勤務中、鳩尾のあたりが痛み出した。
最初は空腹時に感じるような、ちょっとした違和感でしかなかった。
しかし、時間を追うごとに痛みが増した。
会社のデスクに備えてある胃腸薬を飲んだ。
全然、効かなかった。
さらに三錠飲んだが、それでも効かなかった。
痛みを感じる部位は鳩尾のど真ん中。
胃だろうと考えた。
でも胃腸薬が効かないってことは、胃ではないのかもしれない。
同僚T氏が「胆石じゃない?」と脅かした。
胆石経験者であるT氏は、その症状を詳細に語ってきかせた。
「俺も最初は胃だと思ったんだよ。で、痛みも治まったりするから放っておいたの」
「だって俺、痛いの鳩尾だよ」
「胆石って、鳩尾が痛くなるんだよ」
「マジで!?」
「で、その内に我慢できないほど痛くなって、救急車で」
「・・・・マジで?」
結局、俺は痛みに堪えられなくなり、早退させてもらった。
帰宅しても痛みで眠れない。
とりあえずバファリンを飲んだ。
ベッドで身をよじりながら耐え、朝イチで近くの総合病院へ向かった。
受付を済ませて順番を待つ。
8時前に受付したのに9時になっても診察は始まらない。
そのうちバファリンが効き始め、眠くなってきてウトウトする。
そのせいで、せっかく回ってきた診察順を逃した。
ようやく自分の番になり、医師に詳細を伝えて問診を受けた。
ただ、その頃には不思議と痛みは退いていた。
聴診器と触診で腹を診てもらうが特に異常はない、とのこと。
でも、異常がないはずはない。
何か原因があるはずだ。
「超音波やりましょうか?」
医師の提案に頷いた。
超音波診断は心電図などと同じセクションで、内科とは別ブロックにある。
そこへ自分の受診票を出して順番を待った。
一向に自分の番が巡ってこない。
後から来たヤツがどんどん先に部屋へと入っていく。
「なんなんだ、一体!?俺の問診票、見落としてるんじゃないの?」
ようやく俺の名前が呼ばれた。
診察室のドアから顔を覗かせた女医を思わず睨んでしまう。
部屋入るとシャツをめくって腹を出すように言われる。
あと、ズボンのベルトも外すように言われる。
細長いベッドの上に横になる。
腹に温かいジェルみたいなのを塗られてから先の丸い棒状のもので鳩尾をグリグリやられる。
「はい、息吸って、止めて」
言われた通りにするが、グリグリが痛い。
しかも執拗に同じ所を何度も何度も、力いっぱいグリグリやられる。
(こいつ、さっき俺が睨んだから復讐してんじゃないの?)
そんな猜疑心が芽生え始める。
すると女医がドSに思えてくる。
(ここで俺にMっ気があれば楽しめるのかもしれない)
いや、無理だ。痛みの方が勝っている。
それにしても長い。こんなに同じ所を何度もチェックしなければならんのか?
だんだん心配になってくる。
何か病巣を見つけたのではないか?
それを確実に診察医に伝えるため、念入りに検査しているのではないか?
ひょっとすると、癌か?
癌が腹部全域に広がってるんじゃないか?
この執拗さは、そういうことなんじゃないか?
俺もじきに50だ。
大病して命を落とす可能性だって多分にある年齢だ。
どうすんだ、手術出来ないほどに進行していたら?
残りの日々を楽しく生きるしかないだろう。
残された日々で何をしようか?
パッと思い浮かぶこともない。
てことは、割とやりたいことが出来たのかな?
うん、やったやった。多分、好き放題にやってきたのだ。
それよりも身辺整理をしないとな。
あまり変なものを残して死にたくない。
ベッドの下に入れたままのエロDVD、好きモノ女相手に使った電マとか・・・。
HDDとかどうする?
数年前に遠距離恋愛していた女に送らせたパイオツやコーマンの写真とか。
自分が送ったポコチンの写真とか。
後者の方が恥ずかしいな。
帰ったら消そう。
しかし、まだ終わらないのか?
