手塚治虫原作「アドルフに告ぐ」。
この劇団において再再演となります。
私は初演は観ていませんが、2015年の再演を観ています。
また、ちなみにですが同じ年に別カンパニー(成河さんカウフマン・松下洸平くんカミル)でも観ております。

前回の再演は大阪公演もあったのですが、今回は東京のみ。
観ていて楽しい演目では決してないのですがこの劇団だからこそ表現できる演目なので観ておきたいと思い行きました。
思ったのは、ウクライナ侵攻やガザ問題など外側だけではなく、世論に流されやすい今の日本の現状を考えると、再演時よりも実にタイムリーだなということ。
より他人事ではないという感を受けました。

カウフマンを芳樹さんとまつしんのW、ヒトラーを甲斐さん、峠を曽世さんというキャストは変わりませんでしたが(船戸さんのカウフマンパパもか)、あとは大きく変わりました。
大きいのは半数近くが客演だということ。
あまりにも知らない役者さんばかりだったのでマチネでは誰が誰なのかわからなかった。
ただ、今まで客演さん入った舞台の中では皆さんいちばんライフの世界に馴染んでいたというか違和感がなかったように思います。

前回は芳樹さんのドイツ編、日本編、まつしんのドイツ編、日本編、そして別キャストでの特別編と5パターン(台本は3パターン?)あって非常にややこしかったのですが、
今回は台本一つなのでわかりやすくなりました。
本多親子や芸者のくだりはまるまるカットなのでドイツ編に近い。 (特別編は未見)
3人のアドルフに焦点を絞ったからか前回よりも見やすくなっていました。
とはいっても2時間超え、休憩なし。
終わってから題材が題材なだけにぐったりしました。
もちろん見ごたえはありましたし、かなり考えさせられる作品で観に来て良かったという満足感はありました。
何も残らなかったカウフマンにとって唯一残ったのが少年時代の楽しかった思い出だというラストに泣けます。
以前観た時にも思ったことなのですが、峠に背負われた由季江がまた3人で仲良く暮らしましょうというセリフでその中にアドルフが含まれていないのが残酷だなと思いました。

そしてこれも前回観た時も思ったことですが、カミルパパを殺したのがカウフマンであることをカミルが知ったくだりをいれていないのはなぜだろう。
成河松下版ではあったと思うのですが。
カミルパパを殺したことがカウフマンのターニングポイントであるはずが、それ以降あまり触れられてないような気がします(カウフマンに書いたカミルの手紙で少し触れられているだけで)。
カウフマン自身忘れているようにも思える(それ以降も何事もなかったように普通にカミルに接している)。
なぜカミルがカウフマンを殺したのか、またカウフマンがカミルになぜ殺されたのかという点において大きい部分を敢えて入れなかったのはなぜなのか作り手(主に倉田さんに)に聞いてみたい点です。

チーム名覚えられないから芳樹さんチーム、まつしんチームと書くけどストレートに響いてくるのがまつしんチームで、じわじわ後からくるのが芳樹さんチームだな。
まつしんカウフマンは子供のまま大人になってしまった悲哀を感じ、芳樹カウフマンは最初から大人びた感じをうけ、大人になるしかない悲哀を感じました。
カウフマンの裏役は由季江で、まつしんはこういう役はお手のものだけど芳樹さんのが想像つかないと思っていましたが、たおやかな姿が意外にハマっていました。

エリザとエヴァブラウンはきよくんと松村くんで表裏でやっていたが、きよくんはエリザ、松村くんはエヴァがハマっていたな。
松村くんが在団時代女役をやっていなかったというのが意外でした。
エヴァの包容力がすごく良かった。
甲斐さんのヒトラーは本当にヒトラーが乗り移ったかのような凄みがありました。
ただ、エヴァにだけ見せる顔もまたヒトラーの一部だったんじゃないかと思わせられました。

楢原さんはカミルパパとランプの2役だけど、どちらも本当に巧い。
優しくて穏やかなパパと、うさんくさいランプ。
大沼さんはいったい最終的に何役やってたんだろう?めちゃめちゃ働いていました。

曽世さんの峠は本当にハマり役。口跡が明瞭で狂言回しにピッタリ。
コミカルな部分も入れながらも締めるところは締めるのがさすが。
船戸さんの凄みある役もいつもながらさすがだと思うが、二人とも素とのギャップがすごいといつも思う(笑)。

客演さんたち皆さん馴染んでいて良かったけど、いちばん気になったのはまつしんチームのカミル役の三上さんだった。
ソワレでの裏役も気になって観てた、声が好きだな。
申さんのカミルも良かったな、真っ直ぐな感じで。
彼も裏役でも目を惹いた。カウフマンとカミルの組み合わせはこの二組の組み合わせで正解だったかも。
芳樹さんに似てると言われているらしいが確かに似てるけど、時々A.B.C-Zの河合くんに見えた(笑)。
顔というより演技の相性がいいと感じました。
あとは、教官役の馬場さんの凛とした佇まいが良かった。
彼の出ているシーンはすごく緊張感あって締まったのですが今回の座組で最年少ということを知って驚きました。

この日はマチソワとも終了後撮影会がありました。
本編で絡みのない人たちと組んだりすることもあったりして和気あいあいとした楽しい撮影会でした。
甲斐さんが役を離れて何かやっていいかと聞いていて、あなたはダメ!というか何やりたいんですか?とダメ出しする曽世さんが面白かったw
(どうやらヒトラーの姿勢をずっとしていると腰が痛かったよう)

久しぶりに役者さんが物販に立っている姿見て懐かしいなと思い、入口では上品に佇まいながらお出迎えしてくれる倉田さん見て懐かしいと思い、客席で大さんをお見かけして相変わらず麗しいと思うそんな1日でした。