Side S
智くんはリリティの手から素早くスマホを奪う。
「乱暴ですねぇ…それを消したって無駄ですけどね」
「ちげぇよ。早くばらまけっつってんの」
『大野さんはメシ食った?あるやつ勝手に食ってていいよ』
智くんがスマホの音量をあげて、もう一度再生させた。彼は険しい顔のままどんどんボリュームをあげて、テーブルの上に放り出す。
「これもさ、早くばらまけば?」
智くんはさらに、呆気にとられて突っ立っているリリティの手から写真を奪って、開いたドアから廊下に向かって写真をばらまいた。
「わあっ」
廊下から、焦った声が聞こえる。
あれ…この声…
一瞬意識が逸れたけれど、智くんがリリティに向き直ったから慌ててそちらへ集中する。
智くんは背の高いリリティを睨みつけたまま視線を離さず言い放った。
「どこにばらまかれたって、いいよ。むしろ言いたいくらいなんだから…」
めったに怒りをあらわにしない智くんの怒りを含んだ静かな声と鋭い眼光に押されているのか、リリティは無言だった。
「そんなに撮るのが好きなんだったらさ、今からこいつとここでキスするから、写真でも動画でもなんでも撮れよ」
智くんは語気を強めてそう言い放つとしゃがみこみ、ニノに向き直って、ニノの顎を指でくいっと持ち上げる。そうしたままリリティを振り返った。
「撮んないの?」
「あ…」
リリティは気圧されたのか言葉を失っている。
智くんはニノに向きなおった。眉をぎゅっと寄せて悲しい表情になった。
「ニノ…なんで…おいらに言ってくんなかったの?」
「……ゴメン…」
「言ってよ、ニノ…。1人で何とかしようとすんなよ…」
「だって…」
ニノは掠れた声を振り絞るように出した。
「大野さんと…離れたくなかった…」
ニノの瞳からまた、涙が一筋こぼれた。智くんはニノをまっすぐ見つめながら言った。
「バカだな…おいらがお前と離れられるわけないだろ。引き離されたって…離れてなんかやんない。離れらんないもん」
智くんはじっとニノの顔を見つめた後、そっとニノの顎を引き寄せて、唇を重ねた。ニノは涙を拭きもせず目を閉じて応える。智くんは目を閉じてキスをしながらニノの髪を優しく撫でた。
「ん…」
ニノも智くんの髪に手を伸ばした。愛おしそうに撫でながら、深い口付けを交わす。
「ん…っふ…ぁ」
俺たちの目も気にせず、確かめあっている2人を見ていたら、なぜか、「ふたりごと」抱きしめたいって気持ちになった。
かわいい奴ら…
なんか、つがいの動物みたい…
いつかの演出家から出されたお題に対して
同じ動物の真似してくっついてたときの、
ふたり…みたいだな…
リリティは放心したように突っ立っている。