「隊長、彼女からメール来ませんね」

「うむ・・・。やはり無理があったか」

「信用されてないんじゃないですか?」

「そうかな。もう6回も通ったのにな」

「何で、メアドなんか乗せたんですか?」

「だって週末にだけ、のこのこ店に出かけて行っても埒が明かないだろ?」

「いいじゃないですか、それで」

「お前、将棋さしたことあるか?」

「ありますよ、子供の頃に兄や友人となら」

「じゃ分かるよな。歩ばかり動かしてたって、しょうがねえってことよ」

「ま、そうですけど」

「局面を動かすには、角や飛車も使わねえと。ドラマが進まねえよ」

「今、そのタイミングなんですかね」

「どうかな。イケそうな気がしたんだけどな」

「警戒されちゃいますよ」

「ま、それならそれで構わん。何事も動いてみないと分からんからな」

「でも、吉岡からメールがありました」

「誰だ、それ?」

「高校の同級生です。昨夜、メールが届かないって第三者を通して連絡があったんで」

「そうか。携帯を替えてから、誰にも新アドレスを教えてないからな」

「何度メールしても届かないって」

「当たり前だ。アドレス、変わってんだから」

「どうして周囲にお知らせしないんですか?」

「だって、親しい仲間ならFacebookかLINEで済んじゃうだろ」

「・・・そうですけど」

「それに、誰にアドレス変更のお知らせをしようかとか、考えるのも面倒くさいだろ?」

「一斉配信すればいいじゃないですか」

「すると、今となっては誰だか分からないネーチャンにお知らせしちゃったりもするじゃん」

「それ、ありがちですよね」

「だろ?だからいいんだよ、放っておいて。重要な用事があれば電話してくるよ」

「そうでしょうけど。そう言えば『おー、やっと繋がった』って嬉しそうなメールでしたよ」

「誰から?」

「吉岡からです」

「そんなメールを待ってるわけじゃねえからな」

「確かにタイミング的に、吉岡、今じゃないですよね」