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今回は前回の投稿に続いて、日本救急医学会が発表した熱中症診療ガイドライン2015の【診断】の章をアスレティックトレーナーの視点から読み解いていきたいと思います。

【診断】
・熱中症の診断基準はどのようなものか?

日本救急医学会のガイドラインでは熱失神・熱痙攣・熱疲労・熱射病を一連のスペクトラムとしてとらえ、全てを合わせて熱中症と捉えている部分に特徴があります。ちなみにアメリカのスポーツ医学(とくに労作性のものを考えた時)においては、熱中症を一連のスペクトラムとしては捉えずに、それぞれの病理学は独立したものとして捉えられています(例えば熱射病になる前には熱疲労を伴うという考えはありません)。具体的な定義・病理学の例を挙げるとするならば、熱失神は脱水や起立性低血圧に起因するもの、熱痙攣は脱水、筋疲労、電解質の喪失に起因するもの、熱疲労は運動より生じた高体温の負荷により運動を自主的に継続することが不可能な状態、そして熱射病は高体温(深部体温40℃以上)に伴って中枢神経系に異常を来たしている状態(例:意識喪失・人格の変化・健忘)を指します。
また本ガイドラインでは前述した症候群(熱中症スペクトラム)の重症度が3段階に区分されています(日本救急医学会熱中症分類)。
「日本救急医学会熱中症分類」

この図で注目したいのは、やはりI度がII度なりIII度に発展するという熱中症スペクトラムのコンセプトを強く反映している点です。この重症度分けの区分は病院に搬送された後の患者の重症度を鑑別するためには便利だと思いますが、現場で働くアスレティックトレーナーであればそもそもIII度の状態を防ぐこと、また、II度の対応において「すぐに病院に搬送」するのではなく まずは直ちに現場で冷却を行い、深部体温が40℃以上である時間をできるだけ短くすることに努めることが命を救うための第一歩であることを知っておかなければなりません。冷却方法の比較や応急処置に関しては次回の【治療】で詳しくまとめたいと思います。


・熱中症の重症度はどのように判定するか?

ここでは前述した3区分の重症度が以下のようにまとめられています。
I度:現場にて対処可能な病態(熱失神や熱痙攣)
II度:速やかに医療期間への受診が必要な病態(熱疲労)
III度:採血、医療者による判断により入院(場合により集中治療)が必要な病態(熱射病)

アスレティックトレーナー(現場で熱射病の応急処置に携わる者)としてここで注意したいのは、前の項目でも書いたように「すぐに病院に搬送」ではなく現場で応急処置をすることが良好な予後につながるということを知り、適切な応急処置をするための準備をすることです。本ガイドラインは救急搬送された症例データをもとに救急医療の視点から書かれているため、アスレティックトレーナーと視点が異なる部分があるのは仕方がないのですが、病院で重症度を判定する前に現場で病態の鑑別(直腸温の測定)を行い迅速な冷却を現場の初期対応では必ず行われなければいけません。

英語(TedEd)のビデオではありますが、以下のリンクから労作性熱射病の対応においてなぜ冷却を優先しなければいけないのかをまとめた4分間のアニメーションがあります。興味のある人は是非見てみてください。ちなみにこのビデオは私が所属している研究所が監修したもので、私のアドバイザーの実体験も含まれています。
http://ed.ted.com/lessons/what-happens-when-you-get-heat-stroke-douglas-j-casa
先日、日本救急医学会より熱中症診療ガイドライン2015が発表されました。日本救急医学会は以前から熱中症に関する委員会を設立しており、日本国内の熱中症データ(主に救急病院データなど)をまとめたHeatstroke STUDYも発表してしています。2015年のガイドラインは【疫学】【診断】【治療】【予後】の4部構成になっており、それぞれQ&A形式でトピック(Q)とそれに対するエビデンス(A)がまとめられています。