もう、いい加減にしてくれよ。
グリグリグリグリ、グリグリグリグリ・・・・。
何やら話し声がするので目を開ける。
いつの間にか検査している女医とは別の、さらにドS臭のキツい女医がもう一人立っていた。
今度はその女がグリグリグリグリ。
何でもう一人、登場したんだ!?
一人じゃ抱えきれないほど悪い状況なのか?
「痛いの、ここ?この辺?はい、息吸って、止めて」
おそらく十も二十も年下の女が、何で偉そうに命令口調なんだ?
(犯すぞ、てめえ・・。あぁ、痛い。ごめんなさい、もう勘弁してください)
ドS2号のグリグリは程なく終了。
腹を拭けと白いタオルだけを渡されて、1号2号共に部屋から俺を残して退出。
(てめえら、これが風俗店ならクレームものだからな!)
胸の中で毒づきながら、一人でベタつくゼリーを拭いた。
再び内科に戻り、超音波診断を踏まえた結論を待つ。
2号が出てきたことから察するに、相当ヤバいのは間違いないだろう。
癌でないことだけを祈る。
(神様、これからいい子に・・・、いいおじさんにしています。どうか、癌ではないように)
ついに俺の名前が呼ばれた。
恐る恐る最初の医師のところへ。
「胆嚢にポリープがありますね。ただ、これが痛みの原因とは考えにくい」
「そうですか」
「あとは・・・、特に異常は見当たりませんね」
「そうですか」
「どうします?薬を出すとしても胃薬くらいしか出せませんが」
「じゃ、いいです」
結局、あれほど痛かった胃痛に対して「異常なし」との診断をいただいた。
変なものを食った覚えもないし、普段から暴飲暴食などとは縁遠い。
でも、これからはさらに身体に気を遣おう。
俺はあと何十年、生きられるのかな?
とにかく、健康が何よりも大切だ。
そして、悔いの残らないように毎日を生きよう。
すっかり痛みの退いた鳩尾を擦りながら、そんなことを思った。
最初は空腹時に感じるような、ちょっとした違和感でしかなかった。
しかし、時間を追うごとに痛みが増した。
会社のデスクに備えてある胃腸薬を飲んだ。
全然、効かなかった。
さらに三錠飲んだが、それでも効かなかった。
痛みを感じる部位は鳩尾のど真ん中。
胃だろうと考えた。
でも胃腸薬が効かないってことは、胃ではないのかもしれない。
同僚T氏が「胆石じゃない?」と脅かした。
胆石経験者であるT氏は、その症状を詳細に語ってきかせた。
「俺も最初は胃だと思ったんだよ。で、痛みも治まったりするから放っておいたの」
「だって俺、痛いの鳩尾だよ」
「胆石って、鳩尾が痛くなるんだよ」
「マジで!?」
「で、その内に我慢できないほど痛くなって、救急車で」
「・・・・マジで?」
結局、俺は痛みに堪えられなくなり、早退させてもらった。
帰宅しても痛みで眠れない。
とりあえずバファリンを飲んだ。
ベッドで身をよじりながら耐え、朝イチで近くの総合病院へ向かった。
受付を済ませて順番を待つ。
8時前に受付したのに9時になっても診察は始まらない。
そのうちバファリンが効き始め、眠くなってきてウトウトする。
そのせいで、せっかく回ってきた診察順を逃した。
ようやく自分の番になり、医師に詳細を伝えて問診を受けた。
ただ、その頃には不思議と痛みは退いていた。
聴診器と触診で腹を診てもらうが特に異常はない、とのこと。
でも、異常がないはずはない。
何か原因があるはずだ。
「超音波やりましょうか?」
医師の提案に頷いた。
超音波診断は心電図などと同じセクションで、内科とは別ブロックにある。
そこへ自分の受診票を出して順番を待った。
一向に自分の番が巡ってこない。
後から来たヤツがどんどん先に部屋へと入っていく。
「なんなんだ、一体!?俺の問診票、見落としてるんじゃないの?」
ようやく俺の名前が呼ばれた。
診察室のドアから顔を覗かせた女医を思わず睨んでしまう。
部屋入るとシャツをめくって腹を出すように言われる。
あと、ズボンのベルトも外すように言われる。
細長いベッドの上に横になる。
腹に温かいジェルみたいなのを塗られてから先の丸い棒状のもので鳩尾をグリグリやられる。
「はい、息吸って、止めて」
言われた通りにするが、グリグリが痛い。
しかも執拗に同じ所を何度も何度も、力いっぱいグリグリやられる。
(こいつ、さっき俺が睨んだから復讐してんじゃないの?)
