天使が色を塗ってくれました。

次に天使のもとを訪れた時、天使は幸せに暮らしていました。


 高校2年生の私は世界が狭く冴えない男だった。埼玉の田舎にある公立高校の教室には冷房が無く、小さな扇風機が1つしかない。7月の猛暑日にこの教室が涼しくなるわけがない。田舎の公立高校は貧乏だと考えなごらバテていた。授業が終わり休み時間になった瞬間机に打ち上げられた海藻のようにもたれかかっていた。ひんやりとした机が私のほっぺを冷ましてくれる。次の授業までこうしていようと決めたところで邪魔が入った。

「今日だけナゲットが100円で食えるから、学校終わったらマックな」

後ろの席からいきなり話しかけられるのは、いつもの事でおどろかなかった。私は海藻のまま斜め後ろの及川に返事をした。

「読みたい本があるから家帰る。夏目誘って行ってきなよ」

本を読むのが唯一の趣味である事は、及川も知っているのでこれで引くと思っていたが、ナゲットのうまさを分かち合いたい彼はいつもと一味違かった。

「夏目は行くに決まってるだろ、お前は見学でも良いから来いよ。」

及川大和は長身細身で、運動が得意な典型的な漫画の主役のような男だった。なので、私とは対照的に女子からの人気は良く、彼女がいるにもかかわらず後輩からよく告白されているのも目撃している。彼に遊びを誘われて断るのは私か夏目ぐらいだろ。

いつもと一味違う彼の誘いを断るため、同じ理由で真剣な顔して彼の目を見て言った。

「今日は無理だよ、続きが気になってるから早く帰って"落ち着いて"読みたいんだ。」

そう言い放って私は及川の返事を待たずに、元の体制に戻った。

少し間が空き、彼は少し高めのトーンでからかうように言った。

「こんなチャンスあんまり無いけどなぁ。じゃあ柚希ちゃん一緒にナゲット食べ行く?」

及川の前の席に座っていて、私の隣の席である神渡柚希にふざけて話しかけられるのは、彼ぐらいしかできないと思った。彼女は、私の理想であり高嶺の花である。黒いロングの髪でぱっつんがよく似合う。背が低く華奢で透き通るような白い肌、悪者を善者に変えてしまう綺麗な瞳の持ち主だ。クールそうな彼女は動物に例えるならお金持ちが飼っていそうな猫のようである。しかし、クール雰囲気の反面、笑顔が素敵でよく笑う子だった。そんな彼女が行くなら当然私は本なんて読まず、及川の誘いに乗るであろう。だが、及川に全く興味がない彼女の答えは決まっている。

「え?なに急にびっくりした~。あはは」

後ろから話しかけられるのに慣れていない彼女はびっくりしたことを理由に及川の誘いを華麗にかわした。彼女は次の授業の準備を始め、及川は私に近づき私にも聞こえるか聞こえないかぐらいの声で

「柚希ちゃんが来ればお前も来たのになぁ」と言い、悪者の顔をしてにやけていた。プライベートで遊んだ事のない彼女を誘っといてこいつは何を言っているんだ。及川は、私が彼女に対する気持ちを知っていて、からかう為に彼女を利用したのだ。しかし、ここで及川の挑発に乗ると、彼女に気持ちがバレてしまう恐れがあるのでそれについては何も言わず、彼を睨みつけその場を収めた。

チャイムがなり、現代文が始まった。先生が教科書を読み、黒板に書いたことを板書する簡単な授業だったので、バテている私にはちょうどよかった。窓際の席で風に当たりながら綺麗な字で丁寧に板書している彼女に目がいっていた。夏服で白いブラウスを着ていたからではなく、彼女は本当に真っ白で美しい。私は彼女をただ眺めていることが幸せだった。授業が終わり、肘を机に着き、顔を手に乗せ一息ついた時に私の妄想を変える出来事が起きた。肘が滑り、顔が机に落ちる寸前になんとか耐え、そのままゆっくり頬っぺたを机につけた。鼻から息を抜き一息ついだところで、横でクスクス笑っている彼女に気づいた。私は恥ずかしくなり照れ隠しで彼女に焦りながら質問をした。

「たまにこういうのあるよね。神渡はいつも笑ってるけど悩みとか無いの?」

彼女は少し考え、閃いたような顔をした。椅子をずらし私に近づいた。自分心臓の音が周りに聞こえているのではないかと思った。。彼女の顔を見る事ができず、下を向いた私に、周りには聞こえない声で彼女は質問を返した。

「うーん、森田はさ、あー、森田じゃなくて男の人って彼女に精子飲んで欲しいって思うの?」

時間が止まった感覚を久々に味わった。彼女が何を言ってるのかをすぐに理解できたからこそ、私は完全にフリーズしていた。しかし、ずっと喋らないわけにも行かないので、何事もなったかのように、尚且つ、本心で彼女に応えた。

「相手が望まないことは求めないかな、自分がしてほしいことが相手のしたい事なら喜ぶけど。そうじゃないなら俺はしてもらっても嬉しくないよ。」

彼女はうつむき、少し口を尖らせながら話した。

「そうなんだ、じゃあうちは相手が喜ぶことならできるから苦じゃないかも」

彼女の言葉からして、嫌だけどお願いされてやっていると読み取れた。しかし、彼女が苦ではないと思ったのならそのことを追求するのは良くないと思い、話題を変えようとした。しかし、質問インパクトが強すぎでどうしても恋人とのことが気になってしまった。