今回はアスレティックトレーナーの視点からこのガイドラインの【疫学】の部分を読み解いてみようと思います。

【疫学】
・本邦における熱中症の発生頻度はどのくらいか

本ガイドラインには病院の診療報酬明細のデータがまとめられており、その背景もあってか全体の45%が65歳以上のデータでした。おそらくこのほとんどは労作性の熱中症ではなく非労作性であると推測します。日本では「熱中症弱者」とされる高齢者が増えていることもあり、非労作性の熱中症の把握とそれを予防するための対策に努めることは国民の健康、公衆衛生においてとても重要です。一方で、日本におけるスポーツ活動や労働による労作性熱中症の数はHeatstroke STUDYをみる限りは非労作性よりも圧倒的に少なく、来院時の重症度も非労作性よりもIII度(=熱射病)が少ないのだそうです。ここで注意しなければならないのは、(1)そもそも本ガイドラインは病院の診療報酬明細のデータ=来院者のデータがもとになっているため実際の熱中症発生数とは異なる可能性があるということ、また、(2)労作性の熱中症が多く見受けられる若い世代の人々は重症(または病院搬送)に至る前に運動を止めたり何らかの処置(休憩、水分補給、冷却)を自ら施すことができる(あるいは周りの人がそれを施してくれる環境にいることが多い)ため、実際の発生頻度はこのデータが捉えているよりもずっと多い可能性があります。

・どのような人が熱中症にかかりやすいか
ひとつ前の項目で日本における熱中症搬送例の多くが高齢者の非労作性によるものであることがわかった通り、「熱中症にかかりやすい人」の特徴もこのガイドラインには主に非労作性熱中症に見受けられる特徴がまとめられていました。個人的には国内における労作性熱中症データ(発生要因)が気になるところですが、そもそも日本救急医学会が指す労作性熱中症「III度」(=熱射病)に区分されるような事態は現場で迅速にcold water immersion(アイスバス)が使用されればまず防げる事態であるため、やはり病院搬送先がデータ集計のポイントになっている以上、データ収集に限界があるのも事実です。また、言い方を変えてみれば病院搬送に至ってしまったケースは初期対応になんらかの問題があったと言っても過言ではないでしょう。これについては【診断】と【治療】の部分で詳しく書いていきたいと思います。
ちなみに労作性熱中症には以下のような内因性と外因性の要因が存在します。
内因性:
・暑熱順化できていない
・体力不足
・睡眠不足
・体調不良
・脱水

外因性:
・用具や服装
・外気温
・不十分な休憩時間
・不十分な施設(水分補給する場がない、直射日光を浴びずに休憩できる場所がない)

・熱中症の発生に関係する気象条件にはどのようなものがあるか
まず、皆さんに知っていただきたいのは日本の気象観測はとても優れているということ。余談にはなりますが、島国で常に気候や自然環境を気にしながら生活をしてきた民族性からか、日本人は天気に対してとても敏感です。私もアメリカで暮らすようになってから初めて気がつきましたが、日本は天気予報が豊富。気象情報だけでなく、季節ごとに様々な「⚪︎⚪︎予報」(花粉、洗濯物、UV線、黄砂など)がありますよね。そして毎年夏になると現れるのが「暑さ指数」。日本の天気予報で報道されている暑さ指数は、Wet Bulb Globe Temperature (WBGT:湿球黒球温度)という気温、湿度、風、日射、輻射のすべてを考慮した指標が使用されており、この実況推定値はアメリカでは普通に手に入りません。そのためアメリカでは温度と湿度の数値から算出するHeat Indexが使用されていることが多いですが、この数値は直射日光による輻射熱を無視してしまっているため、屋外の暑熱ストレスを定量化するには適切ではありません。
過去のデータからは暑さ指数が28℃(推定外気温は31℃)を超えると熱中症のリスクが高まるとされており、暑さ指数31℃(推定が気温は35度)を超えると搬送者が大量発生するということもわかっています。これらの指標は暑熱環境下でスポーツ活動や労働をする人にとって、暑熱環境に応じた活動時間や休憩時間の頻度や長さ調節を判断する一種の基準となります。
また、厳密にいうならば練習しているグランドに気象観測地がない限り、天気予報で報道される数値が各々の活動現場を反映しているとは言えません。もっとも理想的なのは各スポーツ現場が独自でWBGTを測定できるようにポータブルの機材を用意しておくことです。WBGTがそもそも公共の天気予報であまり使われていないアメリカでは、ポータブルのWBGT測定機を購入し、現場で暑熱ストレスをモニターして安全配備に努めていることが多いです。アメリカ労働安全衛生局やジョージア州高校スポーツ協会は実際にWBGTを使用した活動目安を作成しており、National Athletic Trainers' AssociationやAmerican College of Sports MedicineもWBGTの使用を推奨しています。

