横顔を捉える。
そして流れる様に左の回し蹴りがレックウザの腹に。
その間!愛呂恵さんは反撃を許さない。
直ぐ様、右の拳で顔面を打抜き、息をする間もなく左耳を打ち下ろす。
続いて右足でローキックを放ち、膝が曲がった所を左拳で腹を狙う。
遂にレックウザの体がくの字に曲がり、右のショートアッパーを顎に放った。
レックウザの顎は上に跳ね上がり、愛呂恵さんは左足でそれを垂直に蹴り上げる。
無防備に蹴り上げられたレックウザの体に対し、愛呂恵さんは渾身の力で右拳を硬く握った。
そして、迷わず愛呂恵さんは空中に浮いたレックウザのボディに向け、『スカイアッパー』を放って上空に打ち上げたのだ…


ドッシャァッ!!


レックウザは無造作に受け身も取らず、背中から床に落ちる。
ダウンは明白だ…これは流石に立てない!
俺は愛呂恵さんの勝利を確信し、倒れたレックウザを遠目に見ていた。
レックウザの体はやがて光を放ち、メガ進化を解いていく…
再び幼女の姿に戻ったレックウザは、天を仰いでいた。
息を荒くし、虚ろな目で空を見る。
そして、その顔は非常に満足そうだった。


レックウザ
「カッ…カカカッ!」
「ま、さかっ……ここまで、強いとは…のっ!!」

愛呂恵
「…まだ、続けますか?」

レックウザ
「…ククッ、本音はトコトンまでやりたいが…そうもいかんな」
「ほれ、本命がやって来おったぞ…?」


レックウザが寝ながら満足そうに言うと、高空から何者かが降りて来る。
それは、銀に近い白色の体色をした大きな翼のポケモン女。
長い銀色のポニテを揺らめかせ、ゆっくりとこちらに羽ばたいて来ている。
何だあの翼…?  それに、目元の黒い模様。
服はハイレグで尻尾もある…スタイルは抜群だな。
俺はすぐに何か判別出来なかったが、俺の隣にいた香飛利が怯えた様にこう呟いた。


香飛利
「…ルギア?」

「!?」


俺はそれを聞いて納得する。
成る程、ここに来て本当のボスが現れたってわけかよ!?
やっぱり、あのレックウザはボスじゃ無かったんだ!!


ルギア
「カアァァァァァッ!!」


ルギアは高空で高らかに吼える。
そして口にエネルギーを溜め、それを一気に塔の屋上へと射出した。
一瞬拡散エネルギーの様に分散し、すぐにそれらは1本のレーザーへと収束する。
そして、それは真っ直ぐ俺の方に向かって来ていた。


香飛利
「聖さ~ん!!」

「!?」


俺は香飛利に抱き締められ、その場から押し倒される。
そして俺の左頬をレーザーが掠め、俺は頬を抉り取られた痛みに絶叫した。
レーザーは容易に塔の床を貫通し、風が巻き起こる。
今のは、レーザーじゃなくて『エアロブラスト』かっ!
危なかった…香飛利が助けてくれなかったら、死んでいたぜ。


愛呂恵
「聖様!?」

レックウザ
「待て愛呂恵とやら…お主は妾とアレの相手をせい」


レックウザは何かを愛呂恵さんに呟き、ヨロヨロと立ち上がる。
そして、石の柱の前に立ち、それに右手を当て…

ガゴッ!  ガガガガガガッ!!と、柱は一瞬でバラバラになり、守連が上から落ちて来た。
レックウザはそんな守連を優しく抱き止め、それをこちらに投げる。
俺はそれを何とか受け止めるも、足を滑らせて後に滑ってしまった。
そして背中の痛みに耐えつつも、俺は守連が生きている事に安堵する。
そんな俺を見てレックウザは叫ぶ。


レックウザ
「さっさと逃げよ小僧!!」
「あやつは、責任を持って妾たちが打ち倒す!!」

「なっ!?  どういう事だよ!?」


俺が理解出来ずにいると、レックウザはケラケラ笑い出した。
フラフラのくせに余裕だなオイ。
そして、捕捉する様に愛呂恵さんが言葉を放つ。


愛呂恵
「聖様、ここは危険です」
「これ程の高空、かつ塔を容易く破壊出来るであろう相手と戦えば、落下の危険が非常に高いでしょう」
「ですので香飛利さん、聖様をどうかお願いします」

香飛利
「は、はい~!  ほら、聖さん~!!」

「ま、待て香飛利!  愛呂恵さん、レックウザ!!」


俺は香飛利に抱き付かれるも、愛呂恵さんたちに声をかける。
ふたりの顔は決して絶望してはいなかった。
むしろ、余裕すら感じる。
俺はそんなふたりを、信じる事にした。


「頼みます愛呂恵さん!  アイツはきっとこの世界のボスだ!!」
「倒せばこの世界の滅びは回避出来る!!」

愛呂恵
「了解しました、この愛呂恵にお任せを!」

レックウザ
「まぁ、妾のせいであやつを呼んだ様な物じゃからな…」
「責任位果たしてやる…早う逃げよ」


レックウザも笑っていた。
瀕死に近い癖に、まるでこの戦いを楽しむかの様に。
俺は信じて頷く。
そして、香飛利は俺と守連のふたりを抱えて一気に空を飛び、塔の外壁を越えて地上へと向かった。


