今日の目覚めはすこぶる良かった。
少し重たげな目を開くと、朝日がやや遠慮がちに入り込んでくる。
まだ春の暖かさも、どうやら遠慮がちなようで部屋には冬将軍がいたような気配を漂わせている。
そんな感じの体感温度であるので、まだ布団の中から出たくないという感情はもはや本能みたいなものである。
さっきよりも幾分が軽くなった目を開くと、そこには古びたぬいぐるみたちが視界に入る。
僕の眼前には「さかなくん」と命名したさかなのぬいぐるみがちょこんと居座っている。
さかなくんに話しかけてみる。
おはようと。
返事が返ってくる。
おはよう。行かなくていいの?
僕にはぬいぐるみの声が聞こえる。
それを他の人に言うと、頭がおかしいのではないかと思われるかもしれない。
けれども、無機質なものの声を聞くには少しバグが生じていなければならない。
というか、無機質なものから有機質なものに変えることにも頭がどこか他の人とは違わなければなし得ない。
幾多の僕の危機をこのぬいぐるみたちと乗り越えてきた。
僕の喜びに際してもこのぬいぐるみたちと祝杯を上げてきた。
私の1番の理解者でもあり、兄弟でもあり、神でもある。
僕は無機質なものに命を宿し、自らの存在を保ってきた。
もう一度さかなくんが声を掛けてきた。
ねぇねぇ、行かなくていいの?
そこで微睡から覚めた。
重かった体に緊張が走った。
目を擦って見えた視界の先のぬいぐるみたちは、無機質なものに戻っていた。
僕は急いで携帯を見る。
LINEで謝罪をする。
歯を磨く。
髪をセットする。
服装を整える。
用意をして、ぬいぐるみたちにいってきますと言う。
ぬいぐるみたちは再び命を宿す。
僕に微笑んで、いってらっしゃいと語りかける。
これが私の生きるをする。