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次回は【診断】の部分を自分なりにアスレティックトレーナーの目線から検討していきたいと思います。

CSSS


3月26日と27日にニューヨークにあるNFL Headquartersで、第一 回Collaborative Solutions for Safety in Sport (CSSS)が開催されました。このミーティングには全州から高校スポーツ連盟(State High School Athletics Association)の代表者あるいはスポーツ医学委員会(Sports Medicine Advisory Committee)の代表者が集い、高校スポーツの安全およびスポーツ関連突然死の予防に向けてそれぞれの州ができることは何かを話し合うことを目標に開催されました。

私はKorey Stringer Institute(KSI)の一員としてCSSSの計画から当日の運営まで携わることができました。このミーティングの構想はKSIから始まりましたが、全州の代表者を一つの部屋に招いて会議をするというこの前代未聞のアイディアはNational Athletic Trainers' Associaton (NATA)とAmerican Medical Society for Sports Medicine (AMSSM)のサポートなしには
実現することはできませんでした。しかもこのミーティングを一過性のものにさせないために、まずは3年続けるという前提の元で立てられているこの計画は、我々がユーススポーツの安全・医療基準を変えていくというビジョンに対してどれだけ真剣で本気であるかが分かると思います。このミーティングを実現することができたのは、タイトル通りアスレティックトレーナーとスポーツドクターが同じビジョンに向けてCollaborative=協力的に力を合わせた結果なのです。

第一回目のミーティングでは、ユースにおいて死亡例および後遺症を伴う例が最も多い3つのコンディション:①熱射病 、②心臓疾患、③頭部外傷と、④Emergency Action Planについて取り上げました。

熱射病はKSIのCOOでもあり、私のアドバイザーでもあるDr. Douglas Casa、心臓疾患はワシントン大学およびNFLシアトルシーホークスでチームドクターを務めるDr. Jonathan Drezner、頭部外傷はUNC Chapel Hillで教授を務め、Matthew Gfeller Research Centerの所長も務めるDr. Kevin Guskiewcz, そしてEmergency Action PlanはUniversity of Georgiaでアスレティックディレクターを務めるRon Courson氏によってプレゼンテーションが行われました。発表では各トピックに関する現状と提言がまとめられ、まずは参加者らに①なぜ改善する必要があるのか、②何を目指せばいいのか、ゴールは何なのか、そして③どうすればそのゴールにたどり着けるのか、を考えてもらうきっかけづくりを意識しました。各専門家の発表の後には、実際にガイドラインや法律の改善に現在取り組んでいる、あるいはそのプロセスを終えた州の代表者らが、その取り組みを通して学んだ障害や、改善を
よりスムーズに進めるためのヒントを発表し、他の参加者らと彼らの経験を共有する時間が設けられました。さらにその後にはQ&A形式でディスカッションを行う時間が設けられ、成功例や失敗例を踏まえた上での意見交換が参加者全員によって繰り広げられました。

このミーティングから生まれたディスカッションはどれも前向きで、まだ全く安全体制が整っていない州が積極的に「何から始めたらいいだろう?」「どのような工夫を自分の州はしたらいいだろう?」と声に出しながら他の参加者らと一緒に考えている様子はとても印象的でした。

他にもゲストスピーカーとしてNCAAのメディカルディレクターを務めるDr. Brian Hainline やNATAおよびAMSSMの会長および次期会長も参加し、CSSSはアメリカのユーススポーツセーフティにおいて歴史的な2日間になったといっても過言ではないと思います。今回のミーティングをきっかけに専門家と現場(州の代表者)がさらに繋がったため、我々の教育・啓蒙活動のリーチもより一層広がった手応えがあります。これからまたいくつの州と一緒に活動することができるか、また来年度のミーティングではどのような更新が各州からあるか、今からとても楽しみです。

CSSSに参加した代表者らには、それぞれが州法を改善する上で達成しなければならない点をまとめたチェックリストと、それを作成するにあたって必要な資料(参考資料として使うべき研究論文や統計データ)をまとめた冊子が配布されました。参考資料のリンクやpdfは
www.SolutionsForAthleteCare.orgにもまとめられているので興味のある方は是非チェックしてみて下さい。

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