では「トーマの心臓」の感想。
最初に観た時、まずセットの違いに戸惑いました。
今まで後方センターが舎監室の出入り口だったのが、下手側に。
また、ベッドが下手横に並んでいたのが、真ん中にどーんと並ぶ形。
舎監室広くなりましたなあ、初演ではベッド1つだったというのに(笑)。
それ以上に戸惑ったのは実は笠原オスカーなのでした。
見た目ではなく、オスカーの存在感の強さ。
この舞台においてオスカーがものすごく強すぎると感じた。
今回芳樹ユーリがとてもナチュラルでニュートラルな役づくりだっただけに余計に強さを感じました。
ただ、「訪問者」を観てから印象が変わりました。
このオスカーは人一倍愛情たっぷりなオスカーなんだと思った。
原作のオスカー含めて他のオスカーはユーリ以外は見ていない気がしたが、彼のオスカーはユーリは特別としても他の生徒たち、アンテに対しても愛情を注いでるような気がした。
子供時代十分に愛情注がれなかっただけに。
なのでこの連鎖公演はオスカーの愛と救いの物語であるのがいちばん大きかったように感じた。
もちろんユーリの心を大きく開いたのはエーリクの無垢さというのがいちばんだったが、オスカーの愛もユーリの心を開いた要因にちゃんとなっていたのが今回伝わっていたし、病床のミュラーがオスカーに「おいで」と手を伸ばしたところでは、ああオスカーの愛は報われたんだなと。
おそらく今後笠原オスカーを生で観る可能性はほぼないでしょう。
だから今回観られて良かったです。
今回あえてレジェンドキャスト復活ということで上演した意味とはやはり笠原オスカーのためのものだったと大きく感じました。
そんなわけで今回は「初めて演じた役」を演じるキャストが多いキャスティングでした。
そして年配の役やお茶会の先輩たちの役を若手が演じるというのも面白い。
五人組も同じ年代の若手が演じることが多い中、中堅から若手とバラバラながら妙に安定感ある。
今回シングルというのもあり盤石のキャスト陣でしたので完成度と安定感は抜群でした、瑞々しさはさすがに少ないけれど(笑)
非常に丁寧に物語を綴られていてただただ美しかった。
魂が浄化されるのがリアルに感じることができました。
それでいてテンポよくアドリブも効いている。
特にそれを感じたのは五人組のところだったんですけどね、やはり年季って大きいんだなって。
あとは曽世バッカスかな。
さりげなく舞台を締めているところがさすがだと感じました。
オスカーとじゃれるのは本気で楽しそうだった(笑)。
「お前さん」という昭和なセリフが違和感ないw
レジェンドキャスト扱いでしたが唯一まだ次も出られそうって感じました。
バッカスは特に卒業してないんですよね?
オスカーも観てみたいなって思ったけれど。
初役の中では田中アンテが光っていました。
いちばん原作に近いアンテなのかもしれない。
特に千秋楽の時の「ふりむいてよ、オスカー」にはこみあげるものがありました。
もしかしたらいちばん瑞々しさを感じたかもしれない。
仲原サイフリートは、前回の青木サイフリートのようなエキセントリックさが感じないだけに逆に怖さはありました。
ただ、やはりオスカーの方が観たいかな。
宇佐見シェリーは初役なのに初役に感じないのは「芳樹さんのお母さん役」2回目だからか(笑)。
石飛さんのレドヴィは最後まで見た目は慣れませんでした。
ここは正直に。
ただ、レドヴィの本質をものすごく感じるものがありましたし、何よりもこの舞台において厚みをもたせていた。
最初の詩の朗読、そして舞台上段でエーリクが隣にいて詩を朗読するシーンがとても印象的でした。
後者のシーンは前回ではカットされていたんでしたっけ?
