萩尾望都原作「エッグ・スタンド」初舞台化。
3連休東京で4公演、翌週大阪で2公演観劇しました。
今回久しぶりに大阪で公演があるので東京ではそんなに観なくてもいいかなと思って19日(日)20日(月)のマチネしか元々取っていなかったのですがいつの間にか増えていて結局他の演目観ていない(笑)。
「エッグ・スタンド」以外では1日目の昼に「ミュシャ展」を観に行ったくらいでした。

舞台はナチスドイツ占領下のパリ。
キャバレーの踊り子ルイーズ、少年ラウル、レジスタンスのマルシャンが出会い共同生活を始めるがそれぞれ秘密を抱えていて・・・という話。

メインキャスト3人がWキャストで他はシングル(というか色んな役を兼ねている人がほとんど)。
東京ではRougeチーム3回、Noirチーム1回を観ました。
ソワマチソワマチ・・・詰め込みすぎた(遠征組のさだめ)。

原作は読んでから観に行きました。
トーマの時も思ったのがビジュアルは決して似ているわけではないけれど、本質的な部分を立体化して忠実に表現することができるところが本当にすごい劇団だなと。
「再現」ではなく「表現」。
キャストそれぞれは本当に全く違った個性と組み合わせなのですが、どちらのチームもまぎれもなくラウルでありルイーズでありそしてマルシャンでありました。

反戦を声高に謳っているわけではないけれどやはり反戦作品であり、今の時代に敢えてやることに意味あるんだろうな。
しかし、哀しくてそれでいて美しい。

この世界観を出せるのもこの劇団ならではでまさしく唯一無二の劇団だと感じました。
公演期間が冬の終わり、春の始まりというのもぴったりいいタイミング。
そんな胸に刺さる芝居をすると思えば、イベントではアレだからな(笑)。
そのギャップがいい。

大がかりなセットはなく非常にシンプル。

八百屋舞台はアドルフの時と同じような感じで天井に大きな丸いオブジェがあるのが印象的。
席によって円に見えたり、斜めの楕円に見えたり違って見えるのも面白い。
画像で見た時も印象的でしたが、実際に見るとより存在感があって印象的だった。
台詞を言うたびシーンが変わるたび色が変わるのも実際に観て初めて知った。
その変化がまた不穏な空気を醸し出していたように感じます。
それが卵の殻に見えたりと色んな解釈ができるでしょうが最初に座った席がセンターで円に見えたので私にはあのオブジェは神の目のように見えました。
一貫して俯瞰的なような・・・すべては神の掌の上であるような。

気になったのはシーンのつなぎがスムーズではないところか。

後方席の方が気にならないのは全体が見えるのとオブジェがより効果的だったからかもしれません。
前方だと場面転換大変そうねと思ったもの(笑)。
前方席だと最前(今回最前は座ってません)とかではない限り、床の上での芝居とか見えない部分も多かったです。

PHANTOM程ではなかったけれど。

あと、萩尾先生の台詞は実際に役者の口から発するのを聴くと、日本語も美しいけれどリズムがいいのだなと気づきました。

だから微妙に変えるとリズムが狂うんだなと。
「かるいね、羽でもあるの」のところとかね。

しかし、本当にいい作品だと思うのでまたブラッシュアップして再演して欲しいなと思いました。

メインキャストは
Rチームはラウル:芳樹さん、ルイーズ;久保くん、マルシャン:笠原さん。
Nチームはラウル:松本さん、ルイーズ:曽世さん、マルシャン:大さん

キャストが違うとこれほど色合いが違うものなのかと感じました。
そこがまた面白いところ。
どちらかというと、Nチームの方が「ルージュ」と感じました。
Nチームは本当に疑似家族でこの戦争がなかったら幸せに過ごせたのにという戦争による悲しさを感じ、
Rチームは戦争があったからこそ結びついたという非常に不安定なバランスと静謐な狂気で戦争の恐ろしさを感じました。
そして、Nチームは春が来るかもしれないと感じ、Rチームは春が来るのだろうかと感じた。