香飛利
「聖さん逃げるよ!?  脱兎の如く!!」

「お前は…鳥ポケモン……だ!」


と、最後までネタを仕込んでおく。
こういう時こそ重要なスパイスだ!
後は、信じて待とう…



………………………



ルギア
「!!」

レックウザ
「やれやれ…妾を恐れ、今まで出て来れなかった臆病者が」
「妾が弱った所を狙って来るなど、小者にも程があるぞ?」
「さて、行くぞ愛呂恵!  妾が空に運んでやる!!」

愛呂恵
「了解しました、攻撃はお任せを!」


私はレックウザさんに背中から抱き締められる。
腰に手を回され、私はルギアのいる上空へと舞い上がった。
とはいえ、レックウザさんはダメージが大きい。
回避もそこまでは期待出来ないでしょう。
であれば、やれる事は自ずとひとつ。


ルギア
「!!」


ルギアの瞳が怪しく光、空間が捻れる。
『サイコキネシス』ですが、私たちはそれを食らう事無く、レックウザさんが急速上昇して回避してくれました。


レックウザ
「舐めるなよ小娘!?  妾の『竜の舞』…とくと見よ!!」


レックウザさんは一気に速度を上げ、ルギアの下から突っ込んで行く。
そして私は瞬時に軌道計算し、体を振って攻撃体勢に入った。
相手はエスパータイプ、格闘タイプの技はほぼ通用しません。
なので、私はあえてシンプルな技で対応します。


レックウザ
「やれぇ愛呂恵ーーー!!」

愛呂恵
「!!」


メキメキメキィ!!とルギアの顔が歪む。
レックウザさんはすれ違う様にルギアの横を通り過ぎ、そこへ私は全力で蹴りを放った。
レックウザさんの加速スピードと合わさり、ルギアは一撃で大きく後方に吹き飛ぶ。
そして、そのまま気絶したのか、力無く地上へと落ちて行った…


愛呂恵
「Arrivederci(アリーヴェデルチ)…ですね」
「もっともこの言い方ですと、実はまた会う時まで…という意味でのサヨナラになるのですが…」

レックウザ
「おぉ~凄まじい蹴りじゃったが、さっきの技は何じゃ?」

愛呂恵
「…非常にシンプルな技であり、私の最高の技のひとつでもあります」
「ただの…『恩返し』ですので」


そう、これは…私の大切な主人への恩返し。
あの恩返しという技に、決まったモーションは存在しません。
大切な主人の為に、ただ全力で攻撃するのが、この技最大の特徴なのですから…
私の言葉を聞き、レックウザさんは大笑いする。
そして私を抱えたまま、雲の下へと下降して行った。


レックウザ
「大した者よ!  お主、良ければ妾の朋友(ポンヨウ)にならんか!?」

愛呂恵
「…考えておきます」
「ですが、聖様に手を出した事は、まだ許していませんので…」


私が少々凄むと、レックウザさんは渇いた笑いに変わる。
ルギアはまだ無造作に落ちていますが、聖様はご無事でしょうか?


レックウザ
「あの一撃で終わったと思うか?」

愛呂恵
「少なくとも意識を刈り取れたと思いたいですが…」


私たちはどこか不安に包まれていた。
手応えは確かにありましたが、あまりにも呆気ないルギアの落下…そして、私はその下にある者を見て思わず叫んだ。


愛呂恵
「私を投げてください!  全力で!!  彼女の落下より速く!!」

レックウザ
「任せとけい!!  行くぞ愛呂恵ぇぇぇ!?」


レックウザさんはすぐに状況を察し、勢いを付けて私を全力でルギアに投げ付けた。
私の体は落下速度を遥かに上回る速度で下降し、ルギアの背中に追い付こうとする。
ルギアは地上にゆっくりと向かう3人の背中を見て、薄ら笑っていたのです。
その時点で私は一気に集中力を高める。
そして、必ず助けると心に誓う。
約束は、絶対に守ってみせます!!


ルギア
「!!」

「なっ!?」

香飛利
「ひぃ~~~~~~~~!?」


ルギアは落下しながら大きく口を開け、背中に付いている吸気口を全て開いた。
間違いなくエアロブラストの体勢!  それが放たれれば聖様は確実に死ぬ。
ですが……


愛呂恵
「それが貴女の失策です!」


メキャアァッ…!!と私は容赦無くルギアの背骨を足で踏み抜き、へし折った。
ルギアは吸気口を開けて風を溜める事でエアブレーキがかかり、落下速度が低下して私に追い付かれる結果となったのです。

私は、そのまま落下の勢いのまま地上にルギアを叩き付け、ルギアの背中をクッションにして着地してみせた。
周りは凄まじい粉塵で完全に視界を覆っていましたが、私は迷わず聖様のいるであろう場所に向かって歩く。
流石に…落下の衝撃で両足がガタガタになっていますね。
私は今のでメガ進化も解け、通常形態に戻る。

