「ワシは囚われた家族を取り戻そうと、国の為に…いや、国王ヴァルトナーの為に仲間の研究員と共に殺人兵器を創り出す事に没頭した。戦争で人が生きようが死のうが関係無かった。」
「まさか…」その場で唯一の女が話しに割って入ってきた。「ラルグストの奇才と言われた科学研究員の一人、グレス博士か?」
「…ほーぅ。」そう言って白髭をさすりながら目を細めた。「若いのにワシを知っているとはなかなか感心なお嬢さんだな。」
「あなたの顔に見覚えがあると思ったけど思い出したわ。昔見たラルグスト大戦の資料にあなたが載っていた。他の研究員と共に。だけどなぜ?処刑されたはずでは…」
その言葉にグレスの顔色が急変した。
「あぁ、その通りだ!」
そう強く言葉を発すると、グレスは思わず感情的になった自分に少し驚いた表情を見せた。そして次々に勢いよく出そうになる言葉を呑み込むと、少しの間を空け、言葉を選びながら淡々と話を続けた。
「その通り…なのだが、ちょっとだけ違うな。やはりおぬし達も世界政府に騙されてきたか。」
「どういうこと?」
「十三年…。五十万人を超える死者を出した長きに渡る戦いの末に、ラルグストは連合軍に圧倒的な力の差で負けた。」グレスは女に問いかけるように言った。
「そうね。」
「だが、ワシは喜んだ。戦争は終わり囚われていた家族と平和に暮らせると思っていたからだ。その時までは…。」
「その時までは?」女が輪唱するように聞いた。
「あぁ…。程なくすると、人間達は戦争の責任の擦り合いを始めたのだ。当然、殺人兵器を作り出していたワシ達研究員にもその罪が降りかかってきた。大罪が…な。ワシ達は事情を説明し、無罪を主張したのだがそんなもの通る訳も無く、人間達は自分達だけの正義を正当化してワシ達に死刑の宣告をしたのだ。お嬢さんの言う通りワシは処刑される事となった。…人の想いなど儚いものだ。」
その場に居る人間は皆、耳をソバ立てて居るが、ライドを初めとする三体のデュール達はつまらなそうにしている。まるで興味がないようだ。仕掛けてくる様子は無いが、レオ達は気を抜かず注意を払い続けていた。
グレスの話は続いている。
「…犯した罪に苛まれ、これが運命だと言い聞かせて、家族の幸せを願い、ワシは罪を受け入れた。そして、これで全ての争いが終わると思っていた。だが…人間は何処までもワシを裏切り続けた。ワシへの極刑に飽き足らず、罪を無理矢理に家族にまで着せると、それがまるで当然のように、公開処刑したのだ。これから地獄へ行こうというワシの目の前でだ!」
グレスは拳を強く握り締めた。
「それは自分が死ぬ事よりも辛かった…。」
ライドは終わらない話に苛立ち始め、体躯の細いデュールはグレスの後ろの方でケラケラ笑いながら死んだ人間を弄んでいた。
「民衆はと言うと、まるで祭りのように喜び楽しんでいた。それを目の当たりにしたワシは狂乱し、精神は崩壊した。その時だよ、世界中の人間を殺してやろうと思ったのは。」グレスは憎悪を露にし、レオを睨みつけて言った。
「簡単ではなかったがワシはすぐに脱獄し、誰も知らない所へと身を潜めた。光の届かない場所へ。しかし、世界の政府の人間共はワシが逃げたことを一切公表しなかった。」
「何ですって?じゃあ、その時の処刑はいったい…」
「恐らく政府は力を見せ付け、威信を誇示したかったのだろう。ワシは絶対なる悪とされていたからな。逃げられたとなると、大規模な騒ぎとなり、混乱が起きる可能性もあった。それを避けるために政府の人間共は、代わりの犯罪者をワシに仕立てあげると、見せしめの処刑を執行した。そして、その後で私を密かに追い続けていたのだ。」
「そんなまさか?」
「そのまさかだよ。お嬢さんは大戦の資料でワシの顔を見た事があるのだろう?この右目の傷を。これが現実だ。」
女は出てこない言葉を捜した。それは世界政府に、人間に対する疑念の表れであったことは間違いなかった。
「…あれからちょうど二十五年。人間は過去の事を忘れたかのように自分達だけ平和に生きていた。これから地獄となる事を知らずに。」
グレスの話は半信半疑だが、小さな疑念は人間達の信念を僅かに揺るがした。心の中には小さいが戦いに対する疑心が生まれていた。今、この場所に居る意味とは…と。
「他にも逃げ出した仲間がいてな、ワシ等は光を閉ざした空白の二十五年で新しい生命を創り出した。」グレスは左手を広げ、右手を胸に当てた。「それがこいつ等だ。ワシも含めてな。こいつ等は人間よりも正直だ。奪いたい時は奪い、殺したい時は殺す。殺るか、殺られるかだ。分かりやすいだろ?」
レオは抱いた疑念を振り払うようにグレスの馬鹿げた理論に声を荒げた。
「何が正直だ?ふざけるな!」
「ふざけるな?人間も同じではないのか?上辺だけの優しさに隠されているのは欲だけではないか。食、愛、支配、強奪、復讐、憎悪、殺戮。全てが欲ではないか!愛だ、恋だ、友情だと抜かすが欲こそが人間の本質だ!」
「違う!そんなものお前が勝手に作り上げた虚像でしかない!人間には、お前等には無い心がある!」
「その人間の心がワシ等を生み出したのだがな…。そうか。では聞こうではないか。お前が暖かな人間の心を持っているのなら今のワシを救ってくれるのか?」
―風が流れている。ただ静かに。
「…今のお前など、もう救う価値など無い!」
グレスは思わず空を見上げて笑った。
「笑わせてくれる。所詮、言葉など全てが偽りだ。」
その言葉の直後、レオの後ろの影が静かに動いた。それまで黙って聞いていたサーベルを持った男がほんの一瞬、熱くなっているレオを宥めるように視線を送ると、話し始めた。
「随分と無駄な人生を送ってきたようだな。黙って聞いていれば非力な己を熱く語ってくれるじゃねえか。それで?嘆きのストーリーはもう終わりか?」