私の好みはRでした。


Nは私には少し熱がありすぎた。
しかし、前述通り違った味わいがあって1つの脚本で2度美味しいというのが味わえるのもこの劇団ならでは。

今回いちばん胸に刺さったのは笠原さんでした。
本当に素敵な役者だと改めて感じました。
心の痛みを感じさせる、感じられるところが本当に素晴らしい。
メインキャストの中でいちばん感情移入できるキャラクターが元々マルシャンというのもあるけれど、彼の痛み・優しさ・強さがものすごく心に沁みた。

そしてチームの違いといえばRはマルシャンが中心、Nはルイーズが中心という関係性の違いを感じました。
実際にそれぞれのチームの中でいちばん先輩というのが関係あるのかな。

マルシャンはどちらのマルシャンも素敵でした。
「目覚めの前の夢なのか?」が響いたのは笠原さんで、「戦争が終わったらどうするんだ?」が響いたのは大さん。
この世でいちばん大切な妻子を亡くして枯れ果ていてた笠原マルシャンとどこかまだ青さの残っている岩﨑マルシャン。
ルイーズはそれぞれのマルシャンに合ったルイーズだったと思います。
これ逆の組み合わせは合わなかっただろうな。
原作に近いのは久保くんのルイーズ。マルシャンの枯れた心に水をやるかのような爽やかさと軽やかさがありました。
曽世さんのルイーズは包容力がたっぷり、青いマルシャンを包み込むようでした。
技量の差はもちろん歴然としたものがあり、曽世さんは本当に1つ1つの台詞を深めてすごいなと思うのですが(なんとか17才にも見えたしw)、
久保くんの独特の感性による演技が良かったです。
「それって変?」とか「まいっか?」というようなちょっとした言い方とか好き。

ラウルがやはりいちばん違うと思いました。
「死ぬってどんな感じ?」「人を殺すってどんな感じ?」という問い掛けは芳樹さんのラウルは本当に答えを求めている感じがしなかったが、松本さんのラウルは本気で知りたいように見えました。
芳樹ラウルは感情が欠如している、松本ラウルは感情がゆがめられているという違い。
本当に松本さんのラウルは純真無垢な少年。

本当に少年にしか見えなかった(実年令は製作発表の記事でばらされていたが絶対見えないw)。

ただ愛情というものがよくわからない。

だから「人を殺すってどんな感じ?」という答えがわからないという焦燥感がありました。
芳樹さんのラウルは思っていたのと違って子供子供していなくて最初は大人に見えましたが、話が進むにつれて肝心なものが欠けたまま育った子供なのだなというのが伝わってきました。
無垢でもなく、虚無でもない、そのさじ加減が絶妙。

というか、そこに存在しているのがラウルそのもの。
芳樹さんのラウルは感情が欠如していても「なぜだろう?」というのはあるのでマルシャンが戦争に行ったことがあるということを知った時は食いついたけれどそれ以上の焦燥感は感じなかった。
本当に自分が生きているのかどうかわからないというところは芳樹さんのラウルで強く感じました。
だから、「ぼくは多分何か忘れて生まれてきたんだね」という言葉がものすごく響く。
そして、目を覚ましてというルイーズのキスで目覚めた後「ぼく涙なんか初めてだ」と1人涙を流すシーンで響いたのは芳樹さんの方。
「愛しているから殺す」というラウルが本当の愛を知ったのはルイーズのキスからでその表情の違いがまたものすごく絶妙だった。

泣きどころもそれぞれのチームで違っていてNチームは3人が屋根の上でパリの街を眺めるシーンが本当に美しくて幸せそうででもその後の悲劇を知っているだけに泣けてきた。
Rチームはラストでラウルがマルシャンの袖をぎゅっとつかむ、そのつかみ方。
今まで泣かなかったけれどもここで落涙しました。
長い冬が好きだという少年が春を見ることがなかったことにも泣けた。
他にも色んな感情を思い起こしたけれどうまく言葉に出来ないな。

ラストシーンといえば原作では直截的な表現はなかったけれど、舞台では敢えてしっかり描きたかったんでしょうか。

そして今回本役と裏役の対比も絶妙でした。
ラウルの裏役がラウルを殺人マシーンに仕立てたパピヨン。
ルイーズの裏役がラウルを自分の子どものように可愛がりそして殺されたサガン未亡人。
これは色んな方が指摘していたから初見の時も意識して観たのですが、「春は来るのか」というマルシャンの裏役が「春が来れば戦争が終わるよ」という一市民。

