Yuriの☆こたつ小説

Yuriの☆こたつ小説

紺野くんは高校二年生のちょっと変わった男の子。

彼はある日、交際中のノリコを交通事故で失い、霊能力者の祖母イネの力を借りて、地獄へノリコを助けに行く。

Amebaでブログを始めよう!
「こんにちはー」
 
カラカラと乾いた音をたてながら玄関を開けると、家の奥は薄暗く、夏でもひんやりとしていて、まるで幽霊でも飼っていそうな雰囲気だ。

「なんだ?」  

振り返ると、麦わら帽子に鎌を握りしめた祖母がギラギラふり注ぐ直射日光を浴びながら立っていた。

「あっ、おばあさま」

「なんだお前、服に血がついてるぞ」

祖母は、ぼくの白いシャツを指さした。

「ああ、これなら気にしないで下さい。
 ぼくのじゃありませんから」

ぼくはニコニコしながら、ポンポンと祖母の肩をたたいた。

「だったらよけい気になるわ。誰のだ?」

「え? 今日のお昼は肉じゃが定食でしたよ」

ぼくは、とぼけて言った。

「そうじゃなくて誰の血か言わんか!」  

祖母はますますお怒りモード。

「当てたら教えてあげますよ~」

ぼくは蝶のようにヒラヒラと縁側まで舞って行き、上着を脱ぐと服についた血を庭の水道水で適当に洗い流し、ラブリーなピンクになったところで選択竿に干した。

そして、縁側に座って光合成をしていると、祖母が麦茶と『とらや』の羊羹を二切れ、お盆にのせてもってきた。祖母は甘いものに目がない。

「実は今日、おばあさまに頼みたいことがあって参りました」

ぼくは来る途中、駅前で買ったコージー・コーナーの箱を差し出した。

意表をついて中は煎餅だ。

「ホホホホホ。お前も大学生になって気がきくようになったな。甘いものは大好きじゃ」  

祖母はそう言うと、冷蔵庫に煎餅をしまいに行った。


ぼくと祖母は、朝七時に起きると、黙ってマヨごはん(あったかいご飯の上にマヨネーズをかけ、その上から醤油を少したらしたもの)を食べた。
 
日中、下町に友達のいなかったぼくは毎日一人で隅田川までぶらぶら歩き、バカでかい金色のうんこモニュメントを見て、そのあと区民プールで犬かきの練習をした。オリンピックの競泳に「犬かき」の種目ができたらぼくが日本初のメダリストになることを夢見て。

そして、夕方暗くなる前に家に戻り、風呂を湧かすとちょうど夕飯の時間だ。

「食べている時は食べることに集中する」

を信条にしている祖母は、食事中テレビをつけさせてくれず、仕方なく食べ終わるのを待つこと約一時間。

すでに始まっている連続テレビドラマを中途半端な場面から見て、終わると風呂に入り、九時半には就寝した。

夏が終わる頃、両親はよりを戻し、ぼくは実家に戻った。そして、ぼくの体重は少しだけ増えた。(おそらくマヨごはんのせい)
救急車の代わりに間違って呼んでしまったパトカーにノリコを乗せ、家まで届けてくれるように頼むと、ぼくはその足で祖母の家へと向かった。  

祖母は、ぼくの家から電車で約三十分の所にある東京の下町に住んでいる。

明治時代に建てたその家はかなり年期が入っていて、もうすぐ国指定有形文化財になるのではないかと、ぼくは密かに思っている。

先月、祖母の様子を見に行った母の話によると、家の中はどこもかしこも線香の匂いがたちこめ、柱にかけられたボンボン時計の音は間延びしながら昼間でも薄暗い奥の部屋に吸い込まれているようで「あいかわらず不気味」だったそうだ。

——幼い頃、両親の離婚騒動で夏休みの間、祖母の家にお世話になったことのあるぼくは、その時の空気を今でも覚えている。