「あの人には、もう別の恋人がいるみたいなの。何だか話し方も妙によそよそしいし、私がお風呂に入っている時に、別の女の人のところに電話してたんだもの。それになんだか頭にくるようなことばかり言うし・・・・・。それが全部、私のせいだって言うのよ。何でなの?だからね、私も言ったの。前から考えていたんだけどね、”もう別れましょう”って。そしたらまた怒り出して。やってられなかったのよ。どうしようかしら・・・・・・。」

彼女は鏡の前で乱れた髪をバレッタで束ねながら夢中になってしゃべりたてた。


「僕と君のことは気付いているのかい?」

「わからないわ・・・・・。多分、気付いてると思うけど、たいしたことだとは思ってないみたい。裕行さん、あなた、ケンちゃんに何て話したの?」

彼女は鋭い視線で僕を見つめた。

例え、酔っていたからとはいえ、別れるつもりだと言ったとは答えられなかった。

「えっ?君のことは何も話さなかったよ。ただ、ケンの親父さんのことを色々と聞いたんだよ。」

「そしたら何て言ったの?」

美冬が口調をこんなに荒げているのは初めてのことだ。


「ケンちゃんたら酷いのよ。私の周りの友達に私の悪口を言い回っているらしいの。」

「・・・・・友達っていうと・・・・・誰の事?」

「えっ?だから剛造さんの知り合いの人とかにね、私が剛造さんからお金を持ち逃げしようとしているんだとか言ってるらしいのよ。酷すぎるわ。」

彼女は涙ぐんでいた。


何故かしら彼女はいつも涙ぐんでいるように思えた。それとも人の暮らしなどに涙に明け暮れるものなのか・・・・・。僕は慰めるように話を聞いてみた。










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