花びらが散って、美しい。
「もう、いいよ。ゆるす。」
母の言葉をきいて、父は逝った。
さんざん苦しむことになった末、しかし、死までの最短距離を選んで、父は、すうっと、呼吸をとめた。
こんな日は、きっと訪れると思っていた。
しかし、今日明日とは思わなかったよ。
親を見送ることができたら、子としてそれ以上の責任はないと、入院した日に父は言った。
「俺のことは気にするな。面白おかしく生きろ。泣くな。」
誰にも言うな。
誰の悲しむ顔も見たくない。
人として非常に身勝手な男は、よく晴れた春の晩、開けた窓の隙間から、そよそよと入る風に吹かれながら、死んだ。
「面白おかしい人生だった?」
かつて聞いたときに、
「まあ、面白かったかな。」
そう答えていたことを思い出す。
父の人生を、面白おかしいものにしてくださった全てのかたに、彼の子として、心から感謝を申し上げます。
どうか、あなたの暮らしが、これからも、面白おかしい日々でありますように。