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「旦那」の語源だそうだ。意味は「施し」で英語のgiveに相当するらしい。

昨日、同僚のスリランカ人、C氏主催のカレーパーティーに参加した。
前回のカレーパーティーにも参加したのだが、彼の友人の作る本場のカレーは辛すぎて、たくさん食べられなかった。それでも今回、再び参加を決めたのはカレーの前に「ダーナ」と呼ばれる日本の「法事」のようなものが催されると聞いたからだ。
この機会を逃せば、俺がスリランカの宗教行事に参加することはまずないだろう。そこで参加してみることに決めたのだ。

夜勤明けの帰り道、357号線は異常に混んでいた。後で知ったことだが、アクアラインがマラソンのために封鎖されていたかららしい。俺はてっきりディズニーランドへ向かう客が起こした事故渋滞だろうと舞浜の手前で環7へ逸れて京葉道路で船橋へ帰った。家に戻ってもゆっくり出来ないので直接C邸へと向かった。

場所は船橋市役所の近くだが、滅多に市役所へなど行く用事もない。近くまで行くと大きなタワーマンションなんかが建っているのが見える。国道14号線を走りながら「おいおい、あれかよ!?」と一人で驚いていたのだが、実際のC邸は新築マンションではあるものの、もっとこじんまりした建物だった。

待ち合わせのマンション前の公園に少しずつ仲間が集まり始め、約束の時間を過ぎても本人が現れないので直に家を訪問することにした。大きな自動ドアをくぐり、部屋番号を押すと奥さんがモニターフォンに出た。すぐに二枚目の自動ドアが開錠されてマンション内に入ると、そこは外見からは想像できないほどの広い待合スペースになっていて、テーブルを挟んで向かい合わせにソファが置かれたセットが3組ほど並んでいる。さらに驚いたのは女性のコンシェルジュがホテルの受付カウンターほどのスペースに立っているのだった。

「マジかよ!?」、「すげえな」と似たような給料を貰っているはずの同僚たちは口々に驚きの声を上げた。Cもおそらくスリランカでは相当な資産家の息子なのだろう。そして奥さんも二児の母でありながら仕事をしているため、ツインカムパワーが発揮されているのだ。

「あれ、絶対何か副業やってますよね?」
「俺はドラッグディーラーだと睨んでいる」
そんな冗談を言い合う内に本人登場。玄関の広いロビーから屋外のガーデンスペースへ出ると、外からは分からなかったが建物は扇形になっており中庭に向かうコンコースに沿ってやしの木が並んでいる。

「ちょっとこれ、舞浜のホテルみたいじゃない?」
「だよね、俺もそう思った」
コンコースの先にある中庭の中央に集会場として使われる円形のガラスハウスが建っている。その中でスリランカのご友人らがパーティーの準備をしているのが見えた。ダーナは家でやるというので、俺たちは部屋の方へと移った。玄関脇の4畳ほどのスペースで小一時間待たされ、ようやくお坊さんが到着。様々を整えてから、ようやくダーナが始まった。

もちろんお経はスリランカの言葉なので何を言っているかは全く分からない。ただ、自分の家の法事でも坊さんのあげるお経は意味不明なので一緒だ。ただ、日本のお経がワンツー、ワンツーの2拍子なのに対して、スリランカのそれはシンコペーションを含んでおり、二名によるデュオあり、ソロパートありで妙なグルーブが生まれていて夜勤明けの疲れた脳みそに妙に心地良いトランス状態をもたらした。俺は頭の中に大切な人を思い浮かべた。両親、兄、兄嫁、娘、元嫁、叔父叔母、従姉妹、友人など、皆の幸せを合わせて祈願した。お前の幸せも祈っておいてやったぜ。

お経をあげ終えたお坊さん二名には食事が振舞われる。それぞれの坊主の前に白米を盛られた大きな皿が置かれている。そこにCを含むスリランカの友人らが床に頭をこすり付けるようにして近づき、数種類のカレーを順に添えていく。調子に乗って俺もカレーの皿を手に坊主の前に歩み寄って、すでにたくさんのカレーや何やらが盛られた皿の上にカレーを上掛けしてやった。スリランカの坊さん、笑っていたよ。

その後も食後のフルーツ、デザートなど、これでもかというほどの食事が振舞われた。主食のカレーを食べる際、当然彼らは素手で食べる。その汚れた手を何度も何度もスリランカ人たちはフィンガーボウルを差し出しては上から水をかけて洗ってあげていた。

食後は再び、お経の時間となる。その時に坊さんも含めて来席している全員を一本の白いタコ糸で結ぶ。「結ぶ」というのは、長いタコ糸を順に一人ひとりの前へ通して合掌している人々の親指の下をくぐらせるのだ。タコ糸は普通のものではなくて、等間隔にちょっとだけ編んである部分があって、読経の後で等間隔に切った糸を坊さんに手首に巻いてもらう。ミサンガに近いが「お守り」のようなものだとCは説明していた。

ダーナが終わり集会場へ。カレーパーティーから参加する仲間たちも、ボチボチと集まり始めた。10時15分に待ち合わせで、カレーを食べる頃には13時を回っていた。今回のカレーは専門店に用意させたようで3種類で各50人分ほどあった。前回の自家製とは違って辛さもマイルドで美味しかった。もちろん素手で食べた。「たくさん食べてね」とCは言ったが、2皿弱程度で満腹となった。
大量のビールも用意されていたが車で来ているので一本だけにしておいた。そろそろ眠くなってきたので14時過ぎに俺は退席することにした。

帰宅してすぐに就寝し、目が覚めてから「ダーナ」について調べてみた。基本的な概念は、おそらくこういうことだ。

「人は他人に『与える』ことにより成長し、社会貢献し、そして社会的立場を確立する」

なるほど。坊さんにあれだけの食事を提供し、手まで洗ってやり、最後には貢物のような物まで持たせていた。その貢物(おそらく布地だと思う)の上には祝儀袋が乗っていた。これは「坊さんからのダーナ(施し)」ではなくて「Cのダーナ(施し)」なんだな。

日本には「情けは人のためならず」ということわざがある。キリスト教では「与えよ、さらば与えられん」と説く。ビートルズは「あなたが得る愛は、あなたが与える愛に等しい」と歌った。
誰かに何かをしてあげること。自分ばかりが欲しがるのではなく、まずは他人に与えること。そういう生き方をしなくてはいかんのだな。

ダーナ、参加してみて良かったよ。学ぶべきことは、まだまだたくさんある。

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