３度目の家

　　三度目の家

　義父が亡くなり、義母が１人になった家に、同居することになった。１９８２年、私３０歳から４５歳までのことである。世代の違うものが一緒に住むのだから、ざらついた思いと深呼吸は常に抱え込んでいた。人生〇✖をつけるとしたら、この１５年間は✖かもしれない。何かの本で読んだのだが、人生を終えるとき、今までを振り返ると〇✖が上手く相殺されて、ゼロになるという。✖の時期は〇を呼ぶための布石かもしれない。

私の羽陽曲折な想いに反し、話好きの義母は陽気であった。義母は話し相手ができて、嬉々と過去の話をしてくれた。笑ったり涙したり、想いの多い１５年だった。
次の短文は、義母の話の中で、最も心に残ったものである。

義母は、ぽつぽつ語ってくれた。

「うちが高等小学校１年の時の事や。おなごの親が病気で死んでしもうたんや。悲しかったわなぁ。そんときの話や。
　ウチの実家はな、瀬戸内のあったかぁい淡路島や。家族は、両親と女６人と息子１人の７人兄弟で、ウチは下から２番目や。そんな中で、大事な跡取息子が腸チフスになってしもぉてのぉ、おかちゃんは、もう付きっきりで看病したんや。兄やんは治ったけんど、おかちゃん自身が移ってしもた。病状は思わしくなかったみたいや。けどそんなこと、小学生のわしと妹にはよぉ分からんかった。
　そんころ、家の庭には大人一抱えくらいのおっきな桜の木があっったんや。満開のころには通る人が皆『きれいぞなぁ、目がよろこんどるわ』言うてくれたほどの桜や。
そん桜がぱぁっと満開の日やった。わしは妹と学校から帰ってきたら、家の中がバタバタしとる。父親が『庭であそんどれ』言うもんやから、妹と桜の枝に飛びついて、ワッサワッサしとった。はなびらが、はらはらおちてきてのぉ、きれぇな色とええ匂いも、落ちてくるんや。自分とこの木や、思たらちょっと誇らしぃてな、ええ気持ちやった。けんど、そんな気持ちはすぐ飛んでしもた。姉やんが、おかちゃんが死んだと伝えにきたんや。妹と二人で木から降りて、ワーワー泣いた。泣いて泣いて、桜の色も匂いもなくなてしもぅたわ。
　そんから、一月くらいしてからのぉ、桜の木は切り倒されてしもぉた。根付く寝つく云うてな、あかんのや。あれから七０年もたったんやなぁ。けんど、いまでも桜の香りにつつまれたら、おかちゃんのことや、悲しかったことや、誇らしかったことや、みぃんな思い出すんや」　

↓３枚の写真は現在の西宮の家・リビング

　　
ソファーの下にオレンジ色の座布団を、犬の毛が入らないように詰め込みました。

上の写真の右端にあるのは、段ボール箱で作ったごみ箱です。↓
ポケットを付けたので、孫の手とかいろいろ入れてます。

６度の引っ越し ３度目の家

６度の引っ越し　３度目の家