Side O
「私よりも適任がいるので、その者に任せてもよいか?」
「無論」
トーマ王子が短く答えると、潤王子は俺の方を向いた。
「智さん…任せたよ」
「ふぇっ」
思わずあげた声が裏返る。潤王子はいたずらっぽく笑った。
「俺が…でも、王子は…」
西国は王子が儀を執り行ったというのに、ただの牢屋番の俺が、潤王子を差し置いて儀に参加するなんて許されるんだろうか。
「その手錠着けた人の前で愛を示すなんて、できないでしょ」
潤王子はまたいたずらっぽく笑って、俺とニノをつなぐ手錠を見た。
俺も思わず手錠を見る。
ふたりをつなぐ、鎖。
ニノが不安そうな顔で俺を見た。先ほど泣いたせいで、瞳は潤み、目元が赤く染まっている。
そうか…
おいら、決めたんだよな…
もう、離れないって…
ニノが何者だろうと、
どこにいても、
すげぇ、好きなんだ…
俺は、潤王子や櫻井大尉や相葉ちゃんを背にして、ニノの前に向き直った。
「ニノ…って呼んでいいか…わかんねぇけど」
ニノは首を振った。
「大野さんの…好きなように呼んでよ」
ニノは、まだ涙の滲む瞳を細めて、いたずらっぽく笑った。
「…えっと…さっき、ニノがこの国の王子ってわかって…まだ信じらんねぇけど…」
「俺もだよ?」
ニノは小さく呟いてくすりと笑った。
「おいらは牢屋番になるまでずっと、潤王子に仕える画家で…潤王子が、あんな嬉しそうに誰かを抱きしめるところは初めて見たんだ…」
脳裏に、潤王子が「カズ」と呼ぶ姿が浮かんだ。
「ホントだったら…潤王子とニノは一緒に育ってきたんだろうな…って思うと…これからは、こっちの国へ戻ってきてほしいって…潤王子は思ってると思う」
潤王子がかすかに笑う声が、背中から聞こえてきた。
「智さんは…大野隊長はどうなの?」
思わず振り向くと、潤王子はニヤリと笑っていた。
「おいらは…」
ニノに向き直ると、ニノは俺の顔をじっと見つめた。