消えたションベン

　「あれー、耕太。お前、今日も寝ションベンやってしもぉたんか？まぁ、ええ。ばぁちゃんが布団ほしてやるよって。耕太はパンツ替えとけ。しょげる事ないわね。おまえのトーチャンも、このバァーチャンも、ぎょうさんしたんやで。ちょっと待っとれや。布団かたづけたら、消えたションベンのはなし聞かしてやろうな。」

　ばぁちゃんが、耕太とおなじ5歳のときのことや。

正月前の寒―い日やった。今と違ごうてな、昔の便所は外にあって、寒くて暗くて怖いところなんや。夜の便所ほどいやなもんはなかったんやで。わしは晩飯のあとは、茶も飲まんかったくらいや。

その日は、母親が病気で、別の部屋で寝ておったんや。嫁に行った一番うえのねぇちゃんが、２さいの道子を連れて、手伝いに来てくれてた。ねぇちゃんはカァチャンと違ごうて、便所に付いていってくれへん。「弱虫やな。末っ子のあんたがしっかりしたら、おかぁちゃんの病気も、早よう治るというもんや」こんな事、ねぇちゃんが言うもんやから、わしは辛さ１００倍やった。

　「朝まで持ちますように」といのって、布団に入ったんや。けどな、夜中いきたいような気がしたかとおもたら、すぐに辛抱たまらんようになった。薄目をあけて横を見たら、道子がチッコイ布団のなかですやすや眠とった。わしは『ここしかない！』と思おた。

　翌朝になった。チッコイ布団は物干し場で、干されておった。その横にわしと道子のパンツも干されておった。わしは、どえらい叱られてしもたんや。

　なぁ耕太、ばぁちゃんは明日、田舎に帰るけど、今の話、耕太とばぁちゃんとのひみつやで。そう言って、ばぁちゃんは田舎へ帰った。

２年後、ばぁちゃんは寝床から僕に言った。「わしはもうじき体ごと、どっかに行く。しゃーないことや」。

翌日、ばぁちゃんは、あっちの世界に瞬間移動した。

童話 消えたションベン

童話　消えたションベン