『卵』(高瀬隼子さん 著)

この作品は、

『私小説: 作家は真実の言葉で嘘をつく 』(河出文庫)

に文庫版限定で収録された書き下ろし短篇である。


 

私は高瀬さんのこの短編が読みたくて文庫版を購入した。

 

 

 

『私小説: 作家は真実の言葉で嘘をつく 』は、

金原ひとみさんが「現代の私小説」をテーマに責任編集したもので、

収録作品は

金原ひとみ『星座のごとく』 *文庫版前書き

尾崎世界観『電気の川』

西加奈子『Crazy In Love』

高瀬隼子『卵』 *文庫版書き下ろし

エリイ『神の足掻き』

島田雅彦『私小説、死小説』

町屋良平『私の推敲』

しいきともみ『鉛筆』

金原ひとみ『ウィーウァームス』

千葉雅也『 『私小説』論、あるいは、私の小説論 』

水上文『言語の冒険へ――更新される『私小説』 』 *文庫版解説

という豪華なものだ。



『卵』は、不妊治療中の「わたし」が、

採卵の前日から当日をメインに、

採卵数日後までの「わたし」の感情を描いた作品だ。

子どもが欲しいという気持ちも欲望も持てない「わたし」。

その気持ちを共有できているのか分からない夫。

子どもをかわいいと思ったことがない「わたし」の言葉に共感した友人A。

そのAに似ている病院の看護師。

Aの職場にいる子育て中のミユキさん。

名もなき人を入れても登場人物は多くない。

主に「わたし」の心情が語られていく。

 

不妊治療の採卵の流れや状況が描写されているので、

不妊治療で体外受精を考えている人には参考になるかもしれない。

しかし、不妊治療中にこの作品を読むことをおすすめするかというと、

それはやや躊躇してしまう。

「わたし」は、心から子どもが欲しいと思って採卵に臨んでいるわけではない。

どこまでなら取返しがつくんだろう、と何度も繰り返し考えながら採卵に臨んでいる。

採卵後も。

不妊治療中にこの作品を読むことが、

子どもを妊娠し出産することの後押しになるかどうかは分からない。

ただ、不妊治療中の女性の中には、共感できる部分が多くあるようにも思う。

そうではなく、全く理解できないという女性もいると思う。

あくまでも「わたし」の感情なのだから、一致しなくてもいいのだ。

そういう意味では、当事者となる人にとっては

いろいろと考えながら読み進めていくことになる作品だと思う。

 

高瀬隼子さんの『卵』を読んだ感想を
『note』に書きました。

 

 

 

 

結構な文章量になってしまいましたが、

お時間のある方は、お読みいただければ幸いです。