美冬は服を整えると、そそくさ玄関に行きハイヒールに足を通した。僕は彼女を止める元気さえなくしていた。
「じゃあ、また電話するわね。」
美冬は少しだけ僕の方に振り返り、潤んだ瞳をわずかに僕に向けただけで部屋から出て行った。
僕は彼女を玄関まで送ることもしなかった。ケンの言っていたように、美冬も、また、あの剛造の前の愛人で芸能人の女性と一緒なのだろうか・・・・・・・?多分一緒なんだろう。きっと、電話もかかってこないかもしれないな。そして、これが、彼女との最後になるならば、それでもいいのかもしれない。
彼女の自由な生き方を止める資格なんて、今の僕には何一つないんだから。だって彼女を愛しているからという、それだけの理由がいったい何になるというんだ?だって、彼女がそんな理由だけで僕を受け止めるはずがないじゃないか。そんな理由で僕を受け止めるならば、剛造に対して同じだろう。
僕には、お金もなければ、地位もない。何ひとつとっても剛造にかなうわけもない。美冬も心のどこかで僕と剛造敵うわけもない。実冬も心の何処かで、僕と剛造を、そんな風に比較しているんだろう。
それから一週間の間、美冬からも、ケンからの連絡もなかった。僕の周りで時間はとめどなく流れ、そして意味を失くしている。僕の方から何度か電話してみたが、いつも留守番電話になっていたので、僕は何もメッセージを残さぬまま電話を切った。
いたたまれない思いで毎日を過ごした。彼女の”いい友達でいましょう”という言葉だけが僕の頭にこびりついていた。そして、気持ちを整理しようとする思考全て破壊していった。
”いい友達っていったい何のことなんだ?”剛造に隠れて、こそこそと会うことなのか?そういう関係のことなのか?そして、僕は彼女に何を求めているんだ・・・・・?いつも一緒に暮らしてゆくようなことを考えているのだろうか?
そしたら、僕は彼女に何を与えてあげらるというのだろう?・・・・・馬鹿馬鹿しい・・・・・。
僕には諦めることぐらいしか何も残されていないんだ。