本日は『蛍兵部卿宮(ほたるひょうぶきょうのみや)』をご紹介しましょう。
この宮は源氏の弟、桐壷帝の第三皇子と思われます。
兄弟の中ではもっとも源氏と親しく、ことあるごとに登場します。
もちろんそのご風采も美男であられますが、この宮は当代一の風流人として描写されています。
管弦に秀で、絵や香に造詣の深い教養高い貴公子です。
源氏の信頼もあついので、明石の姫が成人なさる折には香合わせの判者を任されました。
宮の北の方は右大臣の姫、弘徽殿女御の妹君でしたが、若くして亡くなってしまいます。
以来宮は独身を通してきました。
身分ある方なのでいつまでも独りというのは体裁が悪く、新しい北の方を迎えようという時に、源氏の元に姫がいるという噂を聞きます。
名を「玉鬘の君」という素晴らしい美女だということでした。
文を交わしているうちになかなか教養も高い姫で、手跡もやわらかでいられる、宮の恋心は燃え上がっていきます。
御簾越しにでも姫と話がしたい、ととある夏の夜源氏の招きで六条邸を訪れます。
まさか源氏が悪戯をしかけているなど露とも知らずに・・・。
源氏は昼間のうちに蛍をたくさん集めさせて御簾の内に隠しておきました。
そして宮がやってくると不意に蛍を放ったのです。
驚く玉鬘の美しい横顔が御簾の内から垣間見られ、宮はそのあまりの美しさに言葉を失います。
それからは魂が抜けたように玉鬘の姫のことばかりを考えてしまいます。
季節の挨拶など文のやりとりを重ね、どうにかこの姫を娶りたいと思い続ける宮でしたが、どうやら冷泉帝に入内するという話も出ているようで、人知れず心を痛められていました。
こうして見ていると、源氏はこの宮を女たらしのように言っていましたが、なかなか行動に出られるタイプではないのかと思われます。
思い悩むうちに髭黒の右大将が玉鬘を妻にしたという話が聞こえてきました。
宮は落胆されて、玉鬘に別れの文を送りましたが、人知れず大きな疵となったのでしょうか。
北の方にと髭黒の右大将の娘(真木柱)を妻としましたが、その結婚生活は幸せなものではなかったようです。