美冬の瞳に映っているのは、”今”という、ただ、刹那的に拘束された時間だけだった。
それが何故なのか理解することは、きっと誰にも出来ないだろう。
僕は、ご飯を急いで食べた。
「ごちそうさま。」
彼女は少しだけ笑ってくれた。
「早いわねぇ、もう食べちゃったの?」
僕はスーツに着替えながら、彼女に微笑み返した。
「美味しかったよ。」
スーツに着替え玄関口まで行くと、彼女は、ご飯を食べるのを途中でやめ、玄関まで見送りに来てくれた。
僕は真剣な眼差しで美冬を見つめた。どこにも行って欲しくなかった。
それでも強いことが言えない・・・・・。
何気なく彼女に尋ねた。
「今日はどこかに行くのかい?」
彼女は、いつものように僕の胸元に視線を落として、こう言った。
「うぅん、どこに行かない。でも、夕食の買い物に行ってくるわ。」
「そう・・・・・・・。」
「ねぇ?何か食べたいものある?」
美冬は慌てたように、僕にそう尋ねた。
僕はゆっくりと答えた。
「えっとね、じゃあ、ゴージャスにステーキっていうのはどうだい?」
僕の口調は寂しさに怯えて、しどろもどろだ。