彼は、40手前にして海外に一度も行ったことがなかった。とにかく海外に行きたい!と海外旅行に大きな憧れを抱いていた。
(この感覚も理解出来なかった)


そして、とある発展途上国に1人で旅行に出かけた。


海外に行った俺すごい
初の海外が一人旅な俺すごい
現地の人と仲良くなれる俺すごい


大体の人が「1人で海外旅行に行った」と聞くと
「すごいね!」と言うだろう。


その賞賛がたまらない彼。
いろんな人に話していた。


もちろんターゲットにされた私は、この自慢話を耳にタコが出来るレベルで何度も聞かされた。



現地人と仲良くなる為に頑張った彼。


道端で物を売っている現地の女性に声をかけられ、それがたまらなく嬉しい彼。あっちではモテた!と大喜び。
(日本人=金持ち 何か買ってくれるのではと思い商売のために話しかけて来ているということが分からないのだ)


なぜか、子ども達の群れに混じってサッカーをした。


現地の子ども達はとても人懐っこく、向こうから見たら外国人(彼)とボール遊びが珍しかったのだろう。
面白がって彼に群がったらしい。


ここで、彼の承認欲求が大いに満たされる事になる(笑)


例えるなら、芸能人が街を歩き一般の人にキャーキャー言われるあの感覚だ。


非日常的な世界で、非現実的な賞賛と喝采を浴びた。


帰国し興奮冷めやらぬ彼は、写真展を開いた。


友達に声をかけた。
関わりもなく所属すらしていない写真サークルの若い男の子2人をいきなり飲みに誘い、写真展の宣伝をした。


みんな付き合いで訪れてくれたらしい。


来場者に、彼の用意した感想ノートに一筆書く事を義務付けた。


「感動した」


と一言しか書かなかった彼の友達に


「なんで俺の作品を見てそれだけの感想なの?ちゃんと文章で書いて」


と強要したらしい。(その友達はドン引き)


写真家の方が経営するアトリエを借りての写真展。
その方はとても口が上手い人らしいのだが、その人のお世辞を真に受けた彼。


「俺はあの写真家の人に認められた存在だ」


これが彼の口癖だった。
地位のある人からの賞賛は嬉しくてたまらない。



本人の中では大成功だったこの写真展。
悲しい事に、実際のところは賛否両論だったらしい。


当事者は良くても、第三者にとっては大して興味のない国の写真達。



彼は起承転結を付けて分かりやすくした!とドヤ顔だったのだが、展示枚数も10枚程度?らしく、一瞬で見終わる内容。


飲み物1ドリンクオーダー制で決して安くない。


感想の強要。


彼のドヤ顔。


彼にいきなり飲みに誘われた、写真サークルの男の子達(私の友達の友達)もSNS上で彼の写真展の宣伝をさせられる羽目になり、付き合いでくる事に。


サークルに所属していない彼なのに、自分の写真展の為だけに彼らに接触をはかったみたいで、本人達は利用されたことが不快だったようだ。
自分の為なら臆する事なく他人を利用する自己愛性人格障害。相手に不快に思われている事も気付かない。


世間は狭い事に、私の幼馴染がその写真サークルに入っていた。彼に利用された男の子2人からの苦情を聞いていた。


ちなみに幼馴染はサバサバしているタイプなので、サークル上の付き合いとして写真展に行かなければならない雰囲気だったのだが、面倒臭いのと興味がないのとで、結局足を運ばなかった(笑)
だがサークル内の何人かは写真展に足を運んだようだった。


しかし悲しい事に、写真を趣味として本格的に活動しているサークル内の人達の間では


「フォトショ写真展」
「加工がやばい!」


と影で言われていたそうだ…


彼は、カメラの加工機能を使って写真を加工し撮影するので、現実とは全く違うカラフルなものに仕上がる。鮮やかすぎるので、インスタにはちょうどいいのだが。


サークルの人たちはフィルムで撮ったり、加工をせずに写真を撮る方ばかりなので、ちんけな写真展に思われたようだった。



本人は


写真展を開いたこと


というステータスを身につけてこれで自慢話が一つ増えた


という所だろうが、周りの意見は思ったよりも冷静で。
儲けを意識した写真展ではないにしろ、写真展のフライヤー、アトリエの賃貸料、展示する写真の準備等でかなりのお金がかかったらしい。
だが、みんなに褒めてもらう為なら、お金は二の次なのだ。
お金で承認欲求を満たしたのだ。
その代わり、反感や疑問を抱かれていることには気付かない。



なんか、寂しい人だな。
裸の王様って、彼のような人のことを言うんだな。


ととても哀れに思えた。



大勢の人を巻き込んで、自己陶酔。
承認欲求もここまでくるとさすがに厄介だなと感じた。



きっとなんの刺激もない日々の生活が続くようなら、あの時の感覚をもう一度味わいたくて


「写真展をやりたい」



と言い出すのではないだろうか。



いい加減にしないと周りから面倒臭がられるのではないかと心配になるが、もう堕ちるところまで堕ちて孤独になればいい。と思ってしまう。



それでも彼は気付かない。
自己愛性人格障害はある意味無敵だ。