そして粉塵の中…私は聖様の声を聞いた…



………………………



「愛呂恵さーーん!!」

香飛利
「愛呂恵さ~ん!」


俺たちはルギアと一緒に高空から落下した愛呂恵さんの元に走る。
俺は香飛利に守連を抱かせ、粉塵が舞う中に入ろうとしていた。
だが、その粉塵の中からゆっくりと現れる人影を見て、俺はホッと安堵する。


「あ、愛呂恵さん…」

愛呂恵
「敵、撃破しました…」
「ですが、少々…」


愛呂恵さんは突然、糸が切れた操り人形の様に、無造作に俺の肩へと倒れ込む。
俺は愛呂恵さんの肩を優しく抱き、穏やかに声をかけた…


「愛呂恵さん…無事で、良かった」

愛呂恵
「申し訳ありません…肉体の消耗が激しく、足が言う事を聞きません」
「もし、ご迷惑でないのなら…このまま肩をお借りしても、よろしいですか?」


俺は無言で頷く。
そして、ここまで戦い抜いてくれた最強のメイドさんを俺は誇りに思う。
愛呂恵さんは…俺の最高のメイドさんだ!!


レックウザ
「ふっ…どうにか無事に終わったの」

「お前…結局アルセウスの配下じゃなかったのか?」


俺がそう言うと、レックウザは、はぁ…とため息を吐いた。
そして、何だかやるせない様な表情で俺を見た後、こう言う。


レックウザ
「…これでも、何年か前に助けてやったのにのぅ」

「…えっ!?」


それは、全く身に覚えの……あ、いや、あったわ。
俺は思い出す…あの時の冒険を。
守連を連れ、パーティを組んで…俺は確かにこの塔を上った事がある。
そして、俺は…


レックウザ
「思い出したか?  妾は忘れておらぬぞ…お主の熱い想いは」
「人間になっておったから、最初は解らなんだが…言葉を聞いてすぐに解ったわ♪」
「お主は、あの時のヒトカゲじゃったと…」

「じゃあ、アンタがあの時のレックウザだったのか…!」
「この世界を滅ぼすと言われる、巨大隕石を破壊してくれた…」


レックウザはカッカッカッ!と笑う。
そういえば、こんな性格だった気もする…
あの時も、力を貸してほしくば闘え!だった気がするなぁ~
成る程、それならこの縁も納得か…
俺はまた、絆に助けられたんだな。


「ありがとう、レックウザさん…守連を守ってくれてたんですね」

レックウザ
「気にするな、妾は闘いが好きなだけじゃ…」
「今回はたまたまお主がここに来て、ここに守連がたまたまおっただけの事…偶然じゃて」


俺は首を横に振って否定する。
レックウザさんは不思議そうな顔をしたが、俺は確信した笑顔でこう言う。


「偶然なんかじゃないです…これは必然だったんだ」
「俺たちの絆に、運命や偶然なんてモノは無い」
「俺は、そう信じてる…」

レックウザ
「ククク…やっぱりお主は愛奴よの♪」
「さて、名残惜しいが…そろそろ別れの様じゃの…」

香飛利
「聖さん…」


俺は既に光の粒子に変わろうとしている香飛利から、守連を受け取る。
愛呂恵さんは代わりに香飛利に抱き抱えられた。


愛呂恵
「聖様、しばしのお別れです」

香飛利
「聖さん、優しくしてくれてありがと♪」

「ふたりとも、こちらこそありがとう!」
「ふたりがいなかったら、きっと俺は何度も失敗してた」
「後は俺たちを信じてくれ…必ず、滅びの未来を救うと!」


ふたりは、はい!と強く答えてくれる。
俺は最後にレックウザさんを見た。
その顔は満足げで、とても満ち足りた顔をしている。
でも、俺は少し申し訳ない気持ちが残っていた。
そんな俺を見てか、レックウザさんはこう言う。


レックウザ
「そんな顔をするな…お主はお主の道を行け」
「その道を遮る愚か者がおるなら、次からは妾が薙ぎ払ってやる」
「お主の為なら、妾は操をくれてやっても良いぞ?」

「メガ進化中なら考えておきます…」
「まっ、どうせレックウザさんの事だから、冗談だろうけど」


俺がそう言うと、レックウザさんは大笑いする。
そして、俺は消える皆を見て最後にまた感謝をした。
これで、全員揃った…後は、ラスボスと戦うだけだ!!
俺は雫の力を行使し、時空の最果てへと戻る。
そして、俺は微かに夢を見た…
全てが終わって…ひとり天へ帰る、自分の姿を……










『とりあえず、彼女いない歴16年の俺がポケモン女と日常を過ごす夢を見た。だが、後悔はしていない』



第5話 『魔更さんちのメイドウサギ』


第5章 『とりあえず、彼女いない歴16年の俺がポケモン女と日常を過ごす夢から覚めた。俺は、絶対に皆を救う!』

 
 
To be continued…