「あっ、ねぇねぇ!」



助手席から身を乗り出して、運転している由紀ちゃんの顔をのぞき込む。



「なんだ?」



「なんで由紀ちゃんは、零が私達の事を知ってるって知ってた?の…?」



言いながら少し混乱した私を目の端に捉えると、彼はフンッと鼻で笑った。



「…さぁ?なんでだろーな?

俺様は何でもお見通しだからな!」






気付かねぇ訳ねぇよ。



教壇に立った途端、突き刺さる鋭く重い視線。



怒りにも、悲しみにも取れるそれは、今まで俺を見ていた怪訝そうな表情とはまるで違う。



そして〇〇を見つめる、切ない熱の籠もった瞳。



藤堂にしては珍しい程、行き場のない感情を持て余しているのが分かった。





気が…付いたんだな。





何がきっかけで、疑惑が確信に変わったのかは分からないが。



悪ぃな。



今更引き返すつもりも、お前に譲る気も、さらさらねぇよ。





「そうだ!だって魔王だもん!

だから由紀ちゃんは、いつだって下界の事は全部お見通しなんだ!

ねぇ、どのくらいの事まで見えるの?」



俺はとなりで訳の分からない話をしている、愛しい〇〇を見つめた。










どれくらいそうしていただろう。



何も言わず、ただ私の髪を撫でる彼の手に、愛されている実感に、心が暖かくなってゆく。



そして段々と脳内が現実へと切り替わってきた。



思い切り泣いたせいか、なんだか心もすっきりして清々しい。



…なんて言ったら怒られるかな?



それにそろそろ降りないと…足、痛いよね…



「んなヤワな体してねぇよ。

俺を誰だと思ってる?!」



「えっ…!」



「…まぁ、確かに自分だけすっきりするのはどうかと思うがなぁ?

でも、とにかくあんま…ため込むんじゃねーぞ!」」



「…!」



私、無意識に声に出してたのかな…



その時、またあのほろ苦いキスが降ってきて。



流されゆく意識の中。



私のシャンプーも、スペシャルシャンプーにしてもらおう。



…だとしたら、私のイメージはどんな香りなのかな。



そんな事をふと考えていた。



「…おい!

ったく…〇〇っ!

お前…よくもまぁ何回も何回もそうトリップできるもんだな。」



頭ん中どうなってんだよ…



呆れた様なその声の中に、ほんの少しの悲しみを感じて、胸がキツく締め付けられた。



そして彼の前で巡らせた思考に罪悪感が募る。



きっとさっきの私は、酷い顔をしていたはずだ。



腕の中の彼を覗き込めば、いつになく優しい瞳。



…あぁ。



きっと今…。



「…悪ぃな」



予想通り、呟く様に発せられたその言葉に、もう溢れ出る涙を止められそうにない。


由紀ちゃんはいつだって全てお見通しだ。


私の事も、皆の事も。