「神渡って、いつから彼氏いるの?」

聴きたくないことを質問してしまった。ただ眺めてるだけでよかったのに。いつもならこう考えるだろうが、今の私には冷静に自分の行動を理解することができなかった。彼女は少し目を上にやり、少し椅子を自分の席に戻しながら口を開いた。

「えーっと、二ヶ月前だよ。」

「そうなんだ、この学校の人?」

「ううん、秋口山高校だよ。」

「じゃあ隣だし割と会える感じなのか、いいね」

自分が何を言っているのかここで理解できた。

「うーん、でも」と言いかけたところで、彼女の親友の本間美桜がきた。

「ゆず~、トイレ行こ」

「あ、いいよ、行こっか。」

彼女は私を見て微笑み本間と行ってしまった。1人になり、冷静さを取り戻しながらじわじわ暑くなる。

悲しみより驚きが勝っている。彼女に恋人がいることよりも、彼女がしてきた質問だ。気があったり、良いと思う異性には絶対にしない質問である。彼女の中に、私が一欠片も無かった事がとてもショックだった。分かっていた事が明らかになると、苦しくまるで押しつぶされるかのように感じたのは久々である。私は上手く生きてきたと思っている。辛いことや怖いことから逃げてきたから、こういう経験があまりなかった。あの時、肘を滑らせていなかったらこんな想いはしなかった、もっと冷静に落ち着いて彼女と話していれば、と悔やんでいる私に及川が後ろの席からペンで突いてきた。

「声が小さくて聞こえなかったんだけど、柚希ちゃんと何話してたの?」

彼の方を振り返り、前のめりになっている及川に彼女との会話を話した。

「まじで?柚希ちゃんの口から出る言葉とは思えないわ。凄いなそれ」

及川は私とは反対にすごく驚いていたが、すぐに私のことを気遣い話を聞く体制に戻った。私も取り乱していたので話を聞いて欲しかったが、彼女が小声で話して来たことを思い出し、あまり人に知られたくないことだと悟った。だから、ここで及川と話している最中に彼女が帰って来たら、私が彼女との会話をバラしていると思われるので及川へ今相談するのはやめることにした。

「この話はまた後で。」

相手の気持ちを理解できる及川は何も追求することなく元の体制になり次の授業の準備を始めた。それを見た私は前を向き、海藻になった。4限の授業はさっきの会話で頭がいっぱいなので授業の内容が頭に入らない。いつもなら彼女の方へ目が自然と行くのだが、その時間は彼女の事を見る事はなかった。

昼休みになり、中庭で及川と夏目と3人でお弁当を食べていた。

「さっき、やばい事があったんだぜ。お前でもびびるぞ。」

及川が宝くじが当たったかのような顔で夏目に話し出した。

「うちのクラスの神渡いるじゃん?今日優人と神渡が話してたんだけど、それがまたとんでもねーの!」

さっきの気遣いはどこへ行ったと思うくらいのテンションで彼が話し出した時は思わず笑いそうになった。しかし、彼は夏目も会話に混ぜようと思い、話し出したのだとすぐに気づいた。夏目は話を勿体ぶらされ、少しイラついたように応えた。

「なんだよ、もったいぶらないで早く話せ。」

及川が私から聞いた話を、夏目にそのまま話た。夏目は冷静で頭が良く、正直者だからこそ私を見て言い放ったのだろう。

「女子高生の大半がふらふらしてんだから、そんぐらい普通じゃね?可愛いからって純白って想像してるお前らの方がおかしいだろ」

正論なのか分からないが、彼が言うと正しく聞こえてしまう。口がとても上手く、頭の回転が早い夏目と言い争いをする気には、及川はなれなかっただろうし、私はそれ以前に、彼女の事で気持ちが沈んでいて言い返す事も考えていなかった。夏目には前にもこういうことを言われた覚えがある。私と及川が将来について話していたら、携帯をいじっていた夏目はそのままの体制で私たちに「偏差値の低い学校に通ってる俺らが、夢を語る資格ないだろ。夢を語れるのはずっと勉強を頑張って来たやつだけだよ。」と、既に世界のルールを分かっているかのように告げた。夏目は高校受験を失敗して、私達のような頭の悪い者でも入れるような学校に来たことにより、希望を失っていたのだと思う。昔から勉強が得意で、テスト前になると私達を助けてくれていた。そんな彼の優しい一面が私達の友情に繋がっている。そんな事を考えていたら、夏目は箸を置き私を見て話しはじめた。

「大体世の中の可愛い子には彼氏がいて、そういう子の彼氏はかっこいいんだよ。それに森田は神渡さんにそんな事言われたなら、もうお前は諦めた方がいいと思うよ」

私は、何も考えずに夏目に合わせるように応えた。

「うーん、やっぱりそうだよなぁ。普通に考えて諦める以外ないもんなぁ。てか、諦める以前になんも始まってないんだけどね。」

自分で言葉にしてみるとよく分かる。


終わり方は決まっています。ここまでしかまだ書けていません。

どうせ誰も見ないと思うけど、何となく世界に発信したくなりました。