序章:破滅への序幕(7)
「隼人、これは・・・」 五郎の声が震える。
「RX-2・・・報告を受けてた爆弾に間違いない!」 隼人は確信する。
3人はタンクにピタリとつけられた爆弾を外そうとするが、強力な磁力を帯び、しかもその重さにビクともしない。
そこへ不敵な笑いと共にクルアルが姿を現した。
「ハハハハ・・・RX-2は絶対に取り外しできない! あきらめるんだな!」
「クルアル、貴様スパイだったのか・・・?」 隼人が怒鳴る。
「今頃気づいても手遅れさ。 あと5時間でRX-2は地上へ落ちて爆発する!」
「手遅れだって?・・・じゃあクルアルよ、ひとつ聞くが・・・誰がこれを地上ヘ落とすんだ?」 五郎が尋ねる。
「そうだな・・・間もなくこのジェイワンは不幸な事故に見舞われて制御不能となり、地上ヘ墜落。 乗員はその前にひとり残らず事故死と言うことだ・・・!」
「・・・貴様もその事故の犠牲者のひとりとなるのか?」 隼人が微笑んで言い放つ。
「そうだ、お前たちと一緒にチリひとつ残さず消え去るのさ。 もっとも俺は地上ヘ戻って別人として生きていくがね。 どうだ、素晴らしい計画だろう!」
「この野郎、いい加減にしろ!」 グドルフがクルアルにつかみかかった。
しかしクルアルの放つ怪力パンチにグドルフが逆に跳ね飛ばされてしまった。 グドルフはひるまずに起き上がり再び突進したが、今度は両手で首を絞められてしまうのだった。 五郎と隼人は2人がかりでクルアルに飛びつきグドルフを助けようとするが、クルアルの腕はしつように離れない。 五郎は隅に転がっている鉄パイプを拾い、それをクルアルの背中に叩き込んだ。
一瞬、鉄と鉄とがぶつかり合うような金属音がして、五郎はしびれた手の感触に驚くが、なおも手を緩めないクルアルを見つめた後、今度は頭部に一撃を思い切り撃ち込んだ。 ガシャンと機械が壊れるような音がして、さすがにクルアルは自分の頭を両手で抱えてうずくまった。 その間に隼人はグドルフを介抱した。 五郎はグドルフを見据えて言い放つ。
「ロボットだったのか! 道理で馬鹿力なわけだ!」
やがてスックと立ち上がったクルアル。 その目が光輝き、今度は目からレーザー光線が五郎に向けて発射された。
驚きながら辛くもかわした五郎はタンク室から飛び出て走り出した。 その後をクルアルは断続的に光線発射して追い回す。
「冗談じゃないぜ。 奴を倒さん限り助かる道はないってことかよ・・・!」
五郎はクルアルをサンライズ号の格納庫へおびき寄せた。 サンライズ号のコクピットにすかさず飛び込んだ五郎は、クルアルに向けて艇装備のレーザー光線砲をお見舞いした。
凄まじい叫びと共にクルアルは燃え上がり、やがて黒焦げになって倒れ動かなくなった。
「五郎、怪我はなかったか?」 クルアルを見下ろす五郎のもとへ隼人がかけつけて来た。
「なんとか倒したよ。 それより、爆発まであと4時間だ、どうする?」
「ひとつしか手はない! ジェイワンを宇宙へ放り出すんだ! 五郎、お前はグドルフを連れて先に脱出してくれ! 俺はジェイワンを自動操縦に切り替えてからカプセルで脱出する! 考えてる時間はないぞ、急げ!」
「わかった。 隼人、逃げ遅れるなよ!」 2人は笑って別れた。
5分後、五郎とグドルフはサンライズ号に乗りジェイワンを後にした。
隼人は古川秀樹に事情を説明し了解を受け、ジェイワンを大気圏外脱出の自動操縦に切り替えた。
あと3時間半。 非常脱出用カプセルへ急ぐ隼人の行く手に、なんと倒した筈の黒焦げクルアルが立ち塞がった。
「脱出かぷせるハ処分シタ。 オ前ハ脱出デキナイ。 アキラメルンダナ。」 クルアルは無気味に笑う。
隼人が窓外を見やると無人の脱出カプセルが発射され、遠ざかる地球へ落ちていくのが見えた。
「き、きさま・・・よくもやってくれたな!」
隼人はクルアルにつかみかかるが、クルアルは反撃せず目を見開いて隼人をにらみつけた。
「オ前ハ、私ノ言ウ通リニ動クノダ。 じぇいわんノ針路ヲ地上ヘ向ケルノダ。 針路ヲ地上ヘ向ケルノダ・・・」
クルアルの術中に陥り、薄れていく隼人の意識の中で妙子の面影が脳裏をかすめた。
「妙子・・・! 俺はこんな奴の催眠術なんかにゃ負けないぞ! 絶対にお前を守ってみせる!」
気力が術を打ち破り、隼人は思い切りクルアルを蹴飛ばした。 クルアルは頭を壁に打ちつけ爆発する。
その爆発で、無情にも通信回路を破壊され、取り残された隼人に助かる道は何も無くなった。
「妙子、残念だ・・・! 俺が最期にできるのは、お前の命をこうして守ることだけか・・・!」
隼人は自動操縦を手動に戻して、エンジン全開にして、ジェイワンを地球から遠ざけるのだった。
一方、地球上空で待機していたサンライズ号の五郎とグドルフは、ジェイワンから打ち出された脱出カプセルを回収するが隼人はいない。 発見されない。
「隼人、どういうつもりだ・・・?」
事情を知らない五郎には、隼人の現状がわかろう筈もなかった。 ただ隼人の身に重大な危機が起こっている事だけは予感していた。 しかし追いかけようにも燃料が底をついていた。 五郎は遠ざかるジェイワンを見送るしか術がなかった。
地上で隼人の身を案ずる妙子のネックレスがふいに切れて床に落ちた。
「隼人さんにもらったネックレスが・・・あの人の身に何か・・・?」 不吉な予感が彼女の胸を走った。
やがて、ジェイワンは月へ吸い込まれるように落ちていった。
宇宙空間にまばゆい純白の光芒が広がった。 そして次の瞬間、大音量と共に月が木っ端微塵に吹き飛んだ。
地球もグラグラと激しく揺れ続け、飛び散った月のかけらが流星と化して地球上に降り注いだ。
世界各地に大地震が起こり、高層ビルや山は崩れ、都市は火の海と化し、海は荒れ狂った。 そして高さ30mはあろうかと思われる大津波が世界中を襲った。
5時間後、地球はやっと平静を取り戻した。 地球上の各都市の被害は相当なものだった。
突然の天変地異に、全地球上で2億の人々が犠牲になり、地上の都市は無数に荒廃した。
天空に浮かぶ月は消失したものの、太陽は健在であった。 人類は地上の再建を始める。 新しい時代が始まる。 聖書の黙示録に知られるこの世の終わりは去った。 誰もがそう思った。
だが、この事件がこれから始まる人類を襲う未曾有の大異変の発端にすぎないなどとは、この時誰が思ったであろうか? 全ては今、始まったばかりなのである・・・
(序章:破滅への序幕 完)