第6回:いまも、妻と一緒の献立物語。特定保健指導のセッションに、 クライアントとしてお見えになった、 不動産会社の営業職に就かれているTさんと お目にかかりました(50歳代男性。一人暮らし)。 ここ2~3年で体重が約5kg増加し、 中性脂肪や血糖値の上昇が気になっているとのこと。 原因として思い当たることを伺うと、 「わからない」とのご返事。 そこで、普段の食生活について詳しくお聞きしました。 Tさんは毎朝ご自身でお米を2合炊き、 半分をおにぎりにして朝食に、 残りを夕食として召しあがるそうです。 昼食は、主に外食。出先でさまざまなお店を利用。 夕食のおかずは冷凍食品を活用され、 1~2人前のパックは1日で召しあがり、 3~4人前のものは2日に分けて召しあがるとのことでした。 冷凍野菜も利用されているそうで、 レンジ加熱で温野菜にして召しあがるとか。 現在の体重や体型、食事量などから推察すると、 エネルギー過多の傾向が伺えましたが、 お一人暮らしでお忙しい中でも、 3食をきちんと摂り、 栄養バランスにも配慮されていることに、 むしろ「よく工夫されている」と感じました。 そこで、あえて問題点には触れずに、 「上手に工夫されていますね。 そうしたお食事法は、どのようにしてお考えになったのですか」と お尋ねしたところ、 Tさんは少しお考えになってから、 次のように話してくださいました。 「いまは一人暮らしですが、妻がいたんです。 何年も入退院を繰り返して、3年前に亡くなりました」 「妻の入院中は、 自分の食事がいい加減になってしまって……。 ついカップラーメンだけとかね」 「妻が一時退院したときには、 ボクの食事を見て、『カップラーメンだけじゃダメよ』 『野菜も食べなくちゃ!』なんて言いながら、 心配してくれたんですよ」 「心配をかけたくないけれど、料理は苦手で……。 そこで2人で考えたのが冷凍食品だったんです」 「食卓にご飯とおかずが並ぶのを見て、 妻はとても安心していたようでした」 「奥さまとご一緒にお考えになられた食事法だったのですね」 と申しあげると、 Tさんは笑みを浮かべながら、 「そうですね。ただ、食べることだけに一生懸命になって、 量を気にはしていなかったかも……」 そして、こうおっしゃいました。 「いま考えると、『太る食事法』だったかなぁ」 お話し合いの結果、 お米は1日1.5合とし、朝食のおにぎりはこれまでどおり、 夕食のご飯を控えることになりました。 Tさんは「健康で長生きしないと妻に怒られそうだから、 がんばってみます」と、 にこやかに宣言されてお帰りになりました。 食事の背景には、 人それぞれに物語がある。 その方にとって、それは大切な人生の1コマでしょう。 「健康支援」「食事相談」とは言っても、 その方のヒストリーや心情に目を向けない支援は、 擦り傷に絆創膏を貼るだけのようで、 その方の今後の方向性について、 なんのヒントもお伝えできません。 今回の事例では、奥様を亡くしても、 お2人の食習慣が踏襲されていることがわかり、 Tさんの微笑みは、こちらの笑みを引き出してくれるのでした。