そんな猜疑心が芽生え始める。
すると女医がドSに思えてくる。
(ここで俺にMっ気があれば楽しめるのかもしれない)
いや、無理だ。痛みの方が勝っている。
それにしても長い。こんなに同じ所を何度もチェックしなければならんのか?
だんだん心配になってくる。
何か病巣を見つけたのではないか?
それを確実に診察医に伝えるため、念入りに検査しているのではないか?
ひょっとすると、癌か?
癌が腹部全域に広がってるんじゃないか?
この執拗さは、そういうことなんじゃないか?
俺もじきに50だ。
大病して命を落とす可能性だって多分にある年齢だ。
どうすんだ、手術出来ないほどに進行していたら?
残りの日々を楽しく生きるしかないだろう。
残された日々で何をしようか?
パッと思い浮かぶこともない。
てことは、割とやりたいことが出来たのかな?
うん、やったやった。多分、好き放題にやってきたのだ。
それよりも身辺整理をしないとな。
あまり変なものを残して死にたくない。
ベッドの下に入れたままのエロDVD、好きモノ女相手に使った電マとか・・・。
HDDとかどうする?
数年前に遠距離恋愛していた女に送らせたパイオツやコーマンの写真とか。
自分が送ったポコチンの写真とか。
後者の方が恥ずかしいな。
帰ったら消そう。
しかし、まだ終わらないのか?
もう、いい加減にしてくれよ。
グリグリグリグリ、グリグリグリグリ・・・・。
何やら話し声がするので目を開ける。
いつの間にか検査している女医とは別の、さらにドS臭のキツい女医がもう一人立っていた。
今度はその女がグリグリグリグリ。
何でもう一人、登場したんだ!?
一人じゃ抱えきれないほど悪い状況なのか?
「痛いの、ここ?この辺?はい、息吸って、止めて」
おそらく十も二十も年下の女が、何で偉そうに命令口調なんだ?
(犯すぞ、てめえ・・。あぁ、痛い。ごめんなさい、もう勘弁してください)
ドS2号のグリグリは程なく終了。
腹を拭けと白いタオルだけを渡されて、1号2号共に部屋から俺を残して退出。
(てめえら、これが風俗店ならクレームものだからな!)
胸の中で毒づきながら、一人でベタつくゼリーを拭いた。
再び内科に戻り、超音波診断を踏まえた結論を待つ。
2号が出てきたことから察するに、相当ヤバいのは間違いないだろう。
癌でないことだけを祈る。
(神様、これからいい子に・・・、いいおじさんにしています。どうか、癌ではないように)
ついに俺の名前が呼ばれた。
恐る恐る最初の医師のところへ。
「胆嚢にポリープがありますね。ただ、これが痛みの原因とは考えにくい」
「そうですか」
「あとは・・・、特に異常は見当たりませんね」
「そうですか」
「どうします?薬を出すとしても胃薬くらいしか出せませんが」
「じゃ、いいです」
結局、あれほど痛かった胃痛に対して「異常なし」との診断をいただいた。
変なものを食った覚えもないし、普段から暴飲暴食などとは縁遠い。
でも、これからはさらに身体に気を遣おう。
俺はあと何十年、生きられるのかな?
とにかく、健康が何よりも大切だ。
そして、悔いの残らないように毎日を生きよう。
すっかり痛みの退いた鳩尾を擦りながら、そんなことを思った。