(ナショナルジオグラフィック 公式日本語サイト)
カリフォルニア州ビバリーヒルズにあるI?M?シェート?ギャラリーの開催したオークションで売りに出されたのは、ワシントン州南西部にある中新世のウィルキス地層から発掘されたもの。この地にはおよそ600万年前の沼地の跡が残っており、植物の化石の他に、奇妙な鉱物の塊も多数発掘されている。化石業者はしばしば、これらの塊を糞石(糞が化石化したもの)であると鑑定し、太古のカメやワニ、哺乳類などが残したものだろうとしている。
しかし、これらの化石が動物の排泄物であると示すものは何もない。それどころか、1993年にワシントン州にあるウィットマン大学の古生物学者パトリック?スペンサー(Patrick Spencer)氏は「Ichnos」誌に寄稿した記事で、これらは糞に似てはいるが全く異なるものであると書いている。
スペンサー氏は、ウィルキス地層で出土した糞石とされていたものを数百も集めて中を切り開いて調べてみた。本当に動物の排泄物であれば、骨、植物、消化されなかった残り物の破片などが出てくるはずだが、実際に見つかったのは菱鉄鉱という鉄分を多く含んだ鉱物だけだった。
糞石によく似た物質が形成された要因は、植物と圧力だという。スペンサー氏は、「炭化した木の幹をいくつか発見したのだが、その内部には糞に見た目がよく似た菱鉄鉱が押し込められるように詰まっていた」と話す。
沼地に積もった火山灰が粘土に変化し、その上にさらに積もった堆積物によって非常に高い圧力をかけられ、死んだ木の穴に押し込められたのではないかと考えられる。それが「歯磨きチューブから中身を押し出すように」して、曲がりくねった形を作り上げたのではないかという。
◆専門家は疑問視
糞石の正体を疑問視する専門家はスペンサー氏だけではない。カリフォルニア州クレアモントにあるレイモンド?M?アルフ古生物学博物館のアンドリュー?ファルケ(Andrew Farke)氏も、ブログ「The Integrative Paleontologists」で、ウィルキス地層で見つかった「糞石」は、単に埋没物の圧力がかかったか、あるいは有機物の腐敗によって発生したメタンガスによって泥が押し出されて形成されたものであると書いている。
I?M?シェート?ギャラリーの自然歴史部門を担当するジェイク?シェート(Jake Chait)氏は、ウィルキス地層から出土した「糞石」の正体が疑問視されていることは承知しているとしながらも、オークションに出された品は本物であると主張する。そして、客が落札した品に満足しない場合には返金に応じるとしている。
もし落札されたものが本物だとすれば、個人のバイヤーの手に渡ったということは、科学にとって重大な損失となっただろう。古生物学者にとって、糞石には文字通りその価値が計り知れないほど貴重な情報が詰まっている。
コロラド大学ボルダー校の古生物学者カレン?チン(Karen Chin)氏によれば、動物の体の化石からは得られない別の角度からの情報が、糞石などの生痕化石から得ることができると話す。
例えば、ティラノサウルス?レックスの骨はこれまでに50体以上が見つかっているが、その鋸歯の化石からは何をどのように食べたかということがわずかな情報としてしかわからない。より詳しいことを知るには、その糞を調べることだ。
一部の専門家は、ティラノサウルスが「柔らかい肉だけを食べて骨は嫌っていた」と見ているが、その糞を調べたチン氏は、「糞の中には骨も含まれており、実際には骨も含めて丸ごと食べていたのだということが分かる」と述べた。
Brian Switek for National Geographic News