他に復活したシーンとしてはいちばん大きいのが病床のミュラーとオスカー。
前回カットした意味がわからないくらい、ここはやはり必要だと思います。
そして先生にお祝いのカードを贈ってあげようというシーンは、「二重人格め」とエーリクが悪態つくところに説得力もたせる(笑)。
この作品は観る度に色んな発見、そして色んな想いが生まれるのですが、「いい子でしょう、私の息子なんです」のシドが語る相手がミュラーであることも色んなものが重なるなと思った。
本当の親子と義理の親子、そして「トーマ~」には描かれていないもう一組の義理の親子。
シドとのシーンは実は土曜日マチネの方が泣けた、なぜならその後グスタフの楢原さんを観たので戸惑ったからかも。
親子といえば今回ものすごく強く刺さったのが、ヴェルナー氏が「トーマが事故の前に日記など全部焼いてしまったから本当は何を考えていたのかわからない」というくだり。
トーマの死が事故ではないことがわかっている、でも何故死んだのか知る由がない父の辛さ。
いつも印象的なシーンではあるけれども今回とても強く感じたのは演者(倉本さん)によるものだったからか。
そこで手をつなぐエーリクは本能的に人が何を求めているのかがわかっている。
そんなエーリクだからこそユーリの心を開くことができたんだなという説得力があのシーンにはあった。
そう、松本エーリクがとても良かった。
単純に無邪気なだけではできない、実はメイン3人の中でもいちばん難しい役なんだと思います。
2006年版よりも深みを感じたのはユーリ役を経験したからこそのエーリクなのかもしれません。
そして、芳樹さんと松本さんはここ最近ダブルキャストだったからがっちり組むのは久しぶりに観ましたがやはり息の合い方がさすがだなと。
芝居のキャッチボールが本当にいい。
最後に芳樹ユーリ。
以前観た時より色んなものが削ぎ落とされている、だからこそ本質が浮き上がっていてよりリリカルな印象を持ちました。
そして全体的に柔らかい印象。
2006年版は硬質で他の人が入る隙を全く感じないほど閉ざされていましたが今回はそこまでではなかった。
いつもに増して幼さを感じたのはやはり相手が年上で包容力のある笠原オスカーだったからかもしれません。
「南国の太陽」の面影を感じさせられるシーンが良かった。
お祖母様の家でエーリクと二人きりになって自分のことを語るシーン。
最後に「たくさん話したいことがあるんだ」とエーリクに語りかけるシーン。
ユーリは本当はこういう温かい子なんだなと今回特に強く感じた。
萩尾先生の日本語は本当に美しくて、芳樹さんの台詞回しがその美しさを最大限にあらわしてくれるところがたまらなく好きです。
最後の詩の朗読もだけど、それ以外でも詩的。
妹の生まれた朝、クリスマスの粉雪、初めて好きになった少女、見知らぬ人の親切・涙・・・。
本当に美しい調べ。
口の端よりことばのいずる前にすでに目はものごとを語るけど・・・という流れるような調べが本当に美しい。
所作も隅から隅まで計算しつくされた様式美。
劣化どころかますます若返っている芳樹ユーリは人間国宝に指定してもいいと思います(笑)。
2014年版で気になっていたのは「キリストの台詞だ」と「罪の意識のないものはいいね」がエリック入っているような台詞回しだったこと。
今回そこがさりげない言い方になっていて良かったです。
あと、自分の中で気になっていた「どっちの手でエーリクをビンタするだろう」の今回の答えは「左手」でした。
やはり、左手の方がやりやすいのかな、左だとその時のエーリクの表情が見えないんだけどね。
どうでもいいですか(笑)?
「切れば、指」や「知っているよ」の言い方は今回も好き。
好きなところを語ればきりがないのでこのへんで(笑)。
千秋楽は座布団席まで出る満員御礼状態。
幕間の時に友達と話していましたが、これ消防法大丈夫(笑)?
おそらく当日券に並んだ人は全員入れたんでしょうね。
座布団席が入ると後方の本席の人が入れないため、規制入退場あり。
誘導は代表藤原さん自らされていました。
だから始まるのがかなり押してもみんなが席に着くまで待つ、幕間も本来10分だったのが最後のお客さんが戻ってくるまで待っているという徹底ぶり。
「私が待つと言ったら待つんです」と藤原さん(笑)。
安心してお手洗いに行けるのはありがたい、でも1幕終わった時点で既に20分?30分?くらいは押してたのでいつ終わることやらとはらはら(笑)。
舞台挨拶と4度のカーテンコールで結局終演予定時間より1時間超えでした。
帰りの新幹線余裕持って予約していて良かった(笑)。
というわけで最後の舞台挨拶。
一言一句は覚えきれていないのでニュアンスで(笑)。
まずはJr.10から13は訪問者の時(久保くんは訪問者ではメインだったから別として)同様基本的に役名と名前のみでしたが、田中くんが2014年のリベンジとして臨んだ、今回最後までできて良かった、にはもらい泣き。
本当にこれだけは言っておきたかったんでしょうね、言い終わってから感極まっている様子を見てまたじーんときました。