まあ、他の裏役としたらキャバレー花うさぎで遊びすぎなポールさんとか、エロ高官とかありましたが(笑)。
しかし本当に大さんのエロ高官はけしからんくらいエロかったw
なぜ笠原さんより大さんの方が妖しかったのか考えるとガウンをちゃんと着ているかどうか、いやそれ以外もなんか目が妖しいwww
そしてポールさんは松本さんは本当に普通のウェイターなのに芳樹さんは非常に怪しい(笑)。
大千穐楽では遊びすぎていたのが翌日ばらされていましたが。

自称ミドルスリーの中堅(船戸さんは中堅なんだろうか?)3人組がそれぞれいい味出していて舞台を締めていたと思います。
主な役は黒い目の男(船戸さん)、バスク爺さん(奥田さん)、ジロ(仲原さん)。
黒い目の男はこの劇団内では船戸さん以外に適役思いつかない。
バスク爺さんの飄々さもなんともいえない味わい。
バスク爺さんと笠原マルシャンの砂糖が段々増えていったのもなんともいえない(笑)。
本当に奥田さんは何やってもうまいなあと思います。
ジロはガルニエでもそうだったけど仲原さんのこういった温かみのある役すごく好きだな。
最後の「仕事はいっぱいあるぞ」が本当に温かくて好き。

いちばんの収穫は花うさぎの踊り子ちゃんたち。
画像で観た時よりも何千倍も可愛い。
そしてあまりにも可愛いから出番増やしたのではないかという疑惑が私の中でふつふつとwww
そう、正直初見では花うさぎのシーンこんなにいるの?と思ったのですよ。
でも回重ねるにつれてこのシーンがいいアクセントになって観ていて楽しくなってきた。
なんといっても4人がそれぞれ個性があって飽きない。
ダンスは本当に苦労したみたいですが(特にあの傾斜のきつい八百屋舞台でステップ踏む田中くんとかこりゃ大変だと思ったもの)楽しく魅せてくれました。
どの子も可愛いけれど宇佐見くんの所作が綺麗だったな、ドヤ顔も(笑)。
何気に吉成くんと奥田さんのペアダンスも可愛くて好きだった。
花うさぎライブDVD販売はまだですか(写真集は売ってたけどw)。
しかし、ドイツの支配下から解放された後の彼女たちのその後を想像するとつらい。

楽週に行ったので千秋楽挨拶がありました。
Nチームでは翌日があるから控え目。
船戸さんが花うさぎメンバーに入れて欲しかったと言っていたのを曽世さんが「採用ありませんから」と即却下してたくらいか(笑)。
Rチームではまとめとしては江口くん1ボケ、代表100ボケw
江口くんは挨拶で「大阪まで気を抜きすぎないようにします」と言ってしまったものだから、次に続く先輩たちから「僕は気を抜きません」「気を引き締めて頑張ります」「大阪まで変わらず頑張ります」といじられまくり(笑)
藤原さんはね…飛ばしてた(笑)。
大阪の公演も頑張るというようなことが主だったのですが、何度も公演日を25.26の3ステージと言って周りから24日からだから!とつっこまれる。
しかも26日はイベントだから公演ない(笑)。
「24日ちゃんと来てくださいよー」と奥田さんにつっこまれていた。

来てなかったらどうしようと思いましたが無事来ていて良かった(笑)。
大阪に来られない人は「ああ今頃藤原が前説やっているな、始まったころかな」と思いながら胸に手をあてて瞑想お願いしますとかなんとか言いだして迷走していたwww
飛ばしまくる藤原さんを横に他の劇団員たちすんませんすんませんと観客に謝っているわ、わちゃわちゃ感がすごい。
「長々と挨拶したら舞台の余韻がなくなると怒られる」と言ってましたが確実に怒られる、代表なのに(笑)。

トリプルコールの最後は一本締めもとい一丁締めでお開きでした。
宴会かw!
あんなに胸刺さる芝居の後これだけ和ませられるのもこの劇団ならではと思うのでありました(笑)。

そして翌週の大阪に続く・・・