「あなたと出会ってからの私って、初めて東京に出てきた頃の自分と比べると、随分変わったわ。私は自分の生活のために一生懸命だったの。・・・・・そうね、それだけは今でも変わらないわね。でもね、私は一生懸命に人を好きになって、一生懸命幸せになろうとしたのに、どんどんと自分を見失っていったの・・・・・。大切なものが何だったのかすら、もう今の私には、わからないわ。剛造さんと出会ってから、それがわからなくなったのよ。お金なんかじゃなかったと思うわ。色々な物を買ってもらって、色々なところに連れて行ってもらったけど、でも、結局、そんなことじゃ、安らぎは得られなかったの。彼には家庭もあったし・・・・・そうよ、やっぱり馬鹿なのは私の方よ。ケンちゃんのことも傷つけちゃって・・・・・。もう私って救いようがないわね。」

彼女は泣き出した。


僕は彼女の言葉に傷付きながら、彼女の涙の中に僕の愛を感じていた。


「それからね・・・・・。」

僕は美冬が話を続けようとするのを、そこでやめさせようとした。

「もう、いいよ。」

「いいの。お願いだから、最後まで話させて。」

美冬は涙を拭いながら、また静かに話を続けた。


「色々な事がありすぎたのね。やっぱり、そんなにたくさんのことを、いっぺんに抱えられるものではないわ。」

彼女は、そこで話を止め、また遠い瞳を窓の方へ向けていた。きっとたくさんの思い出の中から本当の自分を探し出そうとしているのだろう・・・・・・・。


そして中途半端に話はそこで途切れたままになった。僕は彼女の瞳の行方を探ってみた。

けれど、彼女は、もう心を閉ざしたままだった。

僕は彼女にかける言葉を失った。

二人とも無言のまま時の過ぎてゆく早さだけを感じていた。










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