松村くんは初めてのトーマに参加できて感無量だったと一言あったかな。
仲原さん。二幕まで出番がないから暇だと思ったが意外に色々やることがあった。
袖からレジェンドの方々を凝視していた。
関戸さん。このキノコ頭を近いうちに収穫したいと思います。
牧島さんはお客さんへの感謝の意を述べていたかな。
青木さん。久しぶりの五人組楽しかった。
若手とのジェネレーションギャップに苦労した。
そしてしばらくはリンゴを食べたくない。
年取ったら歯茎が弱くなって・・・と延々ぼやいていたら笠原さんに「もういいから」と止められていた。
曽世さん。宇佐見に言われてこれからお茶会の解散式をする。
でもお茶会は永遠に不滅です。
松本さん。色んな方に感謝の意を。
そして座布団席の方々にお尻痛くないですかという気遣いも。
楢原さん。「訪問者」の時同様朴訥とした語りで感謝の意を述べていました。
倉本さん。ヴェルナーという役は命の大切さなど深くて大切な言葉が多い。
きっとこの中で自分がいちばん早く召されるだろうから忘れられないようにしたい、でみんなから「まだ早い」「早い」と総ツッコミ(笑)。
石飛さん。レドヴィをやるのはこれが最後だと思う、でも70になったらまたやってもいいかなって(笑)。
で、宣伝していいですか?というのが今度発売される萩尾先生の文庫本にエッセイを寄稿しているとのこと。
きゃぴきゃぴ嬉しそうなのが可愛かった♪
笠原さん。「こんにちはー、レジェンドです」と第一声が爽やかに挨拶。
アンテの野郎と言いながらはける時に袖でアンテとリーベが小芝居をしていてそれを見るのが楽しみだったのに、千秋楽ではやってなくて「なんで千秋楽でやんないんだよー」って思ったと笑わせてくれました。
オスカーはもうやらないかもしれないけれど、一回復活しているからな。
でもひとまずはごきげんよう、さようなら!というキビキビ爽やかな言い方がオスカーそのものでした(笑)。
芳樹さんは最後の詩の朗読の時本当に涙でいっぱいで頬がきらきらするくらい涙で濡れていました。
でも今回はカテコの時には芳樹さんは芳樹さんに戻っていた。
なぜなら他の人の挨拶の時笑っているもの(笑)。
大阪楽で観た時は全くユーリから戻ってなくて物販の時もぼーーーーーっとしているように見えましたから(その時は物販など恐れ多いと思って陰から見ていた私w)。
挨拶は萩尾先生、関係者、お客様に感謝の意をまず述べる。
この順番が松本さんとかぶる(笑)。
そして新しい風と懐かしい風を感じながら深みのある作品を作れたのではないかと思うというようなことをおっしゃっていました。
「レジェンドの方々と一緒にやれて・・・」には「あんたもや」と速攻笠原さんにつっこまれていましたが(笑)。
最後に藤原さんがこの作品があるからこそこの劇団が存続できている。
この作品の上演することに尽力いただいた小学館の山本編集長(萩尾先生などを世に送り出した方)が亡くなられたが、その山本編集長のご家族が初めて観に来てくださった。
色んな方の力で私たちは舞台に立てているといった謝意を述べていらっしゃいました。
千秋楽には萩尾先生もいらっしゃっていましたね。
幕間で普通にロビーの椅子にちょこんと座って談笑されている姿をお見かけしてびっくり。
素敵な柄のお召し物が良くお似合いでした。
前述通りカテコは4回。
2回目で「いつもお客様から拍手をいただいていますので今回私たちからお客様へ拍手させていただきます」ということで役者さんから観客への逆拍手。
もうすでにここでスタオべしていたっけ?(記憶あいまい)
3回目ではオールスタオベになっていた筈。
そして藤原さんが「皆さんへの感謝をあらわすために一晩考えてきました」というジャンピングオベーション。
ジャンプしながら拍手するだけ。
ジャンピングオベーションという言葉に戸惑う劇団員たちの姿がいまだにじわじわきています。
そこで「どんな意味あるの?」という芳樹さんの問いかけに「意味はありません!」ときっぱり藤原さん。
全員崩れ落ちてましたよ、特に久保くんの崩れ落ちっぷりがおかしくておかしくて。
でまあ、ジャンプしながらみんな拍手していたわけですが「これどうやって終わらすの?」と芳樹さんつぶやきながらジャンプしていた(笑)。
とりあえずそのままバイバイしながらはけるも4回目のカーテンコール。
「皆さんやりますね」とにやりとする藤原さんに「それハードルあげているから」とまたつっこむ笠原さん。
最後は一本締めもとい一丁締めで終わりましょうということで「よーっ」パン!
やっとお開きになりました(笑)。
そして帰りに友達と話していたけど河内さんいらっしゃっていましたね。
劇中ガタンとか色んな音が聞こえたもの。
カーテンコールでの大きな拍手喝采に藤原さんが「河内さん、聞こえてるー?」と呼びかけられていたのが涙腺崩壊だったのですがきっといらっしゃっていたはず。
泣き笑いの感動的な千秋楽でした。
改めて本当にいい劇